江上 剛著 『狂宴の果て』








                  
2015-02-25



(作品は、江上 剛  『狂宴の果て』        角川書店による。)

                
 

 初出 プロローグ・第一部「野生時代」2003年12月号〜2004年12月号連載。
    (単行本化にあたり、大幅な加筆、修正を行う)
    第二部・エピローグ 書き下ろし。
 本書 2011年(平成19年)5月刊行。

 江上 剛:(本書より)

 1954年、兵庫県生まれ。77年、早稲田大学政治経済学部卒。旧第一勧業(現みずほ)銀行に入行し、梅田支店を皮切りに、本部企画・人事関係部門を経て、高田馬場・築地各支店長を務め、2003年に退行。銀行在職中の2002年、「非情銀行」でデビュー、以後金融界・ビジネス界を舞台にした小説を次々に発表。著書に「起死回生」「復讐総会」「統治崩壊」「レジスタンス」「腐食の王国」「座礁」「円満退社」「大罪」「霞ヶ関中央合同庁舎第4号館」「不当買収」など多数。

◇ 主な登場人物:

<第一部 原罪>

中島卓二
(タク)

丹波地方の小さな村出身の三人(タク、ケン、マサ)が東京に。
家は農業、父親は影が薄い。早稲田に合格、三人は再会。

米本謙一郎
(ケン)
双子の弟 信也
(ノブ)

東大を目指すが不合格、タクと同じ早稲田に入り、来年東大を目指すと。村では頭が良かったが、東京ではごく普通の人、存在意義を見いだせないでいる。
・ノブは生まれるときの影響で身体障害持ち。滝の上にある木の実を取りに行き、ケンの手からずり落ちなくなる。
マサはノブを殺したとケンを恨んでいる。

神部雅彦
(マサ)

家は土建業、大きく強い親分肌。大学に行きたいのに親に反対され親を殴って家を出る。田谷のもとで働く。
ノブを弟のように可愛がり、ノブに邪険なケンに対してよく思っていない。

山川四郎 早稲田大学の学生。革マルシンパでもないのに幹部の香山俊二に勧誘されて入るが・・・。
高島美奈

「クラブひかり」のホステス。タクは美奈に憧れている。
美奈と田谷の関係は・・・。

田谷左右吉(そうきち) 「クラブひかり」のオーナー。タクとケンに若い人間を育てたいから100万円を投資するから何か事業をやれと。
滑川隆
<第二部 贖罪>
マサ(神戸雅彦) 赤坂に本社のある角福興産(地上げ屋)社長。田谷の亡き後後を継いで新しい事業を立ち上げる。
ケン(米本謙一郎) 芙蓉銀行赤坂支店渉外担当課長。大手銀行に就職有頂天に。
タク(中島卓二)

八塩のやっている「カブトジャーナル」の発行を手伝う。
高島美奈と別れ人生を悲観、海外旅行に。八塩に出会い、日本に帰ったら尋ねてくるように言われる。

勝又 角福興産の専務。
日野和巳 芙蓉銀行赤坂支店営業課。書類作りでケンの協力者。
八塩圭郎(よしろう) 兜町で証券関係の情報誌を発行している。
山口耕介 芙蓉銀行赤坂支店の支店長。成績を上げるよう発破を掛ける出世欲の固まり。


◇ 物語の概要:(図書館の紹介記事より)

 再会のたびに繰り返される悲劇。それは、1970年代のオイルショック、90年代のバブル破綻という2度の不況と重なっていた…。金に翻弄された幼なじみ3人の人生を描く経済大河小説。

◇ 読後感:

 第一部「原罪」では丹波地方の小さな村出身の3人(タク、ケン、マサ)が東京に出て挫折に会いつつ友情ともとれる間柄でそれぞれの生き様を描いている。
 タクは早稲田の政治経済学部に入り、地方では優秀であったケンは東大に不合格となり、タクと同じ早稲田に一時的に通い、来年また東大を目指すという。
 マサは父親に大学進学を反対され、親を殴った家を出る。東京では田口という“ひかりクラブ”のオーナーのところで働き、そこでタクとケンに再会する。

 学生時代の出来事は100万円の投資資金を得て塾を計画した仲間達の失敗と挫折。なかでもケンのいかにも威勢はいいが行動は稚拙さが、サツキという風俗の女性への入れ込みようとその結果のギャップが痛ましい。
 
 一方でケンの弱みを握るマサの親分肌的男らしさとの対比で一見友情的とも言える行為は果たしてどういう展開を示すのか。
 かたやケンとマサ両方から好かれるタクは特に特徴を見いだせないでいるが、ケンとマサの対比で第3者的な存在で二人を見ているところかも。

 タクに関しては“ひかりクラブ”にいる高島美奈という女性と仲良くなるが塾の事業の失敗で美奈は姿を消しその別れがタクの運命を変えることになる。
 しかし運命の不思議、三人が出会うことでいつも不幸になる様が後半でも続く。はたしてどういう結末に落ち着くのか楽しみである。

 第二部「贖罪」は14−5年後、マサとケンは巨額不正融資事件の裁判の被告として法廷で追求されているところを舞台にして、傍聴席のタクはその様子を見ている。
 何故ケンはこうまで悪に手を染めることになってしまったのか。早く止めて欲しいと言っていると八塩やタクは裁判を傍聴しながら感想を語っている。一見ケンが首謀者の評価、マサはあくまで管理責任はあるが、ケンと勝又がやったことのように証言してはばからない様は第一部の原罪で示されたのを根拠にマサに復讐していると感じざるを得なかった。

 裁判の進行と共にケンと日野、マサたちの不正融資がどんどん抜き差しならなくなっていく様があぶり出されていくが、全ての責任はケンが背負い込むことになるいきさつ、マサが自分は関係ないと言い張る理由、タクが新たに生き甲斐を見出す出来事がラストに待っていた。
 そして米本謙一郎が刑務所で自殺をする理由があきらかに。

 読み切って感じることはケンの哀しみが何故か胸に浸みてきてジーンとするものがある。日野の苦しみも人ごとになく感じられる。読み応えのある作品である。

  余談1:

 第一部の二つのシーンはすさまじい。ケンが使い込んだお金のことで田谷オーナーにけじめをつけされるシーン、山川という革マル派シンパと言われ香山幹部に集団リンチを強制されるシーンのすごみはちょっと読みたくなくなる箇所でもある。
 現実の世界もこんな風なのかも知れないとおそろしくなる。


余談2:

 第一部のケンの感情に何故か感情移入してしまう。小さな村では優秀でみんなからも認められていたのに、東京では東大には不合格、自分の存在なんてごく普通、一体自分という存在はなんなんだと言う思いに落ち込み、金を預かったが故に、風俗の女サツキに夢中になることで自分の存在を確かめようとする。
 そしてサツキもその優しさとだらしなさに好意を抱く。でもやっぱり・・・。それというのもケンのこころの底に秘めたうしろめたさが元凶にあった。それは双子の弟のノブのこと。プロローグで描写されていたことが示している。さらにもうひとつタクに対する申し訳なさもあったということ。

背景画は舞台となる早稲田大学の、大隈講堂のフォトを利用。 

                    

                          

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