堂場瞬一著 『雪虫』、
            『破弾』
            『熱欲』

       
(刑事・鳴沢了シリーズ)

 

              2012-11-25



 (作品は、堂場瞬一著 『雪虫』、『破弾』、『熱欲』  中央公論新社による。)

     
  

刑事・鳴沢了シリーズ
 「雪虫」   2001年(平成13年)11月刊行。書き下ろし作品。
 「破弾」   2003年(平成15年)1月刊行。書き下ろし作品。
 「熱欲」   2003年(平成15年)10月刊行。書き下ろし作品。
 

 堂場瞬一:
  
1963年生まれ、茨城県出身。青山学院大学国際政治経済学部卒。新聞社勤務のかたわら小説を執筆し、2000年秋「8年」にて第13回小説スバル新人賞を受賞。著書に「刑事・鳴沢了」シリーズの他、「神の領域 検事・城戸南」「長き雨の烙印」「約束の河」「焔――The Flame」「標なき道」、「チーム」「天空の祝宴」「青の懺悔」などがある。  

主な登場人物:

<雪虫>

鳴沢了(29歳)父親 宗治祖父 浩次(79歳)

新潟県警本部捜査一課刑事。本間あさ殺しの捜査本部に詰める。
父親 元県警捜査一課課長、現在は魚沼書の所長。
祖父 捜査一課一筋、刑事時代は“仏の鳴沢”で慕われる。了の育ての親。

刑事たち

県警捜査一課
・五嶋穣
(ごしまみのる)係長
・新谷寛英 先輩
・緑川聡 ベテラン部長刑事。刑事部の生き字引。
魚沼署
・大西海 鳴沢了の相棒。

石川喜美恵 鳴沢了が中学時代好きだった女の子。今は新潟銀行本店勤務。本間あさ殺人事件の被疑者の目撃者。14年ぶりに鳴沢了と再会。
<破弾>

鳴沢了(30歳)

警視庁多摩署の刑事。新潟県警を辞め、警視庁に採用されて多摩署に。コネで採用され、気取っているなどと陰口をたたかれ、まともな仕事は廻ってこない。
ホームレスの傷害事件担当に。被害者は膝をつぶされ、姿を消す。

刑事たち

・小野寺冴(さえ) 鳴沢了の相棒。モデルと刑事のアンバランス風。犯人を射殺したことから、じゃじゃ馬娘扱い。
・水島係長 鳴沢、小野寺には冷たい。
・筧 定年前の萬年巡査部長。くさる鳴沢に「見てる人間はちゃんと見てるんだから、手を抜かず全力でやれ」と。

沢口裕生(ひろお) 鳴沢にとって大学のOB、ラグビーOB会に誘う。今は中学の教師。鳴沢より15歳年上。
<熱欲>

鳴沢了(30歳)

警視庁青山署生活安全課の刑事。

刑事たち

・横山 警視庁に入って15年の巡査部長。防犯畑でキャリア、捜査班のキャップを勤める。
・池澤良樹 刑事課の刑事。鳴沢了と組む。

内藤七海
妹 優美
優美の子 勇樹

ニューヨーク市警の刑事。鳴沢がアメリカ留学時代のクラスメート。東京の祖父の死で日本に。10年ぶりの再会。
内藤優美は大学では心理学を専攻、日本に戻ってきて2年、今は“青山家庭相談センター”にボランティアで。

小説の概要:

 「雪虫」
 人には失ってはいけないものがある。刑事になったのではなく、刑事として生まれた男が挑む人の闇。数10年に及ぶ連続殺人に挑む親子3代の刑事、鳴沢了。小説すばる新人賞作家の書き下ろし警察ミステリー。

 「破弾」
 あの「雪虫」の鳴沢了が警視庁にやってきた。再び現場に戻った鳴沢は何を見たのか。銃弾が削り取ったのは命だけではなかった。人の心の闇を描いた書き下ろし長編警察小説第2弾。

 「熱欲」
 ドメスティック・バイオレンスと悪徳マルチ商法。無関係に見えたふたつの事件が捜査線上で繋がった時、青山署刑事・鳴沢了の長く熱い夏が始まった…。警察小説の新境地を開くシリーズ第3弾。


読後感
 

「雪虫」
 出だしで発生した婆さんの殺し事件、小説の初めのイントロのような人物の紹介的なものかと思いきや、これがこの物語の中心の事件で、延々と最後まで関係してきたのに一種戸惑う。

 鳴沢了、3代続く刑事の家系、しかも父親は事件の捜査本部の立った魚沼書の所長、祖父に育てられる了は、父親とは疎遠というか、不仲でむしろ向き合うのを避けている関係。

 人間関係の描写もおもしろく、そっちの方だけでも興味が引かれる。ことに中学時代に好きだった小川喜美恵とのやりとりは秀一。はたして結婚まで行くのか、はたまた親子関係のしがらみを持った鳴沢了シリーズの今後が楽しみな側面を抱かせる内容に、やはりシリーズが出来るのも頷けた。

 ちょうど高村薫の合田雄一郎の印象と、東野圭吾の加賀恭一郎のイメージが交差してこれからの展開に興味を抱かせる。

「破弾」
「雪虫」で祖父の死を黙認したことからいたたまれず新潟県警を辞めた鳴沢了、しかし刑事を辞められず警視庁に語学採用され、多摩署に。
 自身悶々とした毎日を過ごしているが、ホームレスの傷害事件を担当することに。相棒はこれまたのけ者扱いされている小野寺冴というじゃじゃ馬娘。冴もまた犯人を射殺するという(しかも二発目を放つ)過去を持ち、なかなか心を通じ合わせられない。
 大体2作目というのは一作目を超えるのが難しいのが相場だが、今回もそうかな?
 でも一作目の了と喜美恵との関係が、了と冴の取り合わせとしては変化があり、なかなかおもしろい。


「熱欲」
 県警の捜査一課や所轄の刑事畑一筋だったのが、今回は生活安全課。今回のテーマはDVと悪徳マルチ商法が捜査の対象に。
 鳴沢と内藤優美の男女の関係も今回もうまくいかない予感。鳴沢の性格は今までにないキャラクターか。謹厳実直、正義感溢れるというか、自分に厳しく余裕のなさが気になるところ。このまま行くといつも暗い世界の中に沈んでいってしまいそう。

 シリーズが進むに連れてどのように展開していくのか、マンネリにならぬよう願いつつ、又次の作品を読みたくなってしまっている。

  

余談:
 結局刑事・鳴沢了シリーズ第10弾まで読み進むことになってしまった。現在最終の「久遠」を進行中。3弾までに登場の、小野寺冴との関係は同じ性格のまま違うレールを走っていることになり、内藤優美との関係は煮え切らないまま・・・となるのか。友達が少ないという鳴沢も、結構相棒との信頼関係は築かれているようで、生き方に共感を感じる人間がいたということ。  
 背景画は、本書の内表紙を利用して。

                    

                          

戻る