藤沢周平著 『海鳴り』








              
2014-05-25



(作品は、藤沢周平著 『海鳴り』 藤沢周平全集第十九巻 文藝春秋による。)

           
 

 「海鳴り」初出 「信濃毎日新聞」夕刊ほか 昭和57年7月〜58年7月。
 本書 1994年(平成6年)1月刊行。

 藤沢周平: 1927年12月山形県生まれ。1997年1月没。


 主な登場人物:

小野屋新兵衛(46歳)
妻 おたき
倅 幸助
(19歳)
娘 おいと
(14歳)

中どころの紙問屋で新参者。
おたき 4年前に新兵衛が囲った女のことで以降許さず、冷えた仲に。
幸助 道楽者。体弱く母親の反対で奉公に出さず。甘やかされて育つ。
おいと 明るい性格で、男の子のようにはっきりと物を言う。

丸子屋のおかみ おこう
夫 由之助

紙問屋の寄り合いで酔わされ、具合が悪くなっていたところを新兵衛に介抱される。そのことをネタに塙屋彦助につきまとわれる。
夫の由之助は「人の裏をかいたりするのが好きな、危険な人」とおこうの評価。

鶴来屋益吉
女房 おたね

新兵衛とは若い頃奉公先で一緒に釜の飯を食った仲。
兼蔵 新兵衛が懇意にする仲買人。
塙屋彦助 落ち目の紙問屋。新兵衛と丸子屋のおかみとの密会をネタに強請り。

山科屋宗右衛門
息子 佐太郎

紙問屋の大店。小野屋新兵衛が仲買から問屋株を勝ち取る際に後押しをしてくれた恩人。
息子の佐太郎、鶴来屋おたねと付き合っている。40に近い。



 読後感:

 がむしゃらに働いて漸く仲買から中堅処の紙屋問屋に成長した小野屋新兵衛、四十を過ぎふと白髪があるのをみて愕然とする。老いを感じた時である。そうした時こんなことで人生を終えていいのかと思って奉公人であったおみねを囲い、それが女房のおたねの怒りを誘い、それ以降ずっとおたねは許さず、夫婦仲は冷え切ったまま。

 息子の幸助は幼い頃から体が弱かったことから、おたねが奉公に出すことを拒み、甘やかしたまま19歳になって商いには精を出さず、悪い友達とくるんで女遊びに・・。
 家庭内はそんなことで悩ましいことだらけ。商いは商いで大店の問屋が自分の得意先に割り込んできて、追い落とそうと仕組んでくる。

 そんな中、寄り合いを機に亭主の代わりに出席している丸子屋のおかみおこうが、帰り道酔い潰れたところを男達に囲まれているところに通りすがり、助けて不適当な店で介抱していたことを悟られ強請を掛けられる羽目に(当時は他人の女房との不倫は張り付け獄門)。

 しかしおこうとの関係が出来たことで急速に近づき、おこうの家庭内の悩みも知ることから、親密になっていき、いつか二人で過ごせる時まで秘密を悟られないようにと。
 家庭の内外に問題を抱えつつ、老いに身につまされる新兵衛。
 そんな姿が藤沢周平特有の言葉を選び紡いだ描写で展開していく。

 こういう題材で小説とはこんな風に読者を引き込みながら展開していくものなのかと。
 一つひとつの出来事、人と人とのやりとり、心の動きが丁寧にそれでいて判りやすく描かれているところはさすが藤沢周平といったところ。

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余談:
 
 何でもないように思える表現でこんなにもその時代の世界が広がっていくものかと改めて藤沢作品のすごさを味わえた気分である。やっぱりすごい。

        背景画は本書の内表紙にある藤沢周平のフォトを利用。                       

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