物語の概要:図書館の紹介より
東京都江東区豊洲は、空前の人口増と再開発に沸き立つ。人口8万人から20万人へと急成長する都市に現れてくる、日本の歪みと希望。豊洲署生活安全課の刑事・岩倉梓のもとに、数々の事件が持ち込まれる…。
読後感:
生活安全課に勤務する岩倉梓、警察小説でも刑事物でなく、殺人事件を扱わない。まだ生きた人間を扱うというのが基本であるのだが。話の中身は世の中で起きている弱者にまつわることがその中心で、現在の暗部を映し出しているようである。そんな中で梓自身の何とか被疑者の背景を理解し、考え方を良い方向に持って行けないかとひとりで悩んでしまう。そんな梓を懐深く何気ないようでいてそれとなく声を掛けていく八坂班長。
豊洲という場所の雰囲気、世の中の変化の様子を織り交ぜながら、今までの刑事物とひと味違う、ごく日常の世相を反映させた人とのつながり、人間の孤独に対する思いやりの気持ちを持つ岩倉梓の姿は、昔の人間は持っていたのに、世の中が変わってきて、薄れ、失われてしまってが伝わってくる作品になっている。
自信過剰と言われる梓も後輩の佐々との会話はまるで先輩に対するような丁寧な口の利き方がちょっと違和感を抱くも、自分は役に立っていないのではないか、認められていないのではないかと自己嫌悪に陥ってしまう。それでも被害者であったり、班長であったりの周りの人達によって励まされたり、勇気を起こさせられたりとほのぼのとした雰囲気が心地よい。
印象に残る表現:
表題の“ゾーン”の意味について
「豊洲みたいな新しい土地に、人が住み始めるでしょう。そいつは最初、ただの地域(ゾーン)なんですよ。街じゃないんだ」
「人が住んで、人と人の間に関わりが生まれまれてね。地域がそのうち、街に生まれ変わるんです。私ら警察官は、その変化を見守るのが仕事じゃないかと思うことがあります」
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