福田和代著 『星星の火』
                







              2014-10-25



 (作品は、福田和代著『星星の火   双葉社による。)

               

 初出 「小説推理」2013年5月〜2014年2月号。
 本書 2014年(平成26年)6月刊行。

 福田和代:
 
 1967年神戸市生まれ。神戸大学工学部卒。2007年、関西国際空港を舞台に、ハイジャック犯と警察との攻防を描いた航空謀略サスペンス「ヴィズ・ゼロ」(清心社)でデビュー。専門知識を活かした取材力と高いリーダビリティが話題となる。08年には、テロリストによる未曾有の東京大停電をテーマとしたクライシス・ノベル「TOKYO BLACKOUT」(東京創元社)を発表し大好評を博す。他著書に「黒と赤の潮流」「プロメテウス・トラップ」(ともに早川書房)がある。
 

物語の概要: 図書館の紹介文より 

憎しみで“まち”は救えない…。「ヴィズ・ゼロ」での鮮烈なデビュー以降、濃密な構築力で現代社会を描いてきた著者が開く、警察小説の新たな地平線。日本と中国。まさに今のこの世界を捉えた力作。

主な登場人物:

上月千里
(こうづきせんり)
妻 朝子

警視庁生活安全部保安課主任、警部補。
上月班は千里を含めて5名。
・朝子 子供はいない。凛子のような女には軽蔑。たまにアルバイトでスペイン料理店で働く。

上月班の面々

・善田 上月より5つ年上の好人物、巡査部長。
・堀田 若手、真面目で仕事ぶり手堅い。
・西川、大田原 巨漢。

城正臣
妻 凛子
娘 ホノカ

警視庁警務部教養課内通訳業務専門部門、中国語の通訳担当。
10年前結婚、5年目に娘誕生、その後凛子に逃げられる。
公務員官舎に住み、上月の隣り。
・凛子 育児放棄し、今は都内の人気ヘアサロンでフルタイム働く(オーナー 葛城)。美人で颯爽としている。困ったときは城を頼って来る。離婚はしていない。
・ホノカ 5歳。

梁建柱

竜生九子のリーダー、31歳。国籍も戸籍も持たないはぐれ狼。池袋を中心に顔を利かしている。
・袁守芳 梁の片腕。

李済深 福建出身、拳銃と覚醒剤所持で逮捕される。5年前にも入管法違反で強制送還されている。

尹行知
妻 佳恵

来日20年、日本の大学に留学、池袋の雑居ビルで中華料理店を営む、30代後半の若手経営者。他にも何店か持つ。城の情報提供者として重宝されている。梁は遠縁に当たる。
江政彦

医師、広東出身の老華僑のひとり。
・宋 老人もそのひとり。

馬美雨(マメイユ) 福建省から来た中国人、23歳。倉間と偽装結婚、2000万円の借金を残し姿を消す。
倉間治太郎 凛子が働くヘアサロン“表参道サバイブ”の大家、他にも不動産を有する資産家、痩せた老人。馬美雨と結婚。
(サイ) 株)明狼商事の金貸し。馬美雨に2000万円を貸したという相手。
中村 江戸川司法書士・行政書士事務所(代表但馬)にアルバイトの助手。行政書士の資格を取るため勉強中、中国語に通じる帰化人。

読後感:

 今まで読んだ警察小説の中でも異色な内容に感心。主人公の一人城の役柄が通訳官とは。
 さらに現在関心度の高い中国人の不法滞在の件も含め中国人の、日本という異国での生活者として、また馴染まないで中国人社会の中での世間が組み込まれていて、それが暴力的な場面ばかりでなく、切実な問題を感じさせながらも何故か感情移入していく作品に仕上がっている。

 それというのも、人の心情の機微に触れるものを含んでいることがその要因ではなかろうか。
 おもしろいのは上月と城のお互いの欠点を意識しながらもお互いを思いやるところ、凛子の凛とした気品というかしっかりとした考えを保ちながらも、夫に対しての信頼感。凛子に対して、子供を持てば母親としての生き方を持たねばという上月の妻朝子の嫌う心持ち。

 尹という中国人の誠実さ、ひっしさ、負っている表にできない運命、それを必死で助けようとする城の心根。そんなところもこの作品を魅力あるものにしている。

   
余談:
 
 表題の「星星の火」は中国のことわざで“星星之火、可以燎原”からの出典で“小さな火花でも、広野を焼き尽くすことができる”と言う意味だそうだ。 明代の張居正という悪名高い宰相が書き残し、毛沢東も1930年に知人に宛てた手紙の中で使ったという。初めは小さな勢力でしかなくとも、後には大きな反乱を起こす力になるという意味で使われる。 と
 

         背景画は池袋の中華街の雰囲気から。(池袋は中華街がひしめいているようだ)



戻る