日本の文学古典編 『源氏物語』 (その1)









                  
2006-03-25

(作品は、ほるぷ出版 日本の文学古典編 紫式部作『源氏物語』による。)

    
 

 『源氏物語』は、十一世紀初頭に紫式部が作った物語で、平安女流文学の代表作である。作中世界は、『源氏物語』の成立時より数十年さかのぼった延喜・天暦あたりの時代に設定されているともいわれ、一種の時代小説的な性格を持っている。
 源氏物語の構成は、第一部 桐壺の巻から藤裏葉(ふじのうらば)巻の三十三帖、第二部 若菜上巻から幻巻までの八帖、第三部 匂宮(におうみや)巻から夢浮橋(ゆめのうきはし)巻までの十三帖からなっている。今回は、第一部にあたる(一)から(三)を取り上げた。 文学に興味をもつものとしては、教養の意味からも一度は読んでおきたいものであった。

 主な巻に出てくる光源氏に関係した人物の概略:

桐壺の巻  桐壺の帝と桐壺の更衣の間に若宮(後の光源氏)が誕生。若宮が3才の時、更衣亡くなる。更衣が亡くなって後、帝は人柄や容貌が更衣に似ていることを聞き、藤壺の女御を入内させる。そして若宮は藤壺を母と慕う。
 高麗の相人が若宮を見て国王になる点からみると、世が乱れ民の悲しみ嘆くことがあるとしたことから、帝は若宮に源の姓を与えて臣下とすることを決意する。
 光源氏、12才で元服し、左大臣と(桐壺帝の妹に当たる)皇女である夫人との間にたった一人生まれ、大切に育てられた姫君である(年上の)葵の上と結婚する。
帚木(ははきぎ)の巻 源氏17才。頭中将、式部丞、左馬頭の三者が話をし、源氏の君が聞き役となっている女性論「雨夜の品定め」が展開される。
空蝉  紀伊の守の父伊予の介の、若い後妻の空蝉に源氏言い寄るも、「私のような身分の女には、それにふさわしい身分の夫と一緒になるもので、あなたさまとは御縁のないことです。」と拒む。空蝉は小柄で、鼻筋なども通っていなく、むしろ不美人に近いのだが、おっとりとたしなみのある感じの女性。
夕顔 (光源氏の育ての乳母である)大弐(だいに)の乳母(めのと)の病気見舞いに訪れて、ふと目に止めた白い花が機縁という全くの偶然から始まる。ひどくあきれるばかり率直でおっとりとし、思慮深く落ち着いたところはあまりないが、ひたすら若々しいとはいえ、男女の仲をまだ知らないというわけでもなく、たいそう身分が高い家柄でもない、いったいこの女のどこにこんなにまで心引かれるのであろうか? 夕顔をなにがしの院に連れ出し、物の怪の出現で正気を失った夕顔の、突然の死に直面し、心も乱れ茫然とする。
末摘花
(すえつむはな)
 故常陸宮の姫君のことについて、大輔(たいふ)の命婦の話で荒れた邸にひっそりと暮らしている姫(末摘花)のことを聞き強い関心を抱く。そのようなところにこそ美しい姫君がいるものと想像を膨らませ、命婦を訪れる。頭の中将も競って恋文を届けているようなので、源氏としても負けるわけにいかない。末摘花の部屋に忍び入り、契りを結ぶ仲となるが、後日末摘花の実際の素顔を見て、その醜い容貌に驚く。しかし、純真な心を持つ末摘花の貧しい環境を哀れに思い、何くれとなく生活上の援助を行う。
葵の上  桐壺の巻に記した女性。源氏の正妻である葵の上との仲は冷え切ったまま二人の間に心の通い合いはみられない。
しかし、そこは夫婦、ただ一人の男児夕霧を出産、その後六条御息所の生霊に祟られ26才で亡くなる。
・紫の上  藤壺の女御の兄にあたる兵部卿の宮の子供若紫(10才)を見出す。藤壺にそっくり、素性を聖(僧都)にきき、兵部卿の宮の血筋であるので藤壺にも似通っているのはもっともと思う。 自分が後見役となって育てたいと連れだし、二条の院に連れ帰る。一方、藤壺との密会で懐妊(後の冷泉帝)騒ぎを起こし、藤壺は以後源氏の前に姿を現さなくなる。そのことにつけても藤壺の身代わりに若紫に執着していく源氏。
 葵の上の喪が明け、間もなく源氏(23才)は紫の上(15才)と結婚する。六条御息所は正妻に迎えられるのかと期待もあったが、源氏の冷たい態度にあきらめ娘の斎宮と伊勢に下る。
 その後、源氏と他の女性との関係が色々あったが、次第に名実とも正妻としての地位を固めていく。
補足 藤壺、六条御息所は都での最高の貴婦人。
・明石の君  桐壺の院が亡くなり、源氏を取り巻く政治情勢は日ごとに悪くなっていた。すでに朧月夜との密会事件により、彼は除名処分(官位の剥奪)を受けていたが、更に重い流罪処分に付される危険が高まっていた。それを回避するべく三月下旬源氏は須磨へ下る。
 須磨・明石の巻で寂しい生活を余儀なくされている間に、巡り会い結婚する。明石の君(18才)は六条御息所に似て高貴な人柄であるのに、源氏(27才)は愛着を増す。みやこでは朱雀帝が病気が思わしくなく、東宮(冷泉帝)に譲位を決意、源氏を後見役にするため呼び戻す動きが出てくる。後日必ず都に迎えることを約束して都へ。
 源氏は明石の君に二条の東院入りを勧めていたが、明石の君が従わないので、ついに姫君を紫の上の養女にしたい旨を告げる。紫の上は喜び、そして明石の君もついに決断する。
朝顔の君  源氏(32才)、朝顔の君に長年の思慕を訴える。だが朝顔の君は(元来色恋には疎い人柄なのに、斎院を長く勤めているうちに、ますます引っ込み思案になって)どこまでも冷淡であった。
 そのうちに源氏と朝顔の君とのうわさは世間に広まり、それを伝え聞いた紫の上は真剣に悩む。 (朝顔の君と自分の境遇を比較すれば、朝顔の君の方がはるかに優越していること、源氏に見かぎられるときのみじめさ、源氏が自分をみくびっているのではないか等々思い乱れる。)
 源氏の再度の訪問にも、これまでの気持ちを変えるつもりはないと冷たい返事をする。 朝顔の君は恋愛とは関係のない交際を願い、また仏道に励みたいと念じているのである。
玉鬘(たまかずら)  源氏(35才)は死んだ夕顔のことがまだ忘れられないでいる。ところが夕顔の遺児の玉鬘(21才)が、実は九州の地で成人していたのである。玉鬘を引く取るため、花散里の住む六条の院北東の町の一画に部屋を用意し、花散里に後見を頼んで一緒に住んで貰うことにした。
 玉鬘のもとには若い公達たちからの恋文が数多く寄せられるようになる。源氏は、保護者めかして女性の側の対応の仕方を教えるのだが、いつか自分自身が恋のとりことなり、次第に親の振りをし切れずに玉鬘への恋心を打ち明けてしまう。男女間の愛情ということにまだ目覚めていない玉鬘は、これを拒み、ひたすら疎(うと)ましく思うとともに、周囲に対してはあくまでも親子を装うこの危険な芝居の、深いいかがわしさに、憔悴(しょうすい)していく 。
雲居の雁(かり)  源氏と葵の上との間に生まれた若君、夕霧は祖母の大宮にもとで成長し、十二才となり元服した。源氏はよく考えた末六位という低い地位から息子を出発させ、しかも大学に入れて学問させるという、一見、回り道を歩ませることにした。
 これに対し、内大臣は自分の娘の弘徽殿の女御が、斎宮の女御に敗れ、源氏との政権争いに遅れをとったのを悔しく思いながらも、次女の雲井の雁(かり)を東宮妃にして劣勢を挽回しようと計画していた。
 ところが、女房達のうわさ話から、雲井の雁(14才)が大宮のもとで一緒に育った夕霧とすでに相思相愛の関係にあると知り、驚く。
 
