藤岡陽子 『テミスの休息』



              2021-04-25


(作品は、藤岡陽子著 『テミスの休息』        祥伝社による。)
                  
          
 初出 
 卒業を唄う        「小説NON」2014年5月号
    もう一度パスを      「小説NON」2014年8月号
    川はそこに流れていて   「小説NON」2014年11月号
    雪よりも淡いはじまり   「小説NON」2015年2月号
    明日も、またいっしょに  「小説NON」2015年5月号
     疲れたらここで眠って   「小説NON」2015年8月号・11月号

 本書 2018年(平成30年)6月刊行。

 藤岡陽子
(本書より)  

 1971年京都生まれ。同志社大学文学部卒業。報知新聞社を経て、タンザニア・ダルエスサラーム大学に留学。帰国後、慈恵看護専門学校を卒業し看護師に。同時に小説を書き始め、2006年「結い言」が宮本輝氏選考の北日本文学賞の選奨を受ける。09年看護学校を舞台にした青春小説「いつまでも白い羽根」で作家デビュー。著書に「晴れたらいいね」「手のひらの音符」「おしょりん」などがある。 

主な登場人物:

芳川有仁
(よしかわ・ありひと)

「芳川法律事務所」の所長、40歳独身。
小4から高3までサッカーをやり、大学生の頃サッカーの国際審判員になろうと、二級審判員まで取得、一級はクリアできず。

沢井涼子
息子 良平

「芳川法律事務所」のただ一人の職員、44歳。
8年前(36歳)の夏夫と別れ、一人息子の良平(小1)と新生活。
・良平 中学3年生、15歳。サッカー部活。

卒業を唄う
桐山希(のぞみ)

依頼者。「婚約破棄はどれくらいの罪になるか」と。
鶴見第一高校の音楽教師。

もう一度パスを
宇津木亮治(りょうじ)

「柏原(かしわはら)ハルテック」の塗装工、27歳。千葉県富津市在。12年前の少年院出をバラされそうになり、小学校で一緒だった久保雅樹(まさき)を突き飛ばして死なせる。

宇津木広人(ひろと)
父親 浩二
母親

亮治の3歳年下の弟。結婚することになり、食事会に母親が亮治を川崎に呼ぶ。
・母親(50歳)の再婚相手、宇津木浩二(65歳)が広人の婚約を祝い食事会に亮治を川崎に

川はそこに流れていて
穂崎家の家族

紀伊半島、日本有数の多雨地帯北山村に母方の実家。穂崎家は代々林業を営み、下北山村では屈指の旧家。
・祖父 竜仁太(没)
・祖母 シズ(没)遺言書
・長兄 竜一
・次男 祥二
(しょうじ)
・長女 静江
・次女 芙沙子 芳川有仁の母親。

平木紀行(のりゆき)

祖父竜仁太の20歳以上年下の愛人との間に出来た子。
芳川有仁にとって6歳下の叔父にあたる。高校一年の頃1年間共に暮らしたことがある。

雪よりも淡いはじまり

須貝摩耶(まや)
夫 通雅
(みちまさ)

摩耶も通雅も大学時代芳川有仁の同級生。二人は普段別居の仮面夫婦。
摩耶は夫と離婚し、布施由美の夫と結婚するつもり。その為、由美に400万を慰謝料として支払ったが・・・。

布施由美(ゆみ) 小学生の娘が二人いる、36歳。
明日も、またいっしょに

蒲生優
母親 弘恵
父親 
<旧姓 児寺
(こでら)

良平とは小学校の学童保育からの友達。母親との二人暮らしも同じだった。
・母親 介護ヘルパーを10年。昨年の春に勤務先の同僚と再婚。
・父親 優が名前が変わるのを嫌がったため蒲生の籍に。小柄で冴えない感じの男。

疲れたらここで眠って

北門勲男
息子 和真

横浜市内では名の通った不動産会社の社長。
芳川にとって法律事務所立ち上げの恩人。顧問弁護士として契約してくれる。
・和真 日栄SSL社システムエンジニア。26歳で自殺。
責任感の強い性格、仕事をやり遂げるために命までも差し出す。

