藤沢周平著  『橋ものがたり』





           2012-10-25


(作品は、藤沢周平著 『橋ものがたり』新装版  実業日本社による。)

         

 本書は昭和55年4月実業日本社より刊行された「橋ものがたり」を新装版にしたもの。
(ただし「父と娘」の橋ものがたりは書き下ろし)

 本書 2007年(平成19年)2月刊行。

読後感

  日曜日の朝、ニッポン放送の藤沢周平傑作選に「橋ものがたり」が放送されていたが、丁度1話4,5回の放送に適した短編集である。それぞれ橋にまつわる話が収められている。
 多いのは年季奉公が終わり、あとお礼奉公が終われば一人前の職人としてやっていけるような人物の主人公や、博打打ちでいかさまをやって親分にばれ、江戸を何年も離れて野垂れ死にするよりは仕置きされても、江戸に戻りたいとか。男と女との想い、思われてのいざこざ話も。

 いずれも出てくる人物は何かしら背負っていて、その悲哀、貧しい生活の中での人情の機微が織り交ぜられている。作品の中は品性、安心感、優しさ、おもいやりが底辺にあり、作者の人柄が文章表現に溢れている。

 中で印象に残ったものに「小ぬか雨」と「殺すな」がある。
「小ぬか雨」は、することなすこと野卑な男勝蔵と祝言することになっているおすみが、一人で店番をしているところに、小料理屋の綺麗な女お鳥に、みついで刺してしまって江戸にいられなくなった新七が転がり込んできて、その殺した理由が”口汚く新七を嘲り罵る三十女の顔醜かった。その醜さを見せつけられたせい”という言葉。

「殺すな」では船宿の家つき娘で育った夫のあるお峯と、雇われていた船頭吉蔵が駆け落ち、浪人者の小谷善左エ門の近所で手伝いをしながらひっそりと暮らしている。しかし1年ほど過ぎるとお峯の心が掴めなくなる。
 そしてお峯は寂しい所での生活に飽きてきて、以前の町の方えと引っ越しを繰り返すことに。吉蔵はお峯に「この橋を渡ったら、殺すぞ」と吉蔵に告げる言葉。
 やがてお峯は橋を渡ってしまう時、小谷善左エ門が「殺すな」「行かせてやれ」「いとしかったら、殺してはならねえ」とさとす。

 人生の悲哀をそこにそっと感じさせる。みまいなあ。
 萬年橋、思案橋、両国橋、永代橋など出てくる橋の名前もいかにも江戸時代の風情が感じられていい名前が付けられ今も残っているものだと思う。

  

余談:

 やはり、ニッポン放送の藤沢周平傑作選の語り手である児玉清さんが亡くなった後、誰が引き継ぐのか興味があった。登場してきたのが檀ふみさん、始めに聞いた時「なるほど」とうなった。実に適役の人選であった。ゆったりと落ち着いた語り、しっとり感と重厚感のある語りに好感。いたんだなあと嬉しくもあった。これならまた長く続いてくれるような。

背景画は、本書の内表紙を利用。

                    

                          

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