読後感:

 源氏物語の中には、源氏との色々なタイプの女性が恋愛関係として出てくるが、やはりどの女性が素敵であるか好みがある。
 自分の場合、素敵な女性のその上位の女性としては、明石の君それから、紫の上を挙げたい。それぞれの地位、立場にあって、それにふさわしい生き方が出来ている点である。
明石の君のしっかりとした考え、毅然とした態度は女性としてのすばらしさを感じるし、紫の上の精神的成長ぶりも頼もしい。
 一方、好みとしては、やはり「雨夜の品定め」に出てくるように中流の女性であり、万事につけて控えめであるのがよいというのは、昔も今も変わらないということか。
 
 さて、源氏物語を初めて読み通してみて思うことは、
・ 光源氏の女性遍歴は、根底には幼くして母に死なれ、母の面影をもつ藤壺に恋いこがれるところからはじまっているといえる。
・ 朧月夜との密会が露見して官位の剥奪を受け、自ら須磨・明石に下り、落ちぶれた時を経験することで、人間的に大きくなる。その後運がめぐってきて都に戻り、不遇の時を自分を信じてくれた人の情け、信義を大切にし、さらに政治的手腕をも発揮しはじめる。こんな所が単に平安時代の華麗なる王朝物語という視点でなく、長く源氏物語が読み継がれる要因の一端になっていると判った。
・ 源氏は一度でも逢った女のことは忘れない。
・ 源氏の相手にする女性には、取り柄のない人はいない。
・ 源氏はまめったい。


印象に残る場面:

・明石の入道が、娘の明石の君が光源氏と結婚し、都に送り出す時に告げる親子心
 自分は永遠にこの世を捨てたつもりです。あなた方はこの世をお照らしになる輝かしい御運勢がはっきりしているのですから、しばらくこうした田舎者の心をお乱しになるくらいの前世の約束があったのでしょう。天上界に生まれる人がいまわしい三悪道に帰るという、その一時の苦しみに思いなぞらえて、今日永久にお別れ申し上げます。私の命が尽きたとお聞きになっても、後世を弔う法会を営みなさるな。避けられない死別にお心を動かしなさるな。
余談:
 いつもながら感じることは、映像で見るより、活字で物語を読むことの良さは、自分の想像で人物や場面を作り上げ、その中にいることが出来る愉しさに他ならない。 音の世界もまたそのような世界であるが。
 

                    

                          

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