深町秋生 『インジョーカー』



              2020-08-25


(作品は、深町秋生著 『インジョーカー』      幻冬舎による。)
                  
          

  本書 2018年(平成30年)7月刊行。書き下ろし作品。

 深町秋生
(ふかまち・あきお)(本書による)  

 1975年、山形県生まれ。2005年、「果てしなき渇き」で第3回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。同作は映画化され、累計発行部数57万部を超えている。「組織犯罪対策課八神瑛子」シリーズは累計40万部突破。「卑怯者の流儀」「地獄の犬たち」は第19回、第20回の大藪春彦賞候補作品。他の著書に「ダブル」「猫に知られるなかれ」「バッドカンパニー」「ドッグ・メーカー」「オーバーキル」などがある。

主な登場人物:

八神瑛子(えいこ)

上野署組対課(組織犯罪対策課)係長。上野署の影の支配者。
夫雅也(新聞記者)は4年半前になくしている。自殺説を覆し、殺害犯は警察の大物OBや新宿を縄張りの暴力団と明らかにする(反目しつつ富永も手助け)。雅也を亡くしたあと警察人生を一変させる。
・課長 石丸
・井沢 八神の番頭役、右腕、巡査部長。ムードメーカー。
・花園善彦
(よしひこ) 井沢の後輩。富永への情報提供者。

富永昌弘(まさひろ)

上野署の署長。キャリア組の一員、春の人事異動で異動なしの3年目。能代や反能代派どちらにも属さず。
・妻(沙希)子は京都。先週富永は離婚を切り出される。

能代英康(ひでやす) 警察庁長官官房長。人の心や感情の揺れを読み取る技術に長けている。
殿山俊一郎 八神雅也殺しの主犯とされた大物OB。八神瑛子に謀略暴かれた後自ら命を絶って口を閉ざす。
須藤肇(はじめ)

警務部監察係の監察官。一兵卒から成り上がり。
須藤班の新たな標的は上野署組対課の女係長。
・加治屋 首席監察官。須藤の上司。能代英康の腰巾着。
・瀬戸 須藤の部下。
・折戸明菜
(おりと) 公安畑を経て監察係に。
・及川 運転手。

劉英麗 語学教室の校長。かっては売れっ子ホステス。ロシアに近い黒竜江省出身、八上より3つ年上の40才。八神の有力情報提供者。
甲斐道明

印旛会系千波組の大幹部。斐心組の組長。八神の情報提供者でもあった。
千波組:上野を中心の老舗団体。関東の広域指定暴力団の印旛会の中で大きな影響力を持つ。

有嶋章吾

千波組の組長。容態悪くなり跡目争いが浮上。
・数佐周作
(かずさ) 若頭。堅実な番頭役。武闘家。
・和泉忠成 先代の時代に有嶋と組長の座を争って敗れるも、今も長老として影響力。
・甲斐 数佐についていく腹づもり。昔気質な性格のヤクザ。

世古雄作 戸恆gの親分戸懈ィ治の若頭補佐。戸怩アそが千波組の稼ぎ頭と言われたが、殺人未遂で懲役暮らし。戸恆gは千波組から絶縁され解散に。
呂子健(リユズ ジェン)

チャイニーズマフィア。福建の出稼ぎ労働者だったが、都内の中国人社会でボスの一人。
・蔡
(ツァイ) 呂の右腕、禿げ頭の大男。川口市で自動車工場や中古車販売店を営む。手の付けられない暴れん坊。

ファン

ベトナム人。日本で稼ぐためやって来た。アクションスター顔負けの動きをする。借金を返済するだけの労働に嫌気、工場の寮を脱走し、呂に拾われる。
マイを人質に取られ呂に服従させられている。

カルマ ネパール人カトマンズ周辺の農村出身技能実習生として来日
レ・チー・マイ ファンと同じ村の友達。ダイヤモンドの原石のような女。劉英麗も欲しがっている。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 上野署組織犯罪対策課の八神瑛子が、外国人技能実習生の犯罪に直面する。日本の企業で使い捨ての境遇を受けた外国人技能実習生らが、暴力団から7千万円を奪ったのだ。だが、瑛子は夫を殺した犯人を突き止めて以来、刑事としての目的を見失っていた…。

読後感:

 中国マフィアにヤクザの抗争、そこに警察の中の派閥抗争。さらに上野署の影の支配者の評判の女デカ八神瑛子。作品の中でこれらの登場人物達が乱雑に事件をまき散らかして展開するため、なかなか焦点がつかめない。
 どうやら八神金融で情報提供者から弱みを掴み、悪を叩こうとする八神瑛子。

 彼女は夫雅也の自殺説の真相を暴露し、大ものOBを追放、しかも自身は流産、人生を一変させてそれまでの真っ当な警官から変身した経緯がある。
 斐心組の甲斐組長とは情報提供者としてだけでなく、敬意に近い感情を抱いていたが、別れを告げられ、さらに後半では襲撃され命を落とす結果に八神の心は立ち直れないぐらいに。

 一方、八神を警察官なら誰しも恐れる監察官須藤肇が上司の加治屋の命を受け、八神の醜聞を追い求め、八神の配下の井沢をおとしめて情報提供させる。
 井沢と八神の信頼関係も興味の一つ。

 須藤の父親も警官であったが、認知症になり、須藤がニセ領収書作りを拒む父親が「私は警官です!」と泣き叫ぶ姿が、作品のラストで須藤の行動に影響が出た。
 世古や呂、ファンが斐心組の事務所を襲うシーンといい、数佐たちとの壮絶な死闘のシーンといい、好きな場面ではないけれど所々に見られる感情移入の場面が読者を引きつけているのはさすが。


余談:

 シリーズ第1作「アウトバーン」が米倉涼子主演でテレビドラマ化されファッショナブルで世界一アウトサイダーな女刑事の登場が話題となったようだが、「インジヨーカー」での場合は好みでない場面もあるが、感情移入する場面も結構あり、好評なのもうなづけるかな。 
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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