江上剛著
                    『日暮れてこそ』
                          
 

                
2010-11-25




(作品は、江上剛著『日暮れてこそ』 光文社による。)

              
               

 初出 「小説宝石」2006年1月号、2006年6月号から2007年2月号連載。
 本書 2007年11月刊行

江上剛:
 1954年兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。‘77年第一勧銀に入行、支店長時代2002年「非情銀行」で作家デビュー。’03年同行を退職し、作家活動にはいる。主な著書に「起死回生」「銀行告発」「饗宴の果て」「絆」などがある。


主な登場人物:

池澤彬(主人公)
56歳
妻 美由紀
息子 幸人

都内の支店長を勝手に放棄し、作家稼業でいつまで仕事の依頼が来るかと不安な日を過ごす。妻の美由紀も再びパートに。
息子の幸人は1年留学し、就職活動にも身が入らず家に引き籠もってゲ―ムにふけっている。

加藤健 池澤と同期入社の出世頭、常務。池澤が退職後、関連会社の不動産会社の社長にだされ、落ち込み、酔って痴漢騒ぎを起こす。

山本佐和子
(旧姓 香川)
娘 美香

年齢は四十代後半、謎の女性。池澤に大阪支店時代の話をし東京に行った時会いたいと娘の美香と共に現れる。
宮川龍二 光談社の編集者、オピニオン雑誌「現状」の担当で、池澤の担当でもある。以前は「週刊タイムリー」にいた。
野田刑事 警視庁新宿署の刑事。加藤健の痴漢を取り調べる。認めれば公にしないように口止めを約束するが、口止めに金が掛かったと金を要求してきて・・・。


物語の概要: 図書館の紹介文より

  長年勤めていた銀行を、上司との軋轢から辞めた池澤。退職後は経験を生かして、コンサルティングや雑文を書いたりして、やっと食べているような生活ぶり。そんな時、後輩だったという女性から1通のメールが…。 

読後感:
 

 作品の調子はミステリー調で銀行を潔く退職し、今は雑文書きとコンサルティングや時にテレビのコメンテイターとしての出演で不安定な生活をしている主人公が、ふとした身に覚えのないメールに返信をしたことから、心を惑わし、また運が向いてきて仕事がたて込んでくる。
 だが、いいことばかりは続かなくて、退職に追い込まれた同期の加藤が左遷され、落ち込んで痴漢をしたことから警察に事情聴取され、池澤に助けを求めてきて事件に巻き込まれていく。

 不倫とも認識していない二人の女性との秘密の密会、加藤の痴漢騒ぎの余波、編集者の宮川に対する不信感の台頭、警察の野田刑事の脅し、いやがらせ?さらに家庭の中の息子や妻の叛乱?と次第に疑心暗鬼になって何が本当で何が嘘なのか判らなくなっていく主人公。
 現実離れした内容も含まれるが、なかなか現実感があり、仕事戦士であった人間の落ち込みそうな話に引き込まれてしまった。


  

余談:
 この作品を読みながら、人は予期せぬことから人生を狂わされることがある。日頃から心がけよくしていても駄目なときは駄目。大きなことに巻き込まれないで過ごせたらと願うばかりである。
 
 背景画は、作中の加藤健が酔って痴漢騒ぎに巻き込まれたという通勤電車風景をイメージして。