小説の概要:
「雪虫」
人には失ってはいけないものがある。刑事になったのではなく、刑事として生まれた男が挑む人の闇。数10年に及ぶ連続殺人に挑む親子3代の刑事、鳴沢了。小説すばる新人賞作家の書き下ろし警察ミステリー。
「破弾」
あの「雪虫」の鳴沢了が警視庁にやってきた。再び現場に戻った鳴沢は何を見たのか。銃弾が削り取ったのは命だけではなかった。人の心の闇を描いた書き下ろし長編警察小説第2弾。
「熱欲」
ドメスティック・バイオレンスと悪徳マルチ商法。無関係に見えたふたつの事件が捜査線上で繋がった時、青山署刑事・鳴沢了の長く熱い夏が始まった…。警察小説の新境地を開くシリーズ第3弾。
読後感:
「雪虫」
出だしで発生した婆さんの殺し事件、小説の初めのイントロのような人物の紹介的なものかと思いきや、これがこの物語の中心の事件で、延々と最後まで関係してきたのに一種戸惑う。
鳴沢了、3代続く刑事の家系、しかも父親は事件の捜査本部の立った魚沼書の所長、祖父に育てられる了は、父親とは疎遠というか、不仲でむしろ向き合うのを避けている関係。
人間関係の描写もおもしろく、そっちの方だけでも興味が引かれる。ことに中学時代に好きだった小川喜美恵とのやりとりは秀一。はたして結婚まで行くのか、はたまた親子関係のしがらみを持った鳴沢了シリーズの今後が楽しみな側面を抱かせる内容に、やはりシリーズが出来るのも頷けた。
ちょうど高村薫の合田雄一郎の印象と、東野圭吾の加賀恭一郎のイメージが交差してこれからの展開に興味を抱かせる。
「破弾」
「雪虫」で祖父の死を黙認したことからいたたまれず新潟県警を辞めた鳴沢了、しかし刑事を辞められず警視庁に語学採用され、多摩署に。
自身悶々とした毎日を過ごしているが、ホームレスの傷害事件を担当することに。相棒はこれまたのけ者扱いされている小野寺冴というじゃじゃ馬娘。冴もまた犯人を射殺するという(しかも二発目を放つ)過去を持ち、なかなか心を通じ合わせられない。
大体2作目というのは一作目を超えるのが難しいのが相場だが、今回もそうかな?
でも一作目の了と喜美恵との関係が、了と冴の取り合わせとしては変化があり、なかなかおもしろい。
「熱欲」
県警の捜査一課や所轄の刑事畑一筋だったのが、今回は生活安全課。今回のテーマはDVと悪徳マルチ商法が捜査の対象に。
鳴沢と内藤優美の男女の関係も今回もうまくいかない予感。鳴沢の性格は今までにないキャラクターか。謹厳実直、正義感溢れるというか、自分に厳しく余裕のなさが気になるところ。このまま行くといつも暗い世界の中に沈んでいってしまいそう。
シリーズが進むに連れてどのように展開していくのか、マンネリにならぬよう願いつつ、又次の作品を読みたくなってしまっている。
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