福田和代著 『ゾーン』





                2013-01-25


(作品は、福田和代著 『 ゾーン 』 角川春樹事務所による。)

              

初出 月刊「ランティエ」に2011年1月号から2011年10号
 本書 2012年(平成24年)8月刊行。

福田和代:

 1967年神戸市生まれ。神戸大学工学部卒。2007年、陸の孤島と化した関空を舞台にハイジャック犯と警察との攻防を描いた「ヴィズ・ゼロ」でデビュー。大都市停電を描いた「TOKYO BLACKOUT」で注目を浴びる。スケールの大きな着想と緻密な取材が高く評価される。近著に「スクウェアT、U」「特殊警備隊ブラックホーク」。

 主な登場人物:

共通
岩倉梓 江東区の深川警察署生活安全課の刑事。独身。
まもなく新しく新設の豊洲署に八坂斑全員(7名)が移動。
佐々敏之 梓の5年後輩の刑事。独身。
八坂恭一郎
(やさか)
八坂班班長。
山形明代 梓と同期で、女子寮で梓の隣室。料理上手で、夜は梓と
第一話 <橋向こうのかぐやひめ> 2010年8月
宮崎奈津子
子供 透也
(8歳)
摩耶
(3歳)
27歳、離婚してクラブのホステスをして二人の子供を育てていたが、行方不明に。遺体で発見される。
透也と摩耶は叔母の宮崎加寿子に引き取られる。
第二話 <樹下のひとり法師> 2010年11月
瀬戸則雄 一人暮らしの男性が自室でなくなっている。被害者は瀬戸則雄と名乗るも、住民票登録は無し。将棋は強かったと同僚の近江。
第三話 <ハーメルンの母たち> 2011年3月
黛冴子
相沢益美
(カルメン益美)
高層マンションの住人で学校法人きらら幼稚園に通う園児の母親。 桃花祭でのお料理サークルのバリキャリのボスと、専業主婦チームのボス。
第四話 <鏡の中のラプンツェル> 2011年4月
穂積美優 ストーカー被害の可愛らしい24歳の女性。カレシとも相談し、色々な手を打つも止まないで警察に相談に。
第五話 <路傍のハムレット> 2011年6月
高原弘美
横山芳子
アパートに住む52歳の主婦4月頃須田吾郎と名乗るアパートの上階に住むという30代前半の男が宮城震災の絡みで旅費を仮に騙された様子横山芳子73歳は別のマンションに住むも、5月終わりに30代男性に10万を騙し取られていた。
物語の概要:図書館の紹介より

東京都江東区豊洲は、空前の人口増と再開発に沸き立つ。人口8万人から20万人へと急成長する都市に現れてくる、日本の歪みと希望。豊洲署生活安全課の刑事・岩倉梓のもとに、数々の事件が持ち込まれる…。

読後感

 生活安全課に勤務する岩倉梓、警察小説でも刑事物でなく、殺人事件を扱わない。まだ生きた人間を扱うというのが基本であるのだが。話の中身は世の中で起きている弱者にまつわることがその中心で、現在の暗部を映し出しているようである。そんな中で梓自身の何とか被疑者の背景を理解し、考え方を良い方向に持って行けないかとひとりで悩んでしまう。そんな梓を懐深く何気ないようでいてそれとなく声を掛けていく八坂班長。

 豊洲という場所の雰囲気、世の中の変化の様子を織り交ぜながら、今までの刑事物とひと味違う、ごく日常の世相を反映させた人とのつながり、人間の孤独に対する思いやりの気持ちを持つ岩倉梓の姿は、昔の人間は持っていたのに、世の中が変わってきて、薄れ、失われてしまってが伝わってくる作品になっている。

 自信過剰と言われる梓も後輩の佐々との会話はまるで先輩に対するような丁寧な口の利き方がちょっと違和感を抱くも、自分は役に立っていないのではないか、認められていないのではないかと自己嫌悪に陥ってしまう。それでも被害者であったり、班長であったりの周りの人達によって励まされたり、勇気を起こさせられたりとほのぼのとした雰囲気が心地よい。
 
印象に残る表現

 表題の“ゾーン”の意味について

「豊洲みたいな新しい土地に、人が住み始めるでしょう。そいつは最初、ただの地域(ゾーン)なんですよ。街じゃないんだ」
「人が住んで、人と人の間に関わりが生まれまれてね。地域がそのうち、街に生まれ変わるんです。私ら警察官は、その変化を見守るのが仕事じゃないかと思うことがあります」


余談:

 作品を構成する装丁絵、挿絵が素晴らしい雰囲気を醸し出している。こんな事も単行本のうれしさでもある。
 背景画は、作品中の装丁絵を利用して。

                    

                          

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