堂場瞬一 『蛮政の秋』



              2020-05-25


(作品は、堂場瞬一著 『蛮政の秋』      集英社による。)
                  
          

 初出 「小説すばる」2015年1月号〜8月号。単行本化にあたり、加筆訂正。
 本書 2015年(平成27年)12月刊行。

 堂場瞬一
(本書による)  

  1963年生まれ。新聞社勤務のかたわら小説を執筆し、2000年、野球を題材とした「8年」で第13回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。スポーツ小説のほか、警察小説を多く手がける。「刑事の挑戦・一之瀬拓真」シリーズ、「警視庁犯罪被害者支援課」シリーズ、「警視庁追跡捜査係」シリーズ、「アナザーフェイス」シリーズなど、次々と人気シリーズを送り出している。ほかに「警察回りの夏」「複合捜査」「黄金の時」「Killers(上・下)」など著書多数。 

主な登場人物:

[日本新報]
南康祐(こうすけ)

日本新報社会部遊軍。
甲府支局での、誤報事件で会社を窮地におとしめた過去を持つ。

河合真二郎 先輩記者、40歳。粘着質で眼差しだけは冷たいタイプ。
南と同期。事件取材のスペシャリスト。社会部の王道をゆく。
小寺政夫 日本新報の社長。
新里明(にいざと) 常務取締役副社長(九州本社代表)。その前は取締役東京本社編集局長、社長の右腕と言われ、近い将来の社長候補とも言われていた。
[政友党] 野党。2年の政権交代、東日本大震災後再び下野。
富永卓生(たくお)

国会対策副委員長。外務省出身の二世議員。選挙区山梨県。
大江チルドレン。
・事務員 高木匡子(きょうこ)

廣井浩介 富永の子分。
大江波流(はる)

政友党幹事長。旧大蔵省出身。富永の親分。
・職員 米山 幹事長室の若手。名古屋で新聞記者をしていた。

西貴幸(たかゆき)

大江チルドレンで当選一回、3年在籍後落選。現在辻立ちの毎日出次回の復帰を目指している。IT企業の企業経験あり。
・秘書 水元 元大江事務所のスタッフ、55歳。

[民自党] 現政権の与党。失策続きで崩壊、政友党に取って代わられた後、再び与党に返り咲く。
三池高志(たかし)

法務大臣、民自党の重鎮。元警察官僚。山梨選挙区。富永のライバル。
・地元秘書 福永慶介

井上行雄 民自党副幹事長、51歳。西貴幸に民自党で出馬を誘う。

相原隆俊
妻 一美

JPソフトの執行役員、ネットワークビジネス部長。
赤城裕美(ひろみ) 「新日本政治研究所」の主宰者。メールマガジンによる国政と経済分析のレポート作成。情報の整理人。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 新聞記者・南のもとに送られてきた、政界を揺るがす1通のメール。送信したと思われる人間は姿を消していた。真相を追い求めた先にあるものとは…。虚実入り乱れる情報社会を捉えた渾身の長編小説。

読後感:

 先の「警察回りの夏」の第2弾。日本新報甲府支局での誤報騒ぎを起こし、その後特ダネで名誉を回復し念願の本社の社会部遊軍に籍を置く南記者に、得体の知れないメールが送られてくる。誤報による会社に損害を与えたという事実は南記者に深い傷を残している。何とか特ダネをものにしたいと言う思いと、メールに添付されていたリストが本物なのかという不安での葛藤が続く。

 一方、与党から転落した政友党の富永卓生議員は山梨を選挙区とする二世議員。父親を越えたい思いは強く、自身に送られてきたメールと添付リスト(JPソフトから政界に送られた献金リスト)の名簿を武器に国会で三池法務大臣にぶつけるも軽くいなされ大失態を起こす。
 富永もこの大失態を取り返し、同じ山梨を選挙区とする三池をぎゃふんと言わせたい。
 この新聞記者南と政治家富永が組んでことの真実を暴こうと奔走する物語である。

 マスコミと政治の世界との関係、そしてSNSによるメディア規制を法制化しようとする動き、さらに政友党の先が見えないところから、与党民事党に乗り換えようとする西貴幸代議士の動き、色々複雑だが現在の政治の有様に裏付けられる世界が展開し、興味深く読むことに。

 刑事物と違ってメールの出所とか、リストの信憑性とかの事柄は明らかになるものの、南記者の運命や富永議員のその後は果たしてどのようになっていくかは闇の中。
 3弾「社長室の冬」を期待することに。


余談:

 久しぶりに政界とメディアの世界に関する小説を読んだ感じである。政治内部の特に人事面での物語では高村薫著の「晴子情歌」や「新・リア王」の印象が強い。現実の政治家の名前が出てきてやり取りがすさまじかった。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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