堂場瞬一著 『孤狼』、
                   『帰郷』
                    『讐雨』
          (刑事・鳴沢了シリーズ)
                               2012-12-25

 (作品は、堂場瞬一著 『孤狼』、『帰郷』、『讐雨』  中公文庫による。)

 
  

刑事・鳴沢了シリーズ
 「孤狼」   2005年(平成17年)10月刊行。書き下ろし作品。
 「帰郷」   2006年(平成18年)2月刊行。書き下ろし作品。
 「讐雨」   2006年(平成18年)6月刊行。書き下ろし作品。
 

 堂場瞬一:
  
1963年生まれ、茨城県出身。青山学院大学国際政治経済学部卒。新聞社勤務のかたわら小説を執筆し、2000年秋「8年」にて第13回小説スバル新人賞を受賞。著書に「刑事・鳴沢了」シリーズの他、「神の領域 検事・城戸南」「長き雨の烙印」「約束の河」「焔――The Flame」「標なき道」、「チーム」「天空の祝宴」「青の懺悔」などがある。

主な登場人物:

<孤狼> 第4弾

鳴沢了
父親 宗治

青山署の刑事。

刑事たち

・今敬一郎 練馬北署の刑事。今回の相棒。図体がでかく、食欲旺盛。
・沢登(さわと) 本庁捜査一課の理事官。
・福江 渋谷中央署の刑事。
・小滝一浩 警視庁捜査一課の刑事。
・横山浩輔 警視庁の刑事。
・新谷寛英 新潟県魚沼署の刑事。

小野寺冴 元刑事。今は探偵事務所に勤務。
<帰郷> 第5弾

鳴沢了

警視庁の刑事(青山署?)。忌引で1週間新潟にとどまる。
今回の事件を通して父親の心情を理解することが出来るか?

刑事たち 新潟県警中署の刑事たち
・大西海(かい) 鳴沢了の協力者。
・安藤忠志 警察学校当時同期、鳴沢に嫉妬感を持っていて恥をかかせようと。
緑川聡(さとし) 元刑事、了にとって県警の捜査一課時代の先輩。現在は警備会社勤務。
<讐雨> 第6弾

鳴沢了(34歳)

警視庁東多摩署刑事課の刑事。(青山署から移動)
今回は連続女児殺人事件と、その犯人を釈放しないと爆破するという脅迫事件に奔走する。結末はまたまた苦いことに。

刑事たち ◇本庁関係
・石井敦夫(あつお)捜査一課警部補。刑事歴15年のベテラン。特別捜査本部で鳴沢とコンビを組む。
・溝口 特殊班係長。
・水城 捜査一課長。
◇東多摩署関係
・萩尾聡子(ふさこ)刑事課の刑事。結婚して2人の子供有り。
 間島を釈放せよの爆発事件では鳴沢と組む。
・鳥飼 刑事課の課長

内藤七海
妹 優美
優美の子 勇樹

ニューヨーク市警の刑事。鳴沢がアメリカ留学時代のクラスメート。東京の祖父の死で日本に。10年ぶりの再会。
内藤優美は大学では心理学を専攻、日本に戻ってきて2年、今は“青山家庭相談センター”にボランティアで。   <削除?>

間島重(しげる)

1ヶ月の間に小学校の女児ばかり3人を次々と誘拐、殺人、死体損壊、遺棄、逮捕され東多摩署で取調中。
被害者宅に切りとった髪の毛を送りつけている残虐性と自己顕示欲の異常者。


読後感
 

「孤狼」
 本庁捜査一課の沢登理事官から青山署の鳴沢了と練馬北署の今敬一郎が極秘の特命を命じられる。内容は堀本と言う刑事が一人死に、それがもみ消され戸田という刑事が行方不明になっている。その戸田を捜し出すこと。
 今とのコンビのやりとり、小野寺冴えと優美との間の微妙な関係も興味深い。
「破弾」でコンビを組んだ小野寺冴の怨念のことも明かされる。

「帰郷」
 4年前に新潟県警を辞め、警視庁に再就職した鳴沢が父親の葬儀のため新潟に戻っている1週間の出来事がテーマ。15年前の父の唯一の未解決の殺人事件である、被害者の息子(鷹取正明)が、犯人の名(羽鳥)を挙げて事件の洗い直しを了に頼みに来る。

 二人の親友同士(鷹取と羽鳥)の争いからの羽鳥による殺人なのか、はたまた時効が成立した後、残された息子鷹取正明が羽鳥を殺すことになるのか。
 管轄外の鳴沢了は、捜査権もないところでの第三者の立場での事情調査になかなか真相にたどりつけない。そして父親がたどりつけなかった点に気づく時事件は解決に向かう。
 鷹取正明と羽鳥の人物像がどうしてかはっきり結べなくて、結局混乱してしまうことになった。その辺も結果につながっているのかも知れない。

「讐雨」
 今回のテーマは3人の小学生の女の子を誘拐、殺人、死体損壊、遺棄さらに被害者宅に髪の毛を送りつけるという間島という異常者の取り調べ。その最中に間島を釈放しないと爆発を起こすというこれまた理解に苦しむ爆破予告者との対決。

 間島に対する、ムナクソが悪くなる相手の取り調べに神経がおかしくなる鳴沢、そして過去に痛みを持つ石井の執念ぶり。
 作品を通して鳴沢了の性格や考え方が次第に露わになってくるようで、最初の頃の祖父の自殺へ追い込んだこと、友人を撃ち殺したことの傷を抱えていたのとは違った面が露わに。
 鳴沢と内藤優美の関係は第3作からまだ続いているようで、決断がつかないことは今回も同様である。

印象に残る場面:

「讐雨」
 石井が鳴沢に言う言葉:
「お前は刑事でいろ」・・・
「お前には刑事の本分を忘れて欲しくない。俺たちが仕事で迷った時に、お前を見れば答えが分かるような存在でいて欲しい。お前はそういうことができる人間だよ・・・もっとも、俺はもうお前を見て仕事をすることもないだろうけど」


  

余談:

 今回の「讐雨」は迫力といい、内容といい、光る物が感じられる。今までの作品がそうでないというのでなく。共感するところが多く、しかも一つのテーマで一貫して通っているからではないだろうか。特にラストの方は息も付かせぬ迫力と読者を引き込む力があった。鳴沢了シリーズが好評なのが判る気がした。
 背景画は、本書の内表紙を利用して。

                    

                          

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