藤岡陽子 『海路』



              2021-05-25


(作品は、藤岡陽子著 『海路(うみじ)』        光文社による。)
                  
          
 初出 
 「小説宝石」2010年9月号掲載分に加筆。
 本書 2011年(平成23年)6月刊行。

 藤岡陽子
(本書より)  

 1971年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業。報知新聞社を経て、タンザニア・ダルエスサラーム大留学。慈恵看護専門学校卒業。2006年「結い言」が宮本輝氏が選考する「北日本文学賞」の選奨を受ける。2009年「いつまでも白い羽」でデビュー。看護師としての現場体験を生かし、凜とした精神の清々しさを描く。 

主な登場人物:

志木 (43歳)
<私>

都内の大学病院の病棟で看護師として働くも、嫌気がさし、月島診療所に16年勤めることに。数年間共に暮らしていたダメ男(水鳥の評価)と決別する。
月島英雄

大学病院では脳外科医師、人間関係というものをないがしろにしていた為、スケープゴートされ去り、月島診療所を立ち上げる。息子博一の結婚式にはお祝いを贈ったが、それ以外接触なし。

水鳥 月島診療所の医療事務の20代の女性。

篠沢巻(しのさわ・まき)
息子 博一
(ひろかず)

月島先生の別れた奥さん。一人息子の博一を連れ、再婚して故郷の宮城県仙台市に住む。
・今は結婚して女の子をもうけている。母親の離婚後は、月島先生とは会っても会話もしていない。

小池誠一 志木が養ってたことになる4つ年下の男。だらしなく口先だけで行動の伴わない人物。
山口先生 月島先生の大学病院での先輩。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 ひとりで過ごす寂しさを感じながらも、診療所で懸命に働く43歳の看護師。ある日突然、老医師が閉院すると言い出した。そして、その日を前に失踪した。唯一の居場所を失った彼女は、先生を捜す旅に出る…。

読後感:

 ずしっと胸に響く作品である。70を過ぎた老医師がある日突然閉院を告げ、数日後姿が見えなくなる。この月島診療所に16年間勤めていた43歳の看護師志木は、医療事務の水鳥と資料類の整理をしていたが、手分けして行方を捜す。
 志木自身は月島診療所に来る前は大学病院で看護師をしていたが、同棲していた男から別れて越してきた経歴の持ち主。

 一方、月島先生は家族との絆が切れ、ひとり診療所の二階に住んでいる。その姿を見て、志木は先生には家族も懇意にしている人もいないことは判っている。従って閉院後いなくなったということは、死のうと考えているのではと、とにかく探そうと旅に出る。

 物語の前半は月島診療所での出来事や、お互いのこれまでの経歴が描写されていて、まずまずの幸せがあったのが、閉院ということでこの先の不安がよぎる。
 さて、先生の行き先はどうやら沖縄との推測で、志木はそちらに向かうことから後半は展開する。

 沖縄を舞台にした志木と月島先生とのやり取りに、年を取ることの不安、気力、身体の衰えと、自身にとっても身に染みて感じるところである。


余談:◇ 気になった言い分:

 月島先生が、志木から「歳を取るのは辛いことでしょうか?」の問いかけに
「身体の機能に関していえば、辛いことが多いですね」
「でも心に関していえば二つほどいいところもあります、ぼくにとっては」と
「一つは、これから先どのように生きようかという悩みが少なくなるということ。これは単に選択肢が少なくなるからだと思いますがね。もうひとつは大切なものが年々減ってくることによって、大切にするものへの比重が増すということですよ」

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
戻る