藤沢周平著 『蝉しぐれ』







                  
2009-08-25

(作品は、藤沢周平著『蝉しぐれ』 文藝春秋による。)

              
 

1988年5月発行。


主な登場人物:
 
牧文四郎 牧の家の養子で15歳。文四郎の実家は服部家で120石で右筆を勤め、兄は服部市左右衛門、末弟の文四郎とは20近くも歳が開いている。父の通夜、葬儀の後すぐに家を明け渡し、城下の東南の外れに移される。

父 助左右衛門母 登世

牧助左右衛門、寡黙だが男らしい人間。海坂藩普請組の組屋敷(30石以下の軽輩が住むところ)に住む。藩の裏切り者として捕らえられ、切腹させられる。父との最後の対面で「わしは恥ずべきことをしたわけではない。私の欲ではなく、義のためにやったことだ。・・・、文四郎はわしを恥じてはならん。そのことは胸にしまっておけ」と告げる。
小和田逸平 文四郎の親友の一人。文四郎より一つ年上、10歳の時父を失い、跡目を継ぎ母と二人暮らし、100石の小和田家の当主。
島崎与之助 文四郎の親友の一人。学問にたけ、江戸に出て修行をする。
お福 文四郎の隣家の娘、12歳。急に江戸屋敷の奥に勤めることになり、江戸を去る前の夜、文四郎の家に一人訪ねてくるも、会えずに去っていった。
石栗弥左衛門 道場主、文四郎に熊野神社の奉納試合で興津新之丞に勝ったあかつきには秘剣村雨を伝授しようと。
鍛冶織部正 藩主の叔父で、かっての名家老。先代藩主の末弟。
横山又助 次席家老、里村、稲垣派との政変で一時破れるも、次第に勢力を盛り返してくる。
里村左内 次席家老、里村派の首領。牧助左右衛門に腹を切らせた張本人。


読後感:

蝉しぐれは映画、ドラマになってほぼ筋書きも知っている。でも小説としてその表現、脚本や配役のイメージに惑わされない素のものを味わいたくて、ほとぼりが冷めた頃を見計らっていた。お福と文四郎の幼い頃からの淡くも切ない愛の形はやはり印象深いものであるが、案外小説の中では記述は少ないのは意外であった。

 それよりも矢田家の未亡人の生き様に切なさを感じてしまったのはあまのじゃくな自分の性格からか?
 そして母登世の態度、幼友達の小和田逸平、島崎与之助との付き合いの描写には共感するところが多い。

 小説は自分が感じるところで自分のイメージを膨らますことが出来る自由度があるのに対し、映画やドラマになると脚本家の目でフィルターがかかり、配役の人物でイメージがまた変わるという制約があるのが不満なところで、そこが小説の良さであると何度となく思い知らされる。

 ただ、初めて知る内容に比べ、筋書きを知っていることはいかんとも感動がそがれるのはやむを得ないことか。残念であった。


   


余談:
 日曜朝6時25分よりラジオのニッポン放送で藤沢周平傑作選を児玉清のパーソナリティ、川井郁子の音楽で、毎作品異なるアナウサーの朗読で放送している。運良く目を覚ますことが出来た時は5−6回の短編なので聞けるのが楽しみである。内容、構成、音楽ともすばらしい。ただ途中のCMだけは止めて欲しいところだが。

 朗読のおしまいに児玉清がどういったところに藤沢作品の魅力があふれているかを解き明かしているのも納得がいって好ましいし、日頃のアナウサーの趣と異なり、朗読にチャレンジしている姿も好ましい。音声だけで想像の世界を膨らませてくれるのもこれまたすばらしい。

背景画は東宝映画「蝉しぐれ」の一シーンから。
 

                               

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