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                   藤沢周平著 『三屋清左衛門残日録』








                
2007-8-25
                                            2007-09-25


   (作品は、藤沢周平著 『三屋清左衛門残日録』 文藝春秋による。)

                

 昭和60年(1985)夏季号〜昭和64年(1989)新春号初出(別冊文藝春秋)
本書は平成6年(1994年)2月刊行


 藤沢周平は、1927年12月山形県生まれ。1997年1月没。


物語の背景:
 
 BS2で掲題の時代劇を再放送している(8月7日放送第14回で最終回)。それを見ていて原作を読んでみたくなった。扱っている背景が身近で、元用人を勤めた三屋清左衛門は、家督を惣領の又四郎に譲り、隠居して世情のことからからはずれて寂しい気持ちを感じる隠居生活を送っている。息子の若い嫁(里江)がまた良くできた嫁で、自分のことに色々気に掛けて振る舞ってくれる。

 その気持ちは有り難いけれども、亡き妻(喜和)がいてくれれば愚痴の一つも聞いてもらえるのに、息子の嫁には自分も氣を遣ってしまう。そんな落ち込んだ気持ちを晴らすのは、昔の数少ない友人たちとの交わり、まだ現役で町奉行を務めている佐伯熊太から藩の様子を聞いたり、仕事の頼み、小料理屋「涌井」でのささやかな飲む時間に気持ちを和ませている。そんな生活ぶりが心に染み、藤沢周平の世界を彷彿とさせている。
     









読後感:

 小説の方はむしろさらっとした叙情であるのに対し、テレビの方は、三屋清左衛門(仲代達矢)、里江(南果歩)、佐伯熊太(財津一朗)、「涌井」のおかみみさ(かたせ梨乃)の役柄が実に小説のイメージとぴったりとしていて、情感たっぷり、老いの切なさとしっとりとした大人の時代劇を感じさせてくれる。一般に映像にした場合、配役の個性とか、脚本のあり方などでなかなか原作の味が感じられないものが多い中で、原作以上のものを感じさせてくれる。

 年を取ると若くはないといということが、風邪も簡単に治らなくなり、気持ちの衰え、既に過ぎ去ったことにいつまでも気持ちがとらわれる。そんなつぶやきが自分にもひしひしと応えてくる。


 テレビは1993年(平成5年)4月からNHKの金曜時代劇で放送され、清左右衛門を演じた仲代達矢は、ちょうど自分と同じような年で無理なく演じられた。現代で言えば清左右衛門は勝ち組の人であったが、弱者に対する優しい心を持った人物。時代劇にしてはチャンバラは少なく、サラリーマン武士の悲哀を醸し出していて、難しい役であったこと、原作者の藤沢周平からは、大変良い映画に出来あがっていると褒められた話を、先日ケーブルテレビの時代劇専門チャネルでたまたま聞いた。
 14年も前の作品なのに、今日でも全然違和感なく、しかも若い頃の役者さんのままで見られたことは、大変幸せ。果たして当時見ていたらこんな気持ちで見られたかどうか・・・。何とも心に残る作品である。


印象に残る場面

◇大塚平八から教わったこと:

 大塚平八:前髪の頃からの幼友達、清左衛門は用人に登用されて君側の重職となったが、平八は小心翼々、家禄を守るために懸命であった。したがって自ずとつきあいは疎遠となるものであったが、二人の間はそのようにはならなかった。その平八が突然の患い、中風になった。そして平八が(リハビリのため)杖をつきながらゆっくりゆっくり辛抱強い動きを繰り返す後ろ姿に鞭打たれた気がして:

 衰えて死がおとずれるそのときは、おのれをそれまで生かしめたすべてのものに感謝をささげて生を終わればよい。しかしいよいよ死ぬるそのときまでは、人間はあたえられた命をいとおしみ、力を尽くして生き抜かねばならぬ。 と教えてもらったと思っていた。



余談:

 7月の末に愉快な仲間たち等で、川崎市の最大の緑地生田緑地に出かけた。その中の日本民家園を訪れ、江戸時代とかの古い家を移築した家屋の中に足を踏み入れ、暑さをしのぎつつ、薄暗いが、自然木を巧みに使った張り、いろりの火、年期の感じられるい太い柱、ひんやりとしてなんとも昔の雰囲気を感じられる土間に腰掛けていると、ゆったりと落ち着いた気持ちがしてきた。そしてその日「三屋清左右衛門残日録」第13回「嫁のこころ」を見てまたまた藤沢周平の世界の素敵さを感ぜずにはいられなかった。

背景画は NHKBS-2TVでの「清左衛門残日録」の画面より。

                    

                          

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