ロジェ・マルタン・デュ・ガール著
山内義雄訳

  『チボー家の人々』 (その一)
 



              2009-11-25


(作品は、ロジェ・マルタン・デュ・ガール著 『チボー家の人々』山内義雄訳 白水社による。)

           

  第一巻(灰色のノート、少年園、美しい季節(1))
 第二巻(美しい季節(2)、ラ・ソレリーナ、父の死(1))
 第三巻の一部(父の死(2)
 1956年5月刊行
 
 ロジェ・マルタン・デュ・ガール:
 1881年3月ヌイー・シュル・セーヌのビノー町に生まれる。父は中部フランスのブルボネ州の産で、パリ市初審裁判所の代訴人。
 読者との絶縁、<文壇>との絶縁。1937年「チポー家の人々」の第七部「1914年夏」三巻に対してノーベル賞が授けられる。小説を書こうと決心をさせたのは、トルストイの「戦争と平和」を読み返すうち。


物語の背景:

 第一次大戦に先立ってのフランスの一家族、ないしカトリックたるチボー家と、プロテスタントたるフォンタナン両家を取り上げ、そのおのおのの相関関係ないし対立関係の中に、そのおのおのの若き生命の発展の様相を子細に検証することに筆を起こし、戦争勃発とともにそれらの生命がひとしく混迷擾乱(じょうらん)のるつぼにたたき込まれ、軍部、政治家輩の野心と無知と、さらには社会革命家達の怯懦(きょうだ)と逡巡との結果、戦争と、それに伴う悲劇がますます拡大する様相をあますことなく描き出し、ついには作者自身の一分身とも思われるフィリップ博士をして「ぼくの思うところでは、今度の戦争においても・・・」

 

主な登場人物:

◇チボー家 カトリック
チボー氏

厳格な父親。ジャックにはフォンタナン家と付き合うことを禁じている。チボー家の人間は多の人たちより優れている考えの持ち主。やがて病気で死を迎えて自分が厳格すぎて信頼を得られなかったこと、息子達を守れなかったことを後悔する。
そして壮絶な死をむかえる。

アントワーヌ(長男) 小児科医。ジャックとは兄弟として仲良く、父親に対してジャックのことでは自分が責任を持つと意気込んでいる。父親の危篤時ジャックが家を出て3年居所を探し出し、迎えに向かう。
ジャック(弟)

粗暴でなまけものの悪童評価。ダニエルと家出後、連れ戻された後、父親に性根をたたき直すため少年園に閉じこめられ、すっかり変わってしまう。兄の進言で連れ戻され回復するが・・。
大学に合格したら本当に幸福になれるんだろうか、これが狂気の究極だというところまで自分自身を分析してやろうと思う。
その後家を飛び出し音沙汰不明に。若者向けの雑誌に小説を書き、その内容は自分たちをモデルしたもので、アントワーヌにとって辛い恋物語が語られていた。

◇フォンタナン家 プロテスタント
ジェローム(主人) 女中のマリエット(19歳)、さらにノエミ(35歳)のもとに、さらに他の女へと逃げる(?)。そして夫人に文無しで金を無心する電報をよこす。
全てをなくし、フォンタナン夫人の元に返ってくる。
テレーズ(夫人) 夫のジェロームを許し、アントワーヌやジャックにも優しく接する心の広い女性。
ダニエル(息子)

ジャックと仲の良い友達、ジャックとダニエルとの間の手紙(灰色のノート)を読まれたことでジャックと家出する。
その後パリで働き、暇があるとメーゾン・ラフィットの家に。ジャックとは次第に縁遠くなる。

ジェンニー(妹)

ジャックが恋する女性。しかしジャックのことは利己主義で気難しやで意地悪でやっぱりチボー家の人、大嫌いと母親に話す。
チボー氏の危篤時ジャックに会い、4年前のジャックの突然の失踪からほとぼりがやっと冷めたのに、再び心が乱される。

ジゼール チボー家の家番《おばさん》の娘。ジャックを思い、ジャックが姿を消した後誕生日祝いにパリからバラの花が贈られてきてジャックが生きていて、自分を愛していることを知る。一方、アントワーヌはジゼールに対し妹のような思いが、次第に変わってくる。
ノエミ・プティ ジェロームの恋人、6年間アムステルダムで過ごし亡くなる。
ニコル ノエミの娘。テレーズ夫人のいとこに当たる。
エッケ 若い外科医、ニコルは許嫁。
ラシェル アントワーヌとは26年間別の世界(6年前までの10年間オペラ座で踊りを)におり、軽業師のイルシュと恋人関係。アントワーヌは3人目の大切な人の一人と。最後はベルギーにいるイルシュの元への旅立ちを見送る。
フィリップ博士 アントワーヌの師。アントワーヌは2年間助手を勤め、その後継者として精神上の息子と見られている。(作者自身の分身とみられる人物。)

読後感

 読み出してジャックとダニエルの少年時代の家出のこと、家出の結果アントワーヌが連れ戻し、そのためジャックが少年園に入れられ、人が変わってしまっている様子等を読んでいるうちに、どういう小説なんだろうと思い出した。
 あとがきを読んで、納得。

 ジャックが父親に対し死んでやると言って2度目の家を飛び出し、アントワーヌがイギリスに出向き探すが所在をつかめぬまま、やがて父親が臨終を迎える場面の描写は、いかにも自分もこのような場面を迎えるのかとかなりショックなところであり、迫力のある所でもある。 今までどちらかというと平面的な描写で説明的なところが多く、どこか遠くの出来事のような感触をしていたが、第二巻のラ・ソレニーナの章と父の死の章はいよいよ盛り上がってきたと言うところか。

 ラ・ソレリーナ(ジャックが執筆した若者向けの雑誌に書いたもので、内容はちょうど自分の身の回りに起こった恋愛事情を吐露したようなもの)を読んだアントワーヌが弟の心情を知り、自分のジゼールへの思いに対し、ジゼールもジャックのことを愛していることを知ってしまうつらさにさらされる。

 父親チボー氏がプロテスタントであるファンタナン家を憎み、付き合うことも認めず、厳格に育てられることで父親に反発して出ていったジャック、父の死の苦しむ場面を眼にしてこの後のジャックははたしてどのようにしていこうとするのか。

 第三巻“父の死”では父親チボー氏の死の壮絶な発作とそれを介護する場面がなんとも辛い。 果たして自分がこんな状態に至ることもあるのだろうかと切実に思えてくる。そしてアントワーヌの最後の決心が医者なら出来るのはいいなあと思ってしまう。

 物語はノーベル賞を授けられたという後半の三巻、四巻の“1914年夏”へと展開していく。
 

  

余談:

 この作品は文字が小さくてなかなか読みづらかった。そして長編故に何が起ころうとしているのかなかなかつかめなかった。そんな時は後書きやインターネットが大変参考になる。
 後書きを読んで大河ドラマであることを理解すると共に、若者が若い時代の情熱に感動したようで、読み続けることにした。

背景画は、フランスの風景をインターネットで探したもの。

                    

                          

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