島原道彦

北門和真とふたりプロジェクトを支えてきた一つ年下の同僚。
和馬が自殺後25歳で退社、今はIT企業「Dデザイン」を立ち上げている、35歳。

我那覇(ワガナ)政夫
妻 洋子

和馬が最後の仕事をしていた時の上司。
・洋子 和馬の過労死認定を求める「請願書」に署名。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 舞台は横浜市にある弁護士1人、事務員1人の小さな法律事務所。持ち込まれた案件に向き合う法律事務所の2人の奮闘、そして直面する問題を乗り越えようとする人々を描いた感動作。

読後感:

 芳川所長と沢井涼子の二人だけの小さな芳川法律事務所を訪れた事案は、6編いずれも読んでいるとどの件も身近に起こりそうな話で、それぞれいい話だなあと感じるところがあり、優劣がつきがたい。

 最初の編[卒業を唄う]では、急に婚約破棄を言い渡された音楽教師桐山希の怒りが、涼子の言葉に反応し、教師が生徒に教えるのは「たったひとつ、それは生き抜く力なんです」と言い、自らがなしていなかったことを反省する下りが印象的。

[もう一度、パスを]では、少年院帰りの宇津木亮治が、奇しくも人を死なせてしまった罪を、国選弁護人になった芳川有仁が、彼を支えてきた周りの人のことを話し、「これまでの12年間は君だけのものではないんだ」と。「走らないやつに、誰もパスは出しませんよ」。サッカーの国際審判員を目指していた芳川の言葉が光る。

「川はそこに流れていて」では、芳川の母親も関係する相続争いの問題。愛人との間に生まれた平木紀行に全財産を譲るの遺言にまつわる騒動。芳川は無関係の立場で弁護士として立ち会うことに。決着は「こうした自然の中で暮らせるのは、自然に選ばれた人なんだ」がさわやか。

[雪よりも淡いはじまり]では、不倫相手の彼との結婚を企てた須貝摩耶が、離婚をするよう相手の女性に慰謝料400万を夫の口座から振り込み、成功するも結局不倫相手は摩耶との結婚を出来ないと姿を消したことでの返却請求案件。無事裁判には勝利するがお金は・・・。

[明日も、またいっしょに]では、良平の小学校からの親友蒲生優は、同じ母と子の二人暮らしで共にサッカー部。母親の介護ヘルパーの深夜の呼び出しで車の事故を起こしてしまい、芳川が相談に。母親の再婚をあまり良く思っていない優。父親の児寺の行動を見た良平を動かしたものは・・・。

[疲れたらここで眠って]はラストの編。それまでの扱ってきた話題も出てきたりして、芳川と沢井親子とのハッピーエンド?らしき雰囲気も織り交ぜ、ほっと一息を着く。
 依頼案件は、息子の過労死を巡る労災認定を勝ち取る為10年を費やしている案件。
 IT企業のシステムエンジニアについては、なかなか労働時間を証明することは難しいし、会社側もブラック企業と判を押されたら計り知れないマイナスになるため、なかなか協力が得られないということで、「最終意見陳述」の内容を苦労していて頭を悩ませている。
 救世主は現れるのだろうか・・・。 


余談1:

 表題の「テミスの休息」、テミス像のことを改めて確認しておきたい。
“ギリシャ神話に出てくる正義の女神のこと。片手に天秤、もう一方の手に剣を持ち、法律が公正で厳格なものであることを示している。”


余談2:

[卒業を唄う]中に定番の卒業ソングとしてレミオロメンの‘3月9日’の記載があり、どういう意味なのかなあと聴いてみて調べてみたら、ドラマ「1リットルの涙」の挿入歌。
 全国の高校生が選ぶ2019年人気卒業ソングで圧倒的な票数を獲得して1位に選ばれたレミオロメンの「3月9日」。2004年にリリースされた曲とか。
 曲を生み出したのが、藤巻亮太さん(レミオロメンではボーカル&ギターを担当)。
 バンドメンバー3人の共通の友人が結婚することになり、自分たちで作った音楽をプレゼントしようと思ったのがきっかけ。その友達の「ありがとう(サンキュウ)の日に結婚するんだ」という言葉が素敵だなあと思い「3月9日」というタイトルが決まったという。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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