藤岡陽子 『トライアウト』


              2021-06-25


(作品は、藤岡陽子著 『トライアウト』    光文社による。)
                  
          

 
初出 「鉄筆」(書店販促 通信 平成23年6月1日号〜8月1日号)
 本書 2012年(平成24年)1月刊行。

 藤岡陽子
(本書より)

 1971年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業。報知新聞社を経て、タンザニア・ダルエスサラーム大留学。慈恵看護専門学校卒業。2006年「結い言」が、宮本輝氏が選考する「北日本文学賞」の選奨を受ける。2009年、看護学校を舞台に友情、恋愛、そして将来への夢と希望を描く「いつまでも白い羽根」でデビュー。2011年の「海路」では、6人の作家が挑む「テーマ競作小説」「死様」の一作として、 16年間共に生きてきた老医師と看護師、 その二人の区切りの時を描いた。  

主な登場人物:

久平可南子(ひさひら)
息子 考太
(こうた)

東京の大学を卒業、新聞社の校閲部に4年、運動部への移動に。
母子家庭だが、不規則な仕事で働く必要から、息子を実家に預けて6年になる。
父親が誰かは、親にも、息子にも知らせていない。
・考太 小学2年生、8歳。体格良く、野球チームに熱中、能力もある。

父親 久平謙二
母親 佳代
姉 可南子
妹 柚奈
(ゆずな)

宮崎県登米市(とめし)(仙台から1.5H程車で)で新聞の販売店を営む。
可南子が東京で働いているため、息子の考太を預かっている。
・可南子 父親は可南子のことを「久平家の恥さらし」と。よく生き方で喧嘩をしている。
・柚奈 頭の回転速く、飲み込みも早くて応用力もある。致命的なことに忍耐力と向上心が全くといってほどない。あまのじゃくの妹。

山下誠 久平家の新聞販売店で新聞配達をしていて、新聞店で一番の働き手。可南子と同い年、カメラ少年だった。耳が聞こえないハンディを持つ。
保科広海(ひろみ)

福祉の店「木のレストラン」で働く柚奈の結婚相手。
柚奈より5歳年下。

深澤翔介(しょうすけ)

宮崎県出身、15年前甲子園のマウンドで活躍(18歳の時)、プロの世界でも活躍するも、木下監督と折り合わず、二軍落ち、その後はトライアウトに出るも声はかからず、プロでの向かう先を探している。
久平可南子入社1年目(23歳)、夏の主な仕事は高校野球の取材、宮城の地方大会からずっと見ている。
可南子が運動部に移動後の最初の仕事は、仙台でのトライアウト取材で深澤に取材をする。

片岡信二

プロ野球選手。八百長賭博疑惑でプロ野球球界を追放される。
久平可南子との週刊誌のツーショットで可南子は被害に遭う。

藤村茂高 木下監督の申し子、名捕手。
木下邦王 プロ野球の監督。覗き野球でチーム打率を上げてきた。
西川裕司 全国紙のスポーツ新聞社の記者。可南子の運動部のデスク吉田と、大学時代のボート部の先輩後輩の仲。

佐久間文弥(ふみや)
両親

久平考太のクラスメイト。考太との喧嘩で、文弥が車道に飛び出し怪我、親が考太の親に怒声を浴びせる。
山下先生 考太たちの担任。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 これまでは他人と競争するためにやってきた、これからは自分との競争をする…。父親の名は明かさないシングルマザーと戦力外通告をされたプロ野球選手、ふたりの生きがいで紡がれる感動長編。

読後感:

 シングルマザーの久平可南子は、東京の新聞社勤務。息子の考太を宮崎県佐沼で新聞販売店を営む両親の元に預けて、月に一度程度会い出向く生活をしている。
 妹の柚奈には「考太にいつか彼の父親である人のことは話さなくてはいけない。考太にとっては、うやむやにされたまま大人になることは辛いと思う」と言われ続けている。

 そんな中、可南子と一緒にいる時の考太の言動の様子が、親と子のつながりを切実に描写されていて、胸を打つ。
 一方、運動部に移動して、プロ野球の世界に再び飛び込むことになった可南子は、甲子園球場での全国高校野球大会で活躍した深澤翔介と巡り会い、彼が戦力外通告を受けもう一度どこかの球団に入団するためにトライアウトに臨む姿を取材に出向く。

 その後も深澤とは可南子が片岡信二との間を写真週刊誌にスクープされ、疑惑を受けて苦い経験をさせられたことの内情を知らされることに。
 そして深澤のプロとして野球を続ける生き様を見る。
 父親の謙二の危篤騒動、そして死に伴う久平家での話題では、謙二の存在の大きさ。
 頑なさと共に、父親の愛情、優しさの話題がいっぱい。妹の柚奈の姉の可南子との厳しさと思いやりの様子、可南子が柚奈に嫉妬させる性格の描写にほろり。


余談:

 これまで藤岡作品として「満天のゴール」と「テミスの休息」のに作品を読んでいたが、今回の「トライアウト」は次の予約本が届くまでのつなぎとして図書館から借りてきたが、読んでいる内に、こんなにも身近なこととして読めたのは久しぶりかなと。
 作り物でなく久平家の情景が現実の物として感じられた。
 特に柚奈の「世の中には、たいして賢くも有能でもないくせに威張っている男が多すぎる。たとえ賢くて有能であったとしても、威張る人は男であっても女であっても大嫌い」には全くの同感。

<参考>
・十二球団合同トライアウトの概要
 戦力外通告を受けた選手が、もう一度どこかの球団に入団するために受けるテスト。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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