原田マハ著 
            『楽園のカンヴァス』



                 
2013-02-25


(作品は、 原田マハ 『楽園のカンヴァス』    新潮社による。)

             
 

 初出 「道新Today」に1998年1月から2001年9月まで連載したものに加筆訂正。
 本書 2002年(平成年)9月刊行。 第25回山本周五郎賞受賞作品。

 原田マハ:(本書より)

 1962年、東京都小平市生まれ。関西学院大学文学部日本文学科及び早稲田大学第二文学部美術史科卒業。マリムラ美術館、伊藤忠商事、森ビル森美術館設立準備室にそれぞれ勤める。森ビル在籍時、ニューヨーク近代美術館に派遣され同館に勤務。その後フリーのキュレーター、カルチャーライターに。2005年「カフーを待ちわびて」で第一回日本ラブストーリー大賞受賞、デビュー。その他の著作に「一分間だけ」「さいはての彼女」「キネマの神様」「翼を下さい」「インディペンデンス・ディ」など。本書は著者の本領とも言うべき美術の分野に初めて真っ向から挑んだ長編小説。 

主な登場人物:
ティム・ブラウン 今はニューヨーク近代美術館MoMAのチーフ・キュレーター(学芸部長)。アシスタント・キュレーター時代、バイラーから招待状を受け取り、早川織絵とルソーの「夢をみた」の真贋鑑定を競うことに。

早川織絵
娘 真絵(まなえ)
父親
母親

2000年時点大原美術館の監視員、43歳。高校の時パリに、帰国子女。ルソー研究の第一人者。
父親は大手商社勤務、フランス支社長勤め、不虞の交通事故で他界。母親は夫の駐在でニューヨーク、パリに住み高級アパートに住む。
アメリカで生まれ育った織絵は幼い頃から美術鑑賞を親しむ。
織絵はひとりで真絵を産む。

コンラート・バイラー

スイス・バーゼルコンラート・バイラー財団の理事長。
伝説のコレクター。特別にアンリー・ルソーを偏愛していて「夢をみた」の真贋鑑定にふたりの鑑定人(ティム・ブラウンと早川織絵)を招待する。
・エリク・コンツ バイラーに長く仕える弁護士で代理人。腹黒さを秘匿している。

トム・ブラウン

ティムの上司。チーフ・キュレーター。
MoMAにはルソーの作品「夢」がある。

アンリ・ルソー

20年もの間パリ市入市税関の小役人を勤め、休日に絵を描く生活。40歳の時絵画を真剣に制作し始め、晩年の作品に「夢」がある。1910年9月に没。「夢をみた」もルソーの作か?

パブロ・ピカソ 当時モンマルトルの丘のおんぼろアトリエ長屋に住む。アンリー・ルソーの理解者の一人。ヤドヴィガに「本気であの人の女神になってやれよ。それであんたは永遠を生きればよい」とアドバイスする。

ヤドヴィガ
夫 ジョセフ

アンリー・ルソーの作「夢」「夢をみた」にみるモデル。
アンリー・ルソーは実際のモデルがいないと描けない。ヤドヴィガに夢中・・・。夫のジョセフ、ルソーの絵を見て素晴らしい絵であることを感じ、せっせと尽くす。

アンドリュー・キーツ トム・ブラウンと双璧の近代美術史の世界的権威。アンリー・ルソーの1910年作“夢をみた”に真筆との証明を付ける。
ジュリエット・ルルー コンラート・バイラーのたった一人の孫。祖父であるバイラーは孫が美術関連の仕事に就くことを認めず。祖父のコレクションの闇を暴くため家を出てインターポールになる。
ポール・マニング 世界最大のオークションハウス「クリスティーズ」のニューヨーク試写印象派近代美術部門のディレクター。

物語の概要: 図書館の紹介文より

 それは真っ赤な贋作か、至高の名品か。屋敷の奥深く、秘められたカンヴァスの前で若き研究者2人が火花を散らす…。名画の真贋に迫る、世界の美術界を巻き込んだ傑作アートミステリー。

読後感

 この作品、ミステリーとしてもおもしろいが、ルソーとピカソの美術史としても知らなかったことがその人物像、作品が出来上がってきた背景とか歴史を知ることの喜びもなかなかのもので、今まで読んだことのなかったフィールドである点非常におもしろく読めた。
 
 ある古書を一日一章ずつ読み進む中で美術史の面と、実世界の二人のキュレーター(学芸員)の対立、そして周りを補足する内容がこれまた興味深い。
 著者はいったいどういう人物なのかという疑問に動かされ、経歴を調べてみてなるほどと頷ける。

 さて繰り広げられる7日間の出来事、古書の中の物語も興味が湧くし、その間のティムと織絵の間の美術面と共に、人としての恋、思いやりのやりとり、はたまた裏で繰り広げられるコンツの腹芸にも似た腹黒い行為、ルソーとピカソの作品を愛するorお金がらみのことからくる思惑と略奪戦、そしてクライマックスに近付くに従って静に盛り上がっていくルソーとピカソの関係、ヤドヴィガとジョセフの間のこと、ヤドヴィガとルソーの間の情熱など最終日の決着がどうなるかのいくえは当然だが、興味が尽きない。

   

余談:

 前衛的と見られる作品に対する意味合いを知ることから、今まで感じなかった絵の本質を知ることにより、見方が少し変わって新たな気持ちで接することが出来るようになったかな。

                   背景画はルソーの「夢」の絵(ニューヨーク近代美術館MoMA所蔵)。

                               

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