堂場瞬一 『社長室の冬』



              2020-06-25


(作品は、堂場瞬一著 『社長室の冬』      集英社による。)
                  
          

  本書 2016年(平成28年)12月刊行。書き下ろし作品。

 堂場瞬一:
(本書による)  

 1963年生まれ。新聞社勤務のかたわら小説を執筆し、2000年、野球を題材とした「8年」で第13回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。スポーツ小説のほか、警察小説を多く手がける。「刑事の挑戦・一之瀬拓真」シリーズ、「警視庁犯罪被害者支援課」シリーズ、「警視庁追跡捜査係」シリーズ、「アナザーフェイス」シリーズなど、次々と人気シリーズを送り出している。ほかに「警察回りの夏」「蛮政の秋」「共犯捜査」「メビウス1974」「under the bridge」など著書多数。

主な登場人物:

[日本新報]
南康祐(こうすけ)

日本新報社長室勤。新報の危険人物として、手元に置いて封じ込めようと小寺社長の時社会部より移動。
新里新社長より新報「身売り」交渉に同席を命じられる。
・石島 社長室の室長。

酒井優奈(ゆうな) 社長室の同僚、27歳。帰国子女。
辻龍大(たつひろ) 南と同期。3年前、業界最高の新聞協会賞受賞の将来期待の人物が新報の「身売り」話に「先が厳しい」と退職。
東海林(しょうじ) 身体を壊し今は資料室勤務。南の同期、南にとって数少ない気軽に話の出来る人物。
新里明(にいざと)

小寺社長亡き後の新社長。20年前青井聡太の上司で、退職させた因縁がある。
・早坂会長 経済部出身。

東原

日本新報労働組合の委員長。南にとって社会部時代の先輩、40歳。
・町山副委員長。

[AMC]関係者
青井聡太(そうた)

AMCジャパン社長兼編集長。日本新報「身売り」の交渉相手。
20年前外報部部長新里に異動命じられ、辞職の因縁ある。

高島亜都子(あつこ)

AMCジャパン総務マネージャー。10〜24才迄アメリカ暮らし。
本社アリッサのスパイ役目。

アリッサ・デリーロ AMCのCEO、50歳。新報に「紙の全廃」条件を突きつける。
長澤英昭(ひであき)

日本新報の関連会社「日新美術館」館長。新報の個人筆頭株主。
親の代まで新報のオーナー。新報の身売り反対者。

[民自党]関係者 現政権の与党。
三池高志(たかし)

内閣改造で法務大臣外れ、政調会長。民自党の重鎮。元警察官僚。山梨選挙区。ネット規制派。
・渡秘書 20年も一緒に仕事、45歳。フットワークは軽い。       「しつっこいから気をつけろ」と評されている。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 編集局から社長室へ異動した日本新報新聞社・記者の南康祐。その頃、新聞社に未来はないと判断し、外資系IT企業への「身売り」工作を始めていた社長の小寺が急死。危機に瀕した大手新聞社が行き着いた結末とは…。

読後感:

「警察回りの夏」「蛮政の秋」に続く、「メディア三部作」完結編!と表された最後の作品。
 日本新報の南康祐(こうすけ)が甲府支局時代での誤報により、新報に多大の迷惑をかけた傷がなお抱えて本社に引き揚げられ、今度は社長室に異動になった南。
 小寺社長の急死により急遽福岡から社長に就任した新里社長の下で新報の身売りの案件担当を命じられ、命じられるままに動くことに記者としての意地を発揮することに。

 本作では新報の破滅危機を抱え、新聞とは一線を画すウェブを中心に展開する外資系のMCAへの身売りを画策するが、その相手先の担当が、20年前新報を辞職した青井聡で、辞職の原因を言い渡したのが新里当時法務部部長であった新里という因縁がある。
 この身売りにまつわる双方の駆け引き、その間にお互いの動向を探らんと利用したりされたりの南の存在。南の動揺は収まるどころではない。

 さらには、身売りに反対する勢力、中でも創業者の血筋で今は関連会社に追いやられている長澤英昭は紙の新聞がなくなることに反対、個人筆頭株主でもあり、与党政治家の三池高志を巻き込んで阻止しようと画策。
 また三池はメディア規制を目論見関与を深めようと。
 これらメディアを巡る壮絶な戦いが繰り広げられ、刑事物とは違う興味が尽きない。

 会社が存亡の危機に立たされた時に社員の動きも興味のある所。社会部のエースと言われた南の同期、辻龍大(たつひろ)は身売り話に会社の先行きが厳しいと判断し新報を早々と辞める決意をし、その行き先は・・・。また同じく同期で身体を壊したことで記者の仕事から資料室勤務だったが、田舎に帰り父親の新聞作りを手伝うと。南に告げたお願いとは・・・。
 細部にわたり人物を丁寧に描写されている所もこの作家の好ましい所と感じる。


余談:

 新聞記者というに限らず、作家とか物書きに限りなく関心があり、その人物の心の揺れとか喜怒哀楽が描かれていると感情移入が起こってしまう。堂場瞬一作品を多く読んでいるのもそんな所からか。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
戻る