堂場瞬一著 
                      『夜の終焉』
 
                                                 
                              (汐灘シリーズ)


    
                       2013-02-25



 (作品は、堂場瞬一著 『夜の終焉』   中央公論社による。)

          
     

 本書 2009年(平成21年)10月刊行。書き下ろし作品。
 

 堂場瞬一:
  
1963年生まれ、茨城県出身。青山学院大学国際政治経済学部卒。新聞社勤務のかたわら小説を執筆し、2000年秋「8年」にて第13回小説スバル新人賞を受賞。著書に「刑事・鳴沢了」シリーズの他、「神の領域 検事・城戸南」「長き雨の烙印」「約束の河」「焔――The Flame」「標なき道」、「チーム」「天空の祝宴」「青の懺悔」などがある。  

主な登場人物:

真野亮介
(りょうすけ)
父親
母親
妹 

汐灘市出身、東京の大学を出たら父親の後を継ぐことを定められていたが、19歳の時両親が殺された時、自分たちの会社の危機を放り出して一人逃げ出した社長の息子に対する恨みをかっている。そして厚木で喫茶店“アーク”のマスターとしてひっそりと暮らす。被害者の息子。
父親は真野建設(県内ナンバー2の会社)の社長で市会議員。
厳しい経営を行って人から恨みを買っている。
妹も家を飛び出して行き先不明。
・黒木専務 社長亡き後、亮介に社長になって神輿に乗るよう頼む。
店の前で女子学生らしい客が意識不明の交通事故に遭い、身元不明のことから真野が20年ぶりに汐灘に姿を現すことに。

石田洋介 神奈川県警厚木署交通課の係長。真野の店の常連客。

若槻
妻 光江

喫茶店“アーク”のオーナー。真野に脳梗塞で倒れ、真野に店とハーレーのオートバイスポーツスターを委ねる。
浅野愛(まな) 真野亮介が高校時代付き合っていた女の子。父親は真野建設の孫請会社。亮介は親父とは関係ないとしていたが。

川上譲(ゆずる)
父親
母親
妹 恵美

汐灘市出身、加害者の息子。検事になるつもりであったが、父親の殺人事件を乗り越え弁護士の道を進んだ。
藤沢の弁護支援に汐灘に戻ってくる。
父親は真野建設の下請けの小さな土建会社の社長。真野建設の社長の暴虐な振る舞いによって父は次第に追いつめられて殺害に。そして死刑執行される。
事件直後母親は自殺、妹は行方不明に、家族は完全に崩壊。

甘粕弁護士

弁護士事務所の所長。川上の学生時代アルバイト先、司法修習生。
・葛木真紀 弁護士事務所の女性弁護士。

高城 警視庁失踪課の刑事。川上の妹の居場所を見つけ出す。
秋田武弘 川上の父の国選弁護人。死刑確定後引退。

藤沢康史
(やすし)
母親
妹 茜

藤沢事件の犯人。不動産会社社長角田孝則(たかのり)一家三人を殺害し、家に火を付ける。角田の家賃の厳しい取り立てに家を追われ、殺人のことに対しては周囲からの同情も十分ある、が本人は死刑判決に早く死にたいと。真面目で優しい男との評判。
妹は行方不明。

今吉弁護士 今吉法律事務所の弁護士、甘粕所長とは司法修習生の同期。藤沢の弁護に、同じような境遇の川上弁護士を援護要請する。
石神謙 藤沢を取り調べた刑事。川上の高校時代の一年先輩。
安西 元汐灘署の刑事、当時真野に凶報の連絡者。今は退職10年の年金生活者。

(補足) 汐灘地区は東京から来るまで2Hほど、止まらない地盤沈下の中、起爆剤として新線建設で盛り返しを計ろうと画策中も、地区により環境問題で反対運動があったりと保守王国も揺らいでいる。

読後感 

 汐灘という東京から100キロほど北の方向に離れ、海のある地域と仮想された田舎町での殺人事件。一方は加害者の息子としての真野亮介。もう一人は被害者の息子という立場での川上譲。共に汐灘を逃れ真野亮介は父親が殺されたのにもかかわらず、世間からは恨まれていて自分も非難されることで、厚木でひっそりと人目に付かない生活を送る。

 一方、父親が一家三人を殺害し、家に火を付けて消失させた方の息子である川上は、人殺しの息子故に、冷ややかな処遇に検事を目指していた夢も奪われ、敢えて弁護士としての仕事を選んで生きている。
 たまたま自分の店の前で起きた交通事故により、身元不明の女の子の素性を調べることに首を突っ込むようになって20年ぶりに汐灘にあしをふみいれる事になる真野亮介。

 方や、同じような殺人事件を起こした藤沢康史の弁護の手伝いを請われて汐灘に足を踏み入れた川上譲。
 真野亮介と川上譲の関係は、川上の父親は真野の父親が社長をしている真野建設の下請け会社の社長。その両者の息子である。

 このことがハッキリするまでの過程は物語の展開の中で次第に明らかになってくる。それまでははてなと思うほど頭の中で交差してしまう。
 それはさておき、“子どもは親の行為に対してどれだけ責任を負うべきか”ということが主題になっている。関連して意識不明で身元不明の女の子の素性探しを通してミステリー調に物語は展開していく。
 当事者でないと軽々には判断できないが、果たしてこの作品の中ではどのように決着が計られていくのか。終盤を迎え、佳境に入っていく。

 この作品の前に読んだ横山秀夫の「64」とくらべると迫力が少し劣るかなと思えるが、じっくりと真に迫ってくる迫力は好ましく感じられる。
 ちょっと知りたいことが場面展開が入って、あっちこっちに飛んでしまうのが苛ついたりしてしまうのはどうか・・。

  

余談:
 汐灘サーガシリーズと称せられる「長き雨の烙印」、「断絶」、「夜の終焉」の3部作。サーガという言葉が気になり調べてみるた。 
 

〔アイスランド語で物語の意。サガとも〕

(1)古ノルド語による古代・中世の北欧散文物語の総称。主に13世紀以降,アイスランドで成立。アイスランド植民以後のことを年代記風に記したもの。長短百数十編に及ぶ。
(2)転じて,(長編にわたる)英雄伝説・武勇伝・冒険譚・歴史物語のこと。

背景画は、本書の真野亮介が乗っていたハーレースポーツスターのオートバイ かっこいい!

                    

                          

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