はらだみずき 『やがて訪れる春のために』



              2022-03-25


(作品は、はらだみずき著 『やがて訪れる春のために』    新潮社による。)
                  
          

 
初出 「波」2019年1月号〜12月号 単行本化にあたり、加筆・修正。
 
本書 2020年(令和2年)9月刊行。

 はらだみずき
(本書による)

 千葉県生まれ。商社、出版社勤務を経て作家に。2006年(平成18年)「サッカーボーイズ 再会のグランド」でデビュー。「サッカーボーイズ」シリーズの他に、「海が見える家」「海が見える家 それから」「帰宅部ボーイズ」「ホームグラウンド」「最近、空を見上げていない」「ここからはじまる」「あの人が同窓会に来ない理由」「銀座の紙ひこうき」などがある。

主な登場人物:

[村上家]

父親 健一
母親 典子
(のりこ)

保険会社勤め、茨城に単身赴任、週末に帰ってくる生活。祖父母と千葉県佐倉で二世帯同居していたが、二世帯住宅を建てる計画途中意見対立、幕張のマンションに引っ越す。
・典子 ハル達と同居の時代から、 ハルとは折り合いよくなかった。

娘 真芽(まめ)
弟 樹里
(きさと)

都内の女子大家政学部を卒業、洋菓子メーカーに就職するも、総務部配属で途中退社。ひとりアパート暮らし、25歳。 子供の頃からの夢カフェを開くに向かって・・・。
・樹里 高校卒業後、幕張のマンションを出た。

祖母 ハル
祖父 義一(没)

佐倉の家に住むも、祖父が亡くなった後、大腿骨骨折で入院。
ルビー小体型認知症があり、佐倉の家に戻るのは無理と真芽の両親や叔母の良枝は考えている。
庭は広く、沢山の花や木があったが・・・。
・おじいちゃん 穏やかで口数の少ない人だった。

叔母 良枝(よしえ) ハルの娘。ハルを療養施設に入れるため、佐倉の家を売却しようと・・・。歯に衣を着せぬタイプ。
吉村さおり

学生時代からの真芽の友人。パティシエ専門学校に通う。
真芽とカフェを開く考えに賛同、一緒にやっていくと考えていたら・・・。

小宮克己(かつみ)

真芽と同期入社。コーヒー豆の自家焙煎が趣味。
真芽は付き合っていたと思っていたが・・・。

茄子(なすこ)
<ナスビー>
図書館司書、市の職員。小学6年2組の時の同級生。色白面長の瓜実顔。当時から世話好きお節介なタイプ。
遠藤君

小学5,6年生の時の真芽のクラスメイト。 真芽にとって初恋の人。遠藤生花店の息子。
千葉大の園芸学部を卒業。今はホームセンターで働いている。

小川慈郎
<ジローさん>

ハルの隣の家に住む一人暮らしの老人。菜園をやっている。
人付き合いが悪い、かなりのケチの噂。

あずきちゃん

時々庭に遊びに来るおかっぱ頭の小学3年生の女の子。
ハルばあの友だち。

加治木老人 歴史好きで史跡を巡り、徒歩で成田山に向かう途中、気分悪くなり、真芽がハルの家で世話することで知り合う。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 衝動的に会社を辞めた真芽は、入院した一人暮らしの祖母・ハルの代わりに、かつて自分も住んでいた家の庭の様子を見にいく。だが花々が咲き誇ったはずの庭は、荒れ果てていた…。認知症患者をめぐる家族と、枯れた庭。一筋縄ではいかない両者の、再生の物語。

読後感:

 主人公の村上真芽(まめ)。
 ハルばあをこよなく愛している真芽の、優しい気持ちがひしひしと伝わってくる。 認知症、それもレビー小体型ということで、ハルばあの意味不明な言葉に、幻視を見ているのかと納得するも、次第にそうではなく、実際の人なり、現象があってのことではと誤解を解いたり。
 でも認知症の症状があるような話もある。

 大腿骨骨折で入院、リハビリをこなすハルの気持ちを思うと、「家に帰りたいんでしょ?」とは聞けない真芽。真芽自身も会社を退職し、夢であるカフェを開きたいとの思いと、ハルばあの荒れた庭を、ハルが戻ってこれるように手入れに励む姿、それを応援してくれる遠藤君やお隣のジロー老人との交流。世話好きのナスビーの存在、そして可愛らしくもちょっぴり生意気なあずみちゃんの存在。

 心温まる話が好ましい。一方で現実問題として、両親の言葉、そして叔母の良枝の存在も現実味を感じさせる。
 読んでいて涙が溢れるシーンも。
 真芽が小さい頃一緒に住んでいた、今は廃れた佐倉のハルばあの家の中を調べるシーン。
「廊下の先、真芽たち家族が使っていた部屋。両親の部屋は使われている様子はない。子供部屋、ほぼ当時のまま手つかずに残されていた。まるで小学生時代にタイムスリップしたみたいだ。ハルは、祖父と共に待っていたのだ。祖父が亡くなったあとも、あの日からずっと、私たちが帰ってくるのを」

 ユーモア溢れる話にも好意が湧く。
 ナスビーが、真芽が遠藤君を好きなのを聞き、結婚はしない方がいいと。なぜなら結婚したら“えんどうまめ”になっちゃうと。笑っちゃった。


余談:

 遠藤君は遠藤生花店の息子で、小さい頃から花に囲まれ、千葉大の園芸部卒と言うことで花や木に関する事情や名前に詳しく、さらにハルばあの庭は広く、色んな花や木々が植えられていたこともあり、色んな名前の花や草の名前が出てくる。
 定年退職後、ウオーキングや散歩で木々や花の名前を調べたこともあり、思い出したり、改めてネットを見たりして楽しい読書になった。
 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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