堂場瞬一著
              『歪』、『逸脱』




                  
2014-05-25


(作品は、堂場瞬一 『歪』、『逸脱』   角川書店による。)

          

 
『歪』
 本書 2012年(平成24年)1月刊行。書き下ろし作品。

『逸脱』
 本書 2010年(平成22年)8月刊行。書き下ろし作品。
 
堂場瞬一:

1963年生まれ、茨城県出身。青山学院大学国際政治経済学部卒業。新聞社勤務のかたわら小説を執筆し、2000年秋「8年」(集英社)で第13回小説すばる新人賞を受賞。著書に「雪虫」「破弾」「熱欲」(中央公論新社)、「マスク」「いつか白球は海へ」(集英社)「天国の罠」(徳間書店)、「二度目のノーサイド」(小学館)、「棘の街」(幻冬舎)、「焔−The Flame」(実業之日本社)などがある。

 主な登場人物:
『歪』
澤村慶司 県警の刑事。10年前の事件で幼い子供を殺してしまったことを契機に、最高の刑事になると決める。立ち直らせてくれた谷口課長を恩師と思っている。
橋詰真之

県警情報統計官、警部。プロファイリングの専門家。刑事部長の肝いりで就いたポスト、特権でどこにでも首を突っ込む。
澤村はプロファイリングのことを信用していない。

永沢初美 生活安全課から捜査一課に引き揚げられる。別の斑だが澤村と一緒に仕事をすることが多い。
県警、所轄の人間たち

・谷口捜査一課長 澤村とは師弟関係の仲。
・長田班長 澤村の上司。
・今岡 澤村とコンビの所轄の刑事。元々柔道の選手。
・末田 捜査二課の刑事。悪い噂の持ち主。
・浅羽 暴対課の刑事。澤村と同期。

井沢真菜
(22歳)
母親 亮子
(りょうこ)
19歳で妊娠して結婚するも離婚、別の男と付き合う。
長浦市の福住町に住む。

日向毅郎(たけお)
母親 登喜子

振り込め詐欺のリーダー、22歳。東北出身、井沢真菜とは高校の同級生。長浦市の臨港町に住む。
振り込め詐欺のグループ

・氏原 出し子(受け取り役)。
・高塚 警官役。
・立石 弁護士役。

本多 日向を引き込んだ人物。胴元的存在。
落合 ブローカー、中国とのパイプあり。

『逸脱』
澤村慶司 県警捜査一課強行犯係の刑事。10年前犯人を撃てずに狭間千恵美(4歳)を殺されてしまったことをトラウマにしている。
橋詰真之 県警刑事部付きの情報統計官。警部。
永沢初美 中出署生活安全課の刑事。澤村の相方に。
県警捜査一課

・谷口課長 澤村を庇ってくれる上司。
・西浦管理官 人の意見を聞き入れすぐそれにのるタイプ。自分の考えを持たないように映り、澤村が毛嫌いする人物。

鬼塚修平 伝説の男。自分の意見と合わない管理官と大喧嘩、謹慎処分をくらい辞職。10年前の事件の時、澤村に「しっかりしろ!お前は間違っていない!」と一度だけ交わったことがある。
菊川 鬼塚に辞職を勧めた上司で。現在は長浦中署の所長。
柏原 鬼塚が辞めた時の本部長。現在はコイン式駐車場を全国展開する大手会社の副社長。
連続殺人事件の被害者

・神田雅之(55歳)無職。(at 港市内の公園)
・青葉亘(37歳)会社員(at 長浦市の海岸に面した緑地)
・長倉礼二(41歳)勤務態度不良で大手製鉄会社1年半前退社。その後離婚、アルコール依存症に。(at 中出市宮原)
・石田要 元県会議員の秘書。現場は中出署管内。


 物語の概要:
(図書館の紹介記事による)

『歪』
 殺人を犯した男が故郷で出逢った女。女にも、人に知られてはならない過去があった。逃避行を始めた2人を追い、刑事・澤村は雪国へ…。「逸脱」のその後を濃密な筆致で描く、著者渾身の書き下ろし犯罪小説。

『逸脱』
 10年前の連続殺人事件を模倣した、新たな殺人事件。県警を嘲笑うかのように打たれる犯人の予想外の一手。周囲と対立し孤高を貫く県警捜査一課・澤村の単独捜査行が始まる…。著者真骨頂にして新境地の警察小説。


 読後感:

『歪』

 加害者の側からの描写と警察側の描写が同等の重きを置いて描かれていることにちょっと違う感触を得る。
 加害者側の生い立ち、大学生の若者というイメージが湧かない位、現代社会のゆがみというか、そんな社会から生まれた人物像に悲哀感と同情面も含め澤村刑事が感じたものと同じ感覚を味わう。

 特に井沢真菜の諦めきって生きる迫力も失った姿には気味悪さもまとわりつく。
 ともあれ振り込め詐欺グループのリーダーであった日向がグループを解散させひとまず姿を消して逃亡を図る行動に出たのに対し、澤村刑事側の追跡という構図も展開が快調で結構おもしろく読んだ。
 小説の最初の方は詐欺グループの話でこの本の前に読んでいた「約束の河」の余韻に対し、ちょっと引き気味になっていたが、次第にこの物語に引き込まれていったが・・・。

『逸脱』

 「歪」を先に読んだので、澤村、谷口、橋詰、初美の人柄が頭に入っていてなるほどと。
 意外だったのが、橋詰との関係。「歪」での方がもっと初めての対面で、その性格ぶりがあからさまな感じである。そして初美との付き合い方も「歪」での会話の内容がスッキリと判る感じでこういう読み方も結構おもしろかった。
 とはいえ、本「逸脱」の書きっぷりには迫力があった。

「歪」の犯人側の描写と警察側の描写が対等である雰囲気はまるでない。むしろ犯人側からの描写は警察の動向を暗に見つめて批評している。そして途中から犯人と犯人との話し相手が誰かが推測でき、それでもその後の展開は興味のあるもので本作品もなかなか捨てがたいと感じた。

 澤村という刑事と鬼塚という刑事が、警察内部での立ち位置を同じような環境にいながら、澤村の方はそれを理解し庇ってくれる人間がいたこと、かたや鬼塚の方は警察を飛び出さざるを得なかった境遇。今まで読んだ刑事物でもちょっと経験しなかった人物像に興味が起きた作品であった。

   


余談1:

 澤村と橋詰めのやりとりはなかなかおもしろい。橋詰めの体に似合う奔放で自分勝手な言動とと性格、一方澤村が毛嫌いするも橋詰めの一言にヒントを得たり、迷って困った時に橋詰めの考えを聞いてみたりと。そして橋詰めのクライマックスでの存在が澤村を支援するシーンは「歪」「逸脱」の両作品で小気味よく、この取り合わせも今後を期待させてくれる。

余談2:

 澤村慶司シリーズに「逸脱」「歪」そして「執着」の3作品があり、最近テレビドラマで「執着」が放映された。澤村役の人物像はちょっとイメージが異なるようで違和感がぬぐえなかったが、小説からイメージする人物と実写の像がマッチして両方ともおもしろいと感じる場合はなかなかないが、そういう点では今野敏作品の「隠蔽捜査」は秀逸と感じてしまった。

       背景画は堂場瞬一原作澤村慶司シリーズ、TVドラマ「執着」のワンシーンより。                        

戻る