藤岡陽子 『この世界で君に逢いたい』


              2021-07-25


(作品は、藤岡陽子著 『この世界で君に逢いたい』    光文社による。)
                  
          

 
 本書 2018年(平成30年)7月刊行。書き下ろし作品。

 朝岡陽子
(「トライアウト」より)

 1971年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業。報知新聞社を経て、タンザニア・ダルエスサラーム大留学。慈恵看護専門学校卒業。2006年「結い言」が、宮本輝氏が選考する「北日本文学賞」の選奨を受ける。2009年、看護学校を舞台に友情、恋愛、そして将来への夢と希望を描く「いつまでも白い羽根」でデビュー。2011年の「海路」では、6人の作家が挑む「テーマ競作小説」「死様」の一作として16年間共に生きてきた老医師と看護師、その二人の区切りの時を描いた。

主な登場人物:

須藤周二 京都の大学の大学院生、27歳。自分と同い年の美しい従妹、須藤美羽のことで悔いる出来事が・・。
松川夏美 須藤より5歳年上。都内のウェブ制作会社でウェブデザイナーの仕事をしている、32歳。須藤を愛している。
黒田藤政 須藤の大学院の同級生。京都の寺院の跡取り息子。跡を継ぐのが嫌で、経済学部に進む。

栄門武司
妻 笑里
(えみり)

与那国島で製糖会社の社長。別に家庭環境の問題のある未成年者や、社会と上手く関われない子供達を「島留学」という形で受け入れている。
久遠花(くおん・はな) 家庭の事情、本人の問題もあり、2年前永井が栄門の元に連れてきた。
男子禁制の寮住まい。その容姿からテレビ局が出演依頼あり出演したことから(?)行方不明に。
片平里砂子 須藤の工場の従業員の中で一番の古株30歳。男子禁制の寮すまい。

金城悦子
夫 正雄(没)

栄門は小・中学校の同級生。民宿「すうやふがらさ」の女将。
島に戻ってくる前の30年間、ユタとして生きていた。

永井治(おさむ) 中学教師を定年退職後、20年近く東京の杉並区に事務所構え、生活に窮する若者の支援活動をしている。
津村祐介 東栄テレビのプロデューサー。

金子院長

メンタルクリニックの院長。
・関 催眠療法士

須藤瞳
娘 美羽
祖父母

須藤周二の父方の妹。きれいな人。シングルマザー。
・美羽 瞳が19歳の時美羽を生む。
祖父の死後、瞳は変わってしまい、祖母、家を飛び出し周二の家に同居。美羽、犬(一郎)を連れ訪ねてくる。
周二小学4年生(10歳)の時、塾通いで美羽と別れた時、美羽は連れ去られ殺される。 

勝山恵次(けいじ) 瞳の男。暴力団組員。
片瀬治(おさむ) 17年前、美羽が通っていた小学校の担任の先生。

町田瑞枝(みずえ)
<旧姓 糸川>

美羽の仲良し。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 最後まで彼女に嘘の笑顔を作らせたことを、僕はずっと後悔して生きている。この世の見えない仕組みに挑む、熱い感動必至の物語。

読後感:

 与那国島を訪れた京都の大学院生須藤周二と5歳年上で都内でウェブデザイナーの松川夏美の観光を兼ね訪れる。そして民宿の女将(悦子)に、須藤に対して「島に呼ばれたね」と何か意味深な言葉を発せられる。
 島で逢った久遠花を見た瞬間、「僕はこの子を知っている」と呟く。そして花に「君は何を探しているの」と問い、「ここに電話をくれれば、いつでも会いに行くから」と。

 周二自身17年前、悔いる出来事の経験があり、夏になるとうなされ、声を上げることがある。
 物語は何か不穏な要素を持ちながら、与那国島にまつわる歴史や、風土の内容でその舞台の持つ雰囲気が、懐かしさのような、安らぎのような癒やしの感覚で伝わってくる。
 そして突然起きたのが、花の行方不明の事件。

 花が何かを探しているものとは何か? 須藤周二が何故蔭を秘めた状態にあるのか、なにかミステリーの様相を伴いながら、周二と夏美の気持ちのふれあい、島の栄門武司の花を守ろうとする姿、周二の親友黒田の僧侶のような逞しさと洞察力の頼もしさが相まって、作品を興味深いものに仕上げられている。
 表題の「この世界で君に逢いたい」はほんと、ラストの場面で明かされていた。


余談:

 この作品を読んでいる時、何故か遠藤周作の「深い河」を思いだした。この作品「深い河」の読書録は振り返ってみると2007年7月に載せている。14年前のこと。転生ということに自身も心に残っていることが思い返されたり、舞台が日本の最南端、与那国島の事であったり、黒田という京都の僧侶の息子の話といい、藤岡陽子という作家がこういうことにも関心があったのかと改めて見直した。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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