本書 2005年(平成年)1月刊行。書き下ろし作品。 堂場瞬一:(本書より)
1963年生まれ、茨城県出身。青山学院大学国際政治経済学部卒業。新聞社勤務のかたわら小説を執筆し、2000年秋「8年」(集英社)で第13回小説すばる新人賞を受賞。著書に「雪虫」「破弾」「熱欲」(中央公論新社)、「マスク」「いつか白球は海へ」(集英社)「天国の罠」(徳間書店)、「二度目のノーサイド」(小学館)、「棘の街」(幻冬舎)、「焔−The Flame」(実業之日本社)などがある。
北見貴秋(たかあき) (35歳) 妻 香織 娘 明日菜
父親の「南多摩法律事務所」の所長を引き継ぐも、弁護士でないためと、薬物中毒で入院、つぶす。 あの事件で今川出流に助け出された恩を感じている。
今川出流(いずる) 妹 彩乃
北見の親友。片腕を無くし、両親もなくなり7年前日本を脱出、世界を転々として、「極北」を出版、評判を取る。2作目を出すため日本に帰ってくるも、2ヶ月前川に転落死。自殺と判断されている。服部奈津と婚約。 彩乃はアメリカに留学、弁護士として働いている。
藤山和俊 兄 清志
あの事件でなくなる。 兄の清志は少年野球チームのコーチをし、今川出流を期待して指導していたが、片腕を無くしたことで呆然となる。
島尾豊(みのる) 妻 秋穂 娘 千春(没)
藤代一泰(かずやす) 妻 美保子 娘 紘子(ひろこ) 長男 一樹
長期の薬物中毒治療から戻った北見貴秋は、幼馴染みの作家・今川出流が謎の死を遂げたことを知る。「業火」と題された遺作は何を物語るのか。真実を探す心の旅が始まる…。哀切の書き下ろし長篇サスペンス。 読後感: 序章で小学4年生の冬でのあの事件が描かれ、後の人生に色濃く影を落とすことに。 カタカナで表現された呼び名がその後の展開で正式な名前としてあゝ、あの時のということが判ってくる。さらに不幸なことにあの事件で助け出された北見貴秋と島尾豊、そのために片腕を失った今川出流、そして北見と付き合ったこともある今川と結婚をしたという奈津。北見は恩を受けたと感じ、さらに恋人から身を引くことになったのか。 そんな今川出流が7年ぶりの日本に帰ってきて、川に転落して死亡するという事件が起きる。自殺と警察が判断していることに、自殺をするような人間ではないとする北見が調べ出す。一方警察でも妻の鬱病の看病で片田舎に移動してきた定年間際の刑事藤代が疑念を抱いて動き出す。 話が作家と編集者の話が絡んでくることもあり、興味深く読み進む。今川のその後の生き様の風変わりさ(世界を放浪し、「極北」という紀行記本を出版)と、章の始めに出で来る「業火」という文があの事件をベースに描写されていること、当事者の一人島尾が小さい時から本好きで物書きになろうとしている描写で、「極北」の著者は島尾で、2作目に当たるのは「業火」でその作者は島尾ではないのかと思うように。 はたしてこの顛末はどう展開していくのやら。 ヤク中に苦しむ北見の記憶が飛んでいる間に今川を殺したのは自分かもと悩んだり、家族とのやりとり、島尾の家庭、藤代の家庭と日常生活のそれぞれの家庭の事情をおり込んでの現実性を感じさせながら、いよいよ決意を固めて最終章に向かう北見の対決姿勢に、今川が小学4年生で負ったことでの素の人物像が悲しい。 なかなか読ませる作品であった。
これまで堂場瞬一作品は刑事・鳴沢シリーズ、汐灘シリーズで何冊も読んできたが、どの作品の出来も充実していてなかなかおもしろい。読む本がたまたま見つからない時はつい手に取ってしまう作家の一人である。