読後感:
『隠蔽指令』
警察小説には結構面白い題材が豊富で色んな作品が出ていて楽しめるが、この作品のように、経済小説、そして政治がらみの題材も刑事物とはひと味違い、引き込まれるものである。
天野善彦なる銀行マン、頭取の秘書ということで他の人からはうらやましがられる立場であるが、そうとばかりは言えなく、数々の試練、意に則さない場面に遭遇する。同じ秘書室の木村綾乃による勝手な思い込み、妄想に翻弄され、家庭内もめちゃくちゃに。
仕事面では上層部の隠蔽指令で処理を任されたが善処するために海千山千の人間を相手に苦しむことに。
人をどこまで信用していいのか、喉まで出かかる言葉を我慢して思いとどまったり、信頼していた頭取も結局は自分の身のことを考えていただけと知り、決別を決意。
最後に仕掛けた大仕事で溜飲を下げるも、得られるのは解放された自由の身だけ。それでもこれからは全てを切り捨て一から出直しの人生に向かう。
味方は敵と思われていた友人と・・・であったとは。
『告発者』
銀行の合併にまつわる行内の権力争いと広報の立場での行動となかなか興味深い物語である。
銀行の内部については知るよしもないが、製造会社勤めであった自分としては、合併して出て来る人物について常にどこ出身と付くのにうんざりしてしまうのはおかしいのか?
どうして一つの会社としての考えに発展しないのか不思議でしょうがない。
とはいえ3行出身の派閥と別に付く人間との間で、若手で実行力のある(?)関口裕也の率直な性格の男が、大学時代に付き合っていて別れた木之内香織のことを思い、決断する行動にはすかっとさせられる。
写真週刊誌の橋本五郎の信義も、こういう考えでの記者たちなら今の写真週刊誌のことも見直すけれど、そんなにきれいごとではないだろう。
杏子と五郎の言葉のやり合いがユーモアがあり、やはりこういうユーモアが入ると物語に奥行きを与えてくれて好ましい。
印象に残る表現:
『告発者』より (佐伯が、藤野頭取が父と娘くらい離れている女との密会のネタを聞いて怒る)
“行己有恥”(論語):己を行うに恥あり。
本当の君子というのは、己の行動を全身全霊をもって行い、責任を取る。
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