葉室麟著
              『柚子の花咲く』





              
2010-09-25



(作品は、葉室麟著『柚子の花咲く』 朝日新聞社による。)

            
 

 本書 2009年8月刊行。

葉室麟:

 1951年福岡県北九州市出身。西南学院大学文学部外国語学科フランス語専攻卒。地方記者、ラジオニュースデスク等を経て、2005年「乾山晩愁」で歴史文学賞受賞。2007年「銀漢の賦」で第14回松本清張賞など。



主な登場人物:
 
筒井恭平

日坂藩士、3年ぶりに江戸から帰国、70石の郡方20歳。
12歳から3年間青葉堂村塾に通っていた。その後藩校に。
梶与五郎、孫六殺害の犯人と干拓に関わる境界争いの覚え書きの在処を探して活躍する。

穴見孫六 日坂藩士、恭平の友達。 90石の勘定方20歳。 恭平と同じ青葉堂村塾に通い、恭平より上位の成績で藩校に。
他に青葉堂村塾生たち

儀平: 庄屋の子、お咲きに関心あったが、おようと結婚する。
およう: 恭平に好意を寄せている。
咲き: 貧しい百姓の子、賢いがおとなしい。

永井兵部
長男 利右衛門次男 勝次郎
三男 清助
(勘当された後の名を梶与五郎)

鵜ノ島藩の名家老。厳格で清廉の人。
長男はすでに妻帯者で子供も。長男、次男とも秀才の誉れ。
次男の勝次郎、探索方で藩の目付の一人。
清助、勘当されて永井家を去り、隣の藩(日坂藩)の青葉堂村塾という郷学の教授となり、子供達に教えていたが、両藩の境界争いのことで殺害される。

土屋新左衛門
(旧姓 平沢重四郎)
妻 さなえ

鵜ノ島藩郡代、永井兵部に取り入り出世、土屋家に婿入り。平沢重四郎と名乗っていた時藩校で永井清助と机を並べ親しくしていた。
さなえは幼い頃清助と許嫁であったが、清助が勘当され壊れた。 さなえが男なら偉丈夫。

お琴 永井清助と言い交わした仲だが清助の父兵部に申し出たが許されず。 土屋新左衛門の囲われものに。 そのことを妻さなえが叱責、鮎川宿の一善飯屋の女将に。
吉乃 永井清助の母、油問屋高田屋の寮で永井兵部の政事の打ち合わせの世話役を任せられている。

(補足)
郷学: 藩校が武家の学校に対し、武士だけでなく百姓町人も勉学が出来る学問所。

物語の概要:(図書館の紹介より)
 
  少年時代に梶与五郎の薫陶を受けた筒井恭平は、梶が隣藩で殺害された事実を知り、真実を突き止めるため鵜ノ島藩に潜入するが…。愛とは、学ぶとは、そして生きる意味とは。魂を揺さぶる感動の長篇時代小説。


読後感:

 この著者の作品「オランダ宿の娘」を先に読んでいたが、本作品を読みながら、記述の仕方、表現の調子に葉室調ともいえる雰囲気が覚えられる。淡泊で、事実を淡々と表現している様子で、盛り上がりに欠けるきらいはあるが、心に染みるような所もあり、不思議な感じである。

 時代小説であることで刑事物とも違うし、藤沢周平のような表現のなかの情緒とかでじぃんとくるものがある風でもない。それでいて推理ものとしての内容としても面白いし、昔の好きな女性と結ばれることなく、思い、思われる結婚は望めそうにないけれど、お互いの事情が語られて気持ちが通じ合い、少しは慰められる場面は結構感動ものである。
“柚子は九年で花が咲く”の言葉に象徴されているよう。

 梶与五郎が先生をしていた頃の子供たちの間での好意、関心と大人になって実際に結婚をする時の現実との違い、そしてお互いがどのように思っていたのかを知った時にどう対応するかによって人の値打ちが判るような。潔い決断ができるかどうか。


   


余談:
 葉室麟の著書は初めてだが、文調は作家によって様々、文章から受ける印象も色々。なかなかおもしろい。

背景画は本作品の裏表紙を利用。
 

                               

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