藤岡陽子著 『空にピース』

                  
2022-12-25

(作品は、藤岡陽子著 『空にピース』       幻冬舎による。)

         

 初出 「小説幻冬」(2020年10月〜2021年9月)に連載された作品を大幅に
    加筆修正したもの。

 本書  2022年(令和4年)2月刊行。

 藤岡陽子本書による)

  1971年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業。報知新聞社勤務を経て、タンザニア・ダルエスサラーム大学に留学。慈恵看護専門学校卒業。2006年「結い言」が、宮本輝氏選考の北日本文学賞の選奨を受ける。09年「いつまでも白い羽根」でデビュー。著書に「手のひらの音符」「晴れたらいいね」「おしょりん」「満天のゴール」「跳べ、暁!」「きのうのオレンジ」などがある。

 主な登場人物:
澤木ひかり

江堀市水柄(みずえ)小学校六年二組の担任、26歳。 教師歴5年、こちらに赴任してきて初めての高学年を担当。
六年二組は問題のあるクラスだった。
パレスMIZUEのアパートに住む。

水野菓与(かよ) 40代の養護教諭。何かとひかりを下支えする。
水柄小学校の教員達

・木下校長、小堺副校長
・相庭直人
(なおと) 六年一組の担任。ひかりに対し、「なにもしないこと。3年我慢すれば移動できる」と。
・黒金 五年一組の担任。

岩田洋二 元水柄小学校の副校長。今は別の小学校の校長。
六年二組の生徒達

・高柳優美(ゆみ)学級委員。母子家庭
・スミス宙
(ソウ) アメリカ人の男子。学級委員。
・今田真亜紅
(マアク)切れると暴発する。
 母親:異国人で日本語が分からない。
 姉のアイリン:高校一年生。マアクとアイリン、父親が異なる。タガロイ語も日本語も理解でき、調整役を担う。
・グエン・ロン 5年生の途中、ベトナムから来日。日本語の理解に難がある。
・佐内大河 不登校児。母子家庭。
・青井文香 母親は、今田真亜紅と同じクラスに約束が違うと。今田がいると勉強に集中できないと。
・土井理乃

阿賀奏斗(かなと)

Kと呼ばれ、元水柄小学校に在学。
担任教師に反抗し、学級崩壊を起こしたことがある。
かってアイリンと同級生だった。

八王塚警察署の刑事

岩田洋二殺しの捜査を担当する刑事。
・益子 若い方。
・伊藤 年配の方。

槙田(まきた) 「槙田ココロのクリニック」の院長。水野先生の弟。
鍵谷真次 今田真亜紅、アイリンの母親の恋人。暴力的性格。
 物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
 
 小学校の教師になって5年目のひかりは都内の赴任先で衝撃を受ける。立ち歩き、暴力、通じない日本語。さらに、「この学校ではなにもしないことです」と同僚から釘をさされてしまう。負けん気に火がついたひかりは、児童ひとりひとりに向き合おうとするが…。 
 
 読後感:

 江堀市の水柄小学校に赴任してきた主人公の澤木ひかりが担当したのは、誰も担当したがらない六年二組の担任だった。六年二組の生徒には授業中にもかかわらず、出て行ってしまう今田真亜紅(マアク)がいる。一組の担任の相庭直人教師は、彼にはそっとして関わらないようにと。他にも、日本語の理解が不十分なグエン・ロン、不登校の佐内大河などがいる。
 新任教師として精一杯の情熱を持ったひかりに、手を差し伸べてくれるのは、 保健室の水野先生、生徒の中では、高柳優美とスミス宙
(ソウ)がいる。

 物語は、子ども達や社会が抱える諸問題の様が描かれると共に、過去に経験し、会得した教師達の姿も明かされてくる。
 そして実は岩田洋二という、元水柄小学校の元副校長の殺人事件が、ミステリーとしての味わいも深く絡んできて、読者を飽きさせない。
 また、作品の最初のシーンや、途中に張り巡らされた動きが、後になって繋がってくる様もなかなかのものである。

 六年二組のまとまりが、体育祭でのリレーや組み体操で感じられるようになるのは、自分たちの子どもの頃を思い出させてくれてほっこりさせられる。
 ラストの卒業写真撮影でのシーンは、教師としての万感の喜びが伝わってきた。


余談:

 小学生にも家庭の事情を含め色んな問題があるのに、この学校では校長や、副校長の行動が一向に現れてこないことにちょっと意外を感じた。 澤木ひかりを精神的に支えてくれた水野養護教師の存在が大きいことを感じると共に、水野先生にも隠し事をしなければいけない、ひかりの心情もさぞや苦しかっただろう。
 インド独立の父、マハトマ・カンジーの言葉「あなたがこの世で見たいと願う変化に、あなた自身がなりなさい」の引用がまぶしい。

 

                    

                          

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