葉室麟著 『蜩の記』







              
2012-01-25



(作品は、葉室麟『 蜩の記 』(ひぐらし) 祥伝社による。)

             
 

 初出 月刊「小説NON」(祥伝社発行)平成22年11月号から23年8月号まで、「秋蜩」と題し連載したものに、著者が刊行に際し、加筆、訂正したもの。
 本書 2011年(平成23年)11月刊行。第146回直木賞受賞作品。

 葉室麟:

 1951年福岡県北九州市出身。西南学院大学文学部外国語学科フランス語専攻卒。 地方記者、ラジオニュースデスク等を経て、2005年「乾山晩愁」で歴史文学賞受賞。 2007年「銀漢の賦」で第14回松本清張賞など。
 
主な登場人物:

檀野庄三郎

城中での喧嘩騒ぎで死罪になる所を格別のお慈悲により罪を免じられ、家督を譲り、隠居。 向山村に家老命により幽閉されている秋谷のもとで家譜編纂の手伝いと見張り役の使命を受ける。
☆7年前の事件:
お由の方毒殺のお家騒動があり、秋谷が小姓(赤座弥五郎)を斬りお由の方を連れ逃走、一夜をお由と過ごしたことで不義密通の疑いをかけられる。
秋谷とお由は柳井家の当時、お由の父親が柳井家の中間として仕えていて知り合い。

戸田秋谷
(しゅうこく)
妻  織江
長女 薫
(16−17歳)
長男 郁太郎
(10歳)

勘定奉行を務めた柳井与市の四男、馬廻役戸田惣五郎の養子に入り、順右衛門と称した。 号は秋谷。
先代藩主兼通の命で三浦家譜編纂を手がけていた。 7年前の事件で向山村に幽閉され家譜編纂を続け、10年後に切腹することを命じられている。
家譜編纂の亡備録として “蜩ノ記” と言う日記を記している。

中根兵右衛門
父 中根大蔵

家老にまで上り詰め、権勢を誇っている。
お美代の方派の人物。 播磨屋と結託し私腹を肥やす。
父親の大蔵は用人として義兼や兼通の代にもその地位失わず。
戸田秋谷を郡奉行、ひいては江戸屋敷の用人に推していた。

藩祖 三浦兼保 大阪の人で兄が亡くなり家を継ぐ。
兄の嫡子秀治様元服後も家督を継がせず、本家とする。
五代目藩主
 三浦義兼

病弱、酒色にふけり贅沢三昧。
<辛丑(しんちゅう)義民>事件あり。
別荘に隔離され、嫡男兼通に家督相続のたくらみ起こる。

六代目藩主
 三浦兼通
 (順慶院)
正室:お貞の方
側室:お美代
側室:お由

学問を奨励、領内の殖産興業にも心を傾けた名君の誉れ高い。
47歳で急死。
秋谷が小姓を斬ったことに対し、家譜編纂に取り組んでいた戸田秋谷には10年後に切腹することと期限を切って家譜編纂を続けるよう命じていた。

七代目藩主
 三浦義之

兼通とお美代の方の嫡男。
お由の方の事件で7代目藩主に。

お由(よし)の方
(松吟尼)

三浦兼通の側室、秋谷との密通の罪で尼に。
桜を見に行ったとき、順慶院に見初められ、赤座与兵衛の養女として側室となる。 赤座弥五郎は与兵衛の五男。

お美代の方
(法性院)

西光院(藩祖兼保にとって甥、仏門に入る前の名は三浦秀直)の娘。
分家である三浦秀治の子孫。
素性が問題に・・・。

水上信吾 家老中根兵右衛門の甥。 檀野庄三郎とは藩校で文武を競った間柄の友。 城中で庄三郎との喧嘩沙汰により負傷、江戸に学問の道を選び江戸に出る。
慶仙和尚 向村山の長久寺の和尚。枯淡、清雅の風格を備え藩主の崇拝を得ている。
向山村の村人たち

・万治(父)と子の源吉、お春
 源吉と戸田郁太郎は同じ年頃で友達
・源兵衛(父)と子の市松
 鎖分銅を扱う腕がある。

◇ 物語の概要: 図書館の紹介より

    幽閉先での家譜編纂と10年後の切腹を命じられた男。 何を思い、その日に向かって生きるのか…。 命を区切られた男の気高く凄絶な覚悟を穏やかな山間の風景の中に謳い上げる、感涙の時代小説。

読後感:
 
 時代小説にはお家の跡目相続にまつわる話、武家と百姓達との年貢のことなどにまつわる諍いが定番である。この作品にもお家相続にまつわる怨みが背景にあって一種のミステリー調の筋書きで展開する。
 一方で<三浦家家譜>編纂の手助けと監視役の命を受けた檀野庄三郎が戸田秋谷とその家族(特に娘の薫と息子の郁太郎)との交わり、秋谷の清新さの人となりに触れ感化され、なんとか切腹の助命ができないかと働くあたりが心動かされる。

 ところでたんたんとした運び、次第に切腹の期日が迫ってくるのだが、緊迫感が今ひとつ盛り上がってこない。すがすがしさはあり、悪人っぽい人物もそれほどどぎつさもなく、感情移入できる人物にも至らないところが物足りない。
 藤沢修平作品の優しさ、切なさ、風情とか、山本周五郎作品に出てくる人物の魅力さを期待していたが、ちょっと望みすぎか。
 最後の方にきて家老との郁太郎、庄三郎の対決、家老と秋谷の対決の場面にきてようやくきりりとした雰囲気がみなぎってきた所は印象に残った。

   


余談:
 
 最初の方は人物が沢山出てきたり、事件・騒動が出てきたり、その年代の時系列もよく分からず、関係がよく分からなかったりで理解するのに手こずった。やはり登場人物や時系列の説明を入れておいてくれないと不親切であろう。
 物語の中にすんなりと入っていける環境が整っているとそれだけで身近なものと感じられるものである。

余談2:

 1/18日の新聞に第146回直木賞に本作品が受賞したと記されていた。五度目の候補作品に上がっていてやっと受賞の60歳という。 受賞の前にこの作品を図書館に購入依頼、予約をして一番で手に入れたのにも感無量である。
 以前からこの作家の作品には清楚で気品溢れる感じを抱いて好感を持っていたが、受賞作品となりうれしい。
その割りに読後感の内容はちょっとまずいかなと思ってみたり。

          背景画は越前松平家家譜の表紙フォト。(福井市郷土歴史博物館資料より)



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