藤岡陽子 『いつまでも白い羽根』



              2021-10-25


(作品は、藤岡陽子著 『いつまでも白い羽根』    光文社による。)
                  
          

 
本書 2009年(平成21年)6月刊行。書き下ろし作品。

 藤岡陽子
(本書より)

 1971年、京都市生まれ。同志社を経て、タンザニア・ダルエスサラーム大留学。慈恵看護専門学校卒業。「オール讀物新人賞」、「小説宝石新人賞」の最終候補に二度ずつ残る。 2006年、「結い言」が、宮本輝氏が選ぶ「北日本文学賞」の選奨を受ける。

主な登場人物:

木崎留美

すべり止めで受けた看護学校に入学、千夏、遠藤、佐伯の4人が同じ班に。初めは改めて大学受験を目指すも、千夏の言葉に看護師としての道に。人と交わらない、歯に衣着せない性格。
拓海のことが気になってしようがなく、日野駿也の素直な言動に揺れ動いている。

山田千夏

留美の大の親友。大柄で不器用でも他人の心を掴んで離さない。
高校時代は剣道部のマネージャー。日野駿也を好いているが、駿也は留美を好きに。

遠藤藤香 人を圧するほどの美貌。幼い時妹を簡単な手術ミスで亡くし、その医師を求めて男を惑わせる危険な女性。

佐伯典子(のりこ)
<旧姓 須賀>

子持ちの主婦、37歳。
日野瞬也 高校時代は剣道部。千夏の大切な友人。飲み会で、千夏に同伴の留美に心を奪われる。
菱川拓海(たくみ)

留美の通う看護学校の医学大学の4年生。留美と図書室で知り合う。拓海は遠藤藤香にのめり込みそうに。
・澄川
(すみかわ)ヌイ 拓海の祖母の姉に当たる鍼灸師。

波多野 看護学校で3年間受け持ちの担任看護師。
池尻

病棟看護師
・篠原 千田仙蔵を受け持の担当看護師。

千田仙蔵

留美が看護実習で受け持つ肝臓癌末期患者。
・野木佑太 孫
・花房チヨ 千田の母親(看護婦)の同僚。

八木友香(ゆか) 留美が看護実習最後の、小児実習の対象患者(脳腫瘍)。
平野亜矢

高校時代の留美の仲良しのクラスメイトで、同じアーチェリー部に。
3年に上がる時、留美は部活を突然止め、次第に学校で孤立するように。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 瑠美は親に勧められるままに看護学校に入学した。次々と与えられる課題に立ち向かう日々を送るようになり…。この時代にこそ必要な文学の大きな役割を堂々と担った、正統派大型新人、堂々のデビュー作。

読後感:

 本作品が著者のデビュー作ということだが、こういう作品を出せるなんて、すばらしいと感じた。
 内容は高校3年生の時、大学受験には不合格で、滑り止めで看護学校を受けてそこには合格した。次の大学受験のための一時的なものとしていたが、同じ班の山田千夏と仲良くなり、千夏の言葉に次第に3年間の看護実習に残ることに。その看護実習の時に起こる描写で物語が進行していく。

 中味は看護実習の内容とその時のトラブル、患者との交流、死を目の当たりにしての気持ちの揺らぎは勿論、人を好きになってもそれが上手くいくとは限らず、交錯する気持ちのもどかしさも描かれ、そしてなにより読者に何か勇気を沸き立たせてくれる内容となっていた。
 主人公の木崎留美は、人との交わりは不得手、感情の起伏が激しく、納得できないことには屈しない性格でよく人とぶつかる。千夏の方は大柄で高校時代は剣道部のマネージャーをやっていて、安定した包容力を持ち合わせ、子供たちにもすぐに心を掴んで話さない能力を持ち合わせている。 そんな二人だから、仲良くなってしまい、留美も看護実習を続けることが出来たのである。

 そして同じ班にいる社会人の佐伯典子、37歳の子持ちで看護資格を取ろうとしていて、幸せの家庭のように見えたが・・・。
 もうひとり、遠藤藤香、美人で高遠な彼女は、留美とは水と油のような、交わらない風に見られたが、時として想像に反して、小気味よい行動、言動に「やるね」と唸りたくなる。
 看護学校に入学して卒業まで行くのは6割程度。はたして物語の最後に残っているのは同じ班の4人中で何人になっていたのか・・・。
 物語の中で語られる言葉には納得したり、感心したり。久しぶりに早く読みたくてしようがなかった。


余談:

 語られる言葉に感動した言葉。
◇ 駿也を好きになっている千夏が留美に「人の好き嫌いって何だと思う?」と。

 あたし(千夏)なりの答えとして「特別に自分に何かされたわけじゃないのにどこかいけすかない人がいたり、逆に親切にされたわけじゃないのに好きだなと思う人がいたり。そういうのなんだと思う?」「あたしなりの答えがあるんだ。それはね、生きる姿勢なんだと思う。その人の生きる姿勢が好きか嫌いか。それがその人を好きになるか嫌いになるかなんだよ」

◇ 佐伯の家の柱時計は止まったままになっている。佐伯が夫と離別を選んだ話を聞いた後、帰りの電車の中で親子の様子を見て、留美と千夏が交わすやり取り:

 千夏が子供の頃とてつもなく母親に愛されたといい。
「人に愛されるのって、努力ではどうにもならない。愛された記憶はかけがいのないもので、人にとっては不可欠なものなのだけれど、必ずしも努力で手に入るものではないのだ。」
「子供時代の大切さは・・・大人になった人にしかわからないんだよ」

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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