堂場瞬一著 『警察回りの夏』








              2018-12-25
(作品は、堂場瞬一著 『警察(サツ)回りの夏』    集英社による。)
          
  
  本書 2014年(平成26年)9月刊行。書き下ろし作品。

 堂場瞬一:
(本書より)
 
 1963年生まれ。新聞社勤務の傍ら小説を執筆し、2000年「8年」で第13回小説すばる新人賞を受賞。「刑事の挑戦・一之瀬拓真」シリーズ、「警視庁犯罪被害者支援課」シリーズ、「警視庁追跡捜査係」シリーズ、「アナザーフェイス」シリーズのほか、「解」「検証捜査」「グレイ」など著書多数。 
    

主な登場人物:

南康祐(こうすけ) 日本新報甲府支局の記者。甲府で記者生活6年目、今年の初めサツキャップに東京本社勤務を熱望中甲府警察署刑事部参事官の石澤からの誤報を真に受け窮地に陥る大学時代高石の最後の教え子
日本新報甲府支局の関係者

・支局長 水鳥
・デスク 北嶋
・新人記者 満井

東京本社の関係者

・社長 小寺政夫
・編集局長 新里明
(にいざと)
・編集局次長 芳賀
(はが)
・地方部長 道原
・政治部長 友田
(ともだ)

甲府警察署関係者

・副署長 益田
・広報官 溝内
・刑事部参事官 石澤巧
(たくみ)

警察庁関係者

・警察庁刑事局長 永原隆信
・警察庁刑事局長直属 香月智
(かづきさとし)

湯川和佳奈(24歳)
元夫 黒石隆則

県営団地B棟106号室に住む母子家庭。夫は中学の同級生、夫の暴力のため次女出産後1年で離婚。容姿は派手。
・二人の子供 希星(きらら 5歳)と乃亜(のあ 3歳)
事件は8月5日発覚 子供二人が殺され、和佳奈は行方不明。
ネット上では母親の殺人をほのめかし炎上。

湯川宗継(67歳)
 良子(62歳)

和佳奈の、実家に住む両親。
宗継はメディア攻勢を受け、悩み自殺をはかる。

外部の調査委員会メンバー

・高石要(かなめ)大学教授、74歳。元々新聞記者。80年代メディア論に関する一連の新書出し、ベストセラーを何冊か出している。委員長。
・元永孝也
(たかや) 弁護士、40代。しばしばメディア批判。
・諫山信一郎
(いさやま)財界出身、72歳。抑えになる人物。
経団連で要職まで勤めた。
・大隈純 元検事で弁護士。かっては東京地検特捜部でならす、50代。
・芝田孝之
(たかゆき)作家、元新報OB、40代。若い社会部記者だった頃編集幹部とトラブル、会社を辞めた。

三池高志 警察キャリアのOBの代議士。山梨一区選出。「メディア規制法」の強力推進派。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 幼児殺害事件発生。犯人は母親か、第三者か。警察、マスコミ、ネット…。錯綜する情報、遠ざかる真相。若手記者・南が新聞記者の矜持を懸けて奔走する。現代社会を照射する渾身の書き下ろし長編。        

読後感:

 これは面白い。甲府で“鬼母”とネットで揶揄される湯川和佳奈の小さな二人の子が殺され、その母親が行方不明の事件。マスコミは和佳奈の団地に、和佳奈の実家に大挙して押し寄せ、周囲の住民とのとの軋轢も顕在化、警察が注意に乗り出す事態に。さらに実家の父親が抗議と共に自殺までに。
 
 日本新報のサツ回り記者南は地方に6年、早く東京本社つとめになることをあせり、気心のあった警察の幹部である石澤参事官から、和佳奈の事情聴取そしてその後逮捕の感触を得て裏をとれないで記事を挙げ、新報は特報を打つことに。
 これが誤報とわかり一挙に日本新報は、そして南記者は窮地に追い込まれる。

 幼児殺しの犯人捜しは副題になってしまい、新聞社の対応に対して世間は、特にネット上は罵倒とも言える反響、外部委員会設置で何故誤報が生まれたかを検証することに追いやられる。
 この検証委員会の動きが興味深く面白い。ここまでは現代における色々な不祥事での報道でおなじみでそれが具体的に描写される過程がいい。
 
 その根底にあるのが”メディア規制法”を推進する元警察OBの三池代議士側と一方で警察庁での反対側の人間が絡んでいて、外部調査委員会の面々がそこにたどり着く過程も又面白い。
 一方、南記者は会社を抜け出し何故石澤が誤報を自分に教えたのかを一人で追求していく。
 ラスト、石澤の借りを返したいとの情報を得て、南が幼児殺しの犯人とインタビューの特ダネ記事を手にして返り咲き、本当のラストにその記事が記述されている展開は流石である。
 

余談:

 
新聞記事、週刊誌、テレビ、ネットとメディアの取材の仕方と言い、論調など今の世の中冷静に見ていると何を信用していいのか、信用できないのか、判断がなかなか難しい。特にネットの無節制ぶりは目に余る。従ってメディア規制法なるものも必要かなとも思えるなくもないが、どういう風に線引き出来るのかこれからのことかな。 
  
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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