福田和代著  『オーディンの鴉』







              
2014-08-25




(作品は、福田和代著 『オーディンの鴉』     朝日新聞出版による。)

                   

 初出 「小説トリッパー」2009年夏号〜2010年春号。
 本書 2010年(平成22年)4月刊行。

 福田和代:(本書より)

 1967年神戸市生まれ。神戸大学工学部卒。2007年、関西国際空港を舞台に、ハイジャック犯と警察との攻防を描いた航空謀略サスペンス「ヴィズ・ゼロ」(清心社)でデビュー。専門知識を活かした取材力と高いリーダビリティが話題となる。08年には、テロリストによる未曾有の東京大停電をテーマとしたクライシス・ノベル「TOKYO BLACKOUT」(東京創元社)を発表し大好評を博す。他著書に「黒と赤の潮流」「プロメテウス・トラップ」(ともに早川書房)がある。 

 

主な登場人物:

湯浅雅彦(37歳)
妻 奈緒子
娘 美沙

2年前東京地検特捜部に異動してくる。検察13年選手。
・娘の美沙は小学3年生、急性リンパ性白血病で入院中。

安見慎也(30歳) 特捜部の最若手。パソコンに強い。特捜のジャニーズ。
東京地検

・柏木洋司  特捜部の主任検事。湯浅の上司。
・仙道吾郎  湯浅と同期。5つ年上。
・小津清美 湯浅付きの事務官。安見に好意を持っている。
・相沢特捜部長、増田副部長、平田次席検事、坂田検事正

矢島誠一
妻 香澄

若手の衆議院議員。次世代ミサイル防衛システム購入に関する贈収賄疑惑があり、家宅捜索当日マンション屋上から飛び降り自殺する。
・妻の香澄は内閣官房長官塩沢康之の娘。

瓶子剛造(ひし) “最後の右翼”と呼ばれながら、政財界の暗部を泳ぎ回っている影の大物、60代。矢島議員に次世代ミサイル防衛システムの納入業者を引き合わせる。
ハジメ 安見がコンピューター・セキュリティの専門家として先生と呼ぶ人物。

補足:“オーディン”とは北欧神話の最高神。肩にフギンとムニンと名づけられた鴉が二羽止まっていて、世界中を飛び回って情報を集めてくるので、オーディンは世界中の情報を得ることができる。


物語の概要:

閣僚入り間近の国会議員が自殺。真相を追う特捜部の湯浅と安見は、ネットで、彼の詳細な行動の記録を目にする。そしてついに彼らにも差出人不明の封筒が届き始め…。監視社会の恐怖を描くミステリー。

読後感:

 個人情報を自在に入手しそれをネットに流してその人物を誹謗中傷する。それがある断面だけを見せてあたかもその人物そのものの姿であると思わせる。かつ真実でなく故意に仕組まれたもの場合はどうなるのか。

 次世代ミサイル防衛システム贈収賄疑惑で対象となる矢島衆議院議員が家宅捜索に入られる直前にマンションから飛び降り自殺をする。そしてネット上には矢島の行動がリアルに暴露されている。果たしてその情報はいったい誰が、どのようにして知ったのか。背後にうごめく組織?はいったいどういうものか。

 湯浅検事とインターネットに強い若手の安見検事がその解明に奔走する。なかなか今の世の中にマッチした恐ろしい世界の物語に引き込まれてしまった。
 果たしてこんなことが出来るのかと。

 さらに安見のことを好きに思う小津清美事務官の絡み、湯浅の娘美沙が急性リンパ性白血病で入院している所にも手が伸びてくる。湯浅も殺人容疑で追求を受け、万事休す。

 奈緒子と美沙の身辺警護のため依頼する総合探偵保障サービスの女事務長佐久間の言動は窮地に追い込まれた湯浅にとっても読んでいる者にとってもなんと安心感を与えるものか、何かほっとする感じを味わった。

余談:
 
 著者の経歴を見てなるほどと。工学部卒で作家であることに。それにしても現在の世の中のネット社会は末恐ろしいばかり。こんなものをどんどん進めていったらいずれは大変な世の中になってしまうだろうと思っても誰もとめられないだろう。行き着くところまでいってしまわないと。嫌な世の中になってしまった。
  背景画は、本書の内表紙を利用。