大門剛明 『優しき共犯者』



              2020-06-25


(作品は、大門剛明著 『優しき共犯者』      角川文庫による。)
                  
          

 初出 2011年7月刊行された単行本「共同正犯」を加筆・修正の上改題し文庫化。
 本書 2017年(平成29年)8月刊行。

 大門剛明:
(本書による)  

 1974年三重県生まれ。第29回横溝正史ミステリ大賞とテレビ東京賞をW受賞した「雪冤」で2009年デビュー。社会はミステリの新鋭として高い評価を受け、注目を集めている。他の著書に、「」「罪火」「確信犯」「獄の棘」「テミスの求刑」「JUSTICE」など。

主な登場人物:

鳴川仁(なるかわ・じん)
母親 杏里
(あんり)

夢前川(ゆめさきかわ)駅近く「利庵」という小さな居酒屋を営む、37才。10数年前まで弓岡製鎖工業で働いていた。翔子に思いを寄せている。
・母親 姫路の人間。駆け落ちして東京で鳴川を産む。父親は愛人と失踪、居酒屋はかって母親がやっていた店。

鬼塚萌
両親

「利庵」のアルバイト店員、22才。明るく店の人気者。
・父親 鬼塚哲也 鬼塚建材を経営。

弓岡翔子(しょうこ)
父親 喜八

弓岡製鎖工業の二代目社長。先代喜八社長の一人娘。
石井鉄鋼の、雇われ社長、連帯保証人。

山崎祥二

弓岡製鎖工業の重役。工場の実質的社長、56才。やもめ暮らし。
翔子とは運命共同体。

浅尾昌巳(まさみ)

弓岡製鎖工業の溶接場のエース。無口で超真面目、人付き合い苦手。鳴川仁と同学年だった。

藤井清子

元看護師、70近い。飾麿(しかま)にある居酒屋を営む。
鳴川が料理の修業をしたところ。先代喜八社長の入院時の看護師。

茉莉子(まりこ)
<本名 近藤信子>

源氏名、風俗店で働く30前後の綺麗な女性。かって長山と関係があった。
石井一樹(かずき) 網干(あぼし)にある石井鉄鋼の跡継ぎ。弓岡製鎖工業と昔から提携関係。一樹はちゃらんぽらんで会社つぶし、借金(3億2千万)残して失踪。
長山和人(かずと)

長山不動産を営む、47才。大学卒業後街金に勤務、非合法な方法で債権を回収する専門家に。評判は決して良くない。
石井鉄鋼倒産の債権者。絞殺されて発見される。

小寺沢義彦

NPO法人「しらさぎBANK」理事長、40才。
連帯保証人無しで金を貸すを謳い。かって弓岡製鎖工業で働く。

岩田公平 兵庫県警のベテラン刑事、警部補。敵に回すと恐ろしい相手。
だが味方につければこれほど頼もしい相手もいない。

池内準規(じゅんき)
妻 千春
娘 聖菜
兄 池内篤志
(あつし)

神戸大法学部卒、巡査部長、32才。姫路署勤務。岩田のコンビ相手。
・篤志 かって弓岡製鎖工業で働いていた鳴川や浅尾の仲間。
鳴川に金を借りていたが失踪。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 父から継いだ製鎖工場で女社長を務める翔子は、連帯保証債務を押し付けられ、自己破産の危機に追い込まれていた。翔子に想いを寄せる鳴川は金策に走るが、債権者の長山には相手にもされない。その矢先、長山が死体となって発見され…。

読後感:

 小説の主人公は鳴川仁と刑事の岩田公平と池内準規の3人。姫路の夢前川(ゆめさきがわ)の畔にある弓岡製鎖工業(船舶のアンカーチェーンを製造。姫路は鎖の生産量日本一の町)の二代目翔子社長に思いを寄せる従業員達や、かってそこで働くも今は辞めて「利庵」とい居酒屋を営みながらも、翔子に好意を持っている鳴川仁。

 石井一樹という石井鉄鋼の跡継ぎ息子のめちゃくちゃな経営で倒産になり、失踪してしまったその会社の、雇われ社長で連帯保証人となっていて、手続きのミスで負債を背負い込む羽目になった翔子が、評判の悪い債権者の長山和人殺しの犯人かと疑われる。

 そんな翔子の為に高額の負債の弁済を用立てようとか、殺人犯人でないことを心配する心優しき人間達が織りなす複雑な心理戦を制するのが、姫路署のベテラン岩田警部補と若いがコミュニケーションを取るのが苦手な池内刑事の活躍が展開される。

 鳴川を中心に、長山殺しがてっきり翔子の仕業と思い、とっさに遺体を異動してしまい警察の追求を恐れながらも借金の返済調達に奔走する姿。
 方や岩田刑事と池内準規のコンビは、岩田の洞察力に池内準規がヒントを掴みながら次第に刑事として成長していく姿がある。後半になってくると、池内準規が兄の篤志の失踪について鳴川を追い詰めていくほどに。

 長山殺しの犯人像がなかなか絞られない展開に、岩田が最初に言った一筋縄でいかない案件と言わしめるとおり、翔子を守りたいという弓岡製鎖工業の関係者の優しさと、14年前の出来事が絡まっていることがラストに明かされる。
 そして死体遺棄を働いた鳴川は、14年前のことも知っていたことも明らかになり、逮捕劇はハッキリ描写されないも自らけじめを付けることに。

 連帯保証人制度の問題を指摘する課題も読者にも納得がいく社会派小説でもあり、翔子の周りの人間の人情劇でもある。池内準規の成長ぶりも後半は主人公役としても頼もしい限り。


余談:

 作品中鳴川の愛聴曲という「もうひとつの土曜日」。
 解説(香山三郎氏)によると1985年に発表された浜田省吾作詞・作曲のバラードで、野島伸司脚本、鈴木保奈美、唐沢寿明主演のドラマ「愛という名のもとに」の挿入歌として広く知られているという。
 YouTubeで聴いてみて歌といい、歌詞に納得。鳴川の思いが表されている。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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