大門剛明著 『 雪冤 』



              2019-05-25

(作品は、大門剛明著 『 雪冤 』       角川文庫による。)

          

  初出  2009年5月単行本として刊行されたものに加筆・修正。
  本書 2011年(平成23年)4月刊行。

 大門剛明(だいもん たけあき)
(本書より)
 
 1974年三重県生まれ。龍谷大学文学部卒。「雪冤」で第29回横溝正史ミステリ大賞及びテレビ東京賞をW受賞。著作に「確信犯」「告解者」「共同正犯」など。

主な登場人物:

八木沼悦史(61歳)
妻 咲枝(没)
息子 慎一

15年前息子の慎一が(京都)堀川で、二人(沢井恵美、長屋靖之)を殺し逃げた犯人として逮捕され、死刑囚として執行を待つ身に対し、冤罪として“犯人逮捕の情報提供依頼”のビラ配りをしている元弁護士。
・妻の咲枝は40になる前に若くして病死。
・慎一 京大法学部を卒業、あおぞら合唱団としてホームレス支援をしていた。逃げる犯人を見たと訴えるも、取り上げられず最高裁で死刑判決。沢井恵美は慎一の恋人だった。

石和洋次 四条法律事務所の弁護士。八木沼慎一の再審弁護人。八木沼慎一があおぞら合唱団で歌っているところを見た当時は、弁護士を目指し、工場で働きながらホームレス暮らしの勉強中だった。

沢井菜摘(28歳)
姉 恵美
(めぐみ)

姉が殺された事件当時13歳の妹は、今は臨床心理士。
・当時沢井恵美はスーパー店員の19歳。長尾靖之は龍谷大学の男子学生で八木沼慎一(当時22歳)と三人が中心であおぞら合唱団を形成しホームレスの支援をしていた。

長尾靖之(やすゆき)
弟 孝之
(たかゆき)

長尾兄弟は実は悪がきだった。
やっさん

鴨川にかかる荒神橋の下に住むホームレス。毛の抜けた犬を連れている。事前活動家。何か深い事情がありそう。
弁護士を目指していた若い頃の石和洋次と知り合い。

持田
<本名 河西治彦>

フリーター。ギターを町中で弾き、八木沼悦史に近づきビラ配りを手伝う。

河西治彦(はるひこ)
母親 踏子
(とうこ)

18年前のある殺人事件の犯罪被害者遺族。
事件は八木沼悦史が駆け出しの弁護士の時加害者(幼児にいたずらし絞殺した犯人 神谷実)を弁護、仮釈放中神谷はそこで働いていた工場長(河西治彦の父親)を殺し、娘をさらいその後自殺。
・母親の踏子 神谷からのむごい仕打ちに、死刑について考えるようになったと。

真中由布子(ゆうこ) ジャーナリスト。社会問題を中心に活動している元アナウサー。
佐々木牧師

大将軍教会の牧師。鴨川のホームレスの支援活動をしている。
やっさんのことを知っている。

教誨師(きょうかいし) 大阪拘置所の教誨師。スキンヘッドの男。

秋山鉄蔵
兄 梅蔵

兄の梅蔵の死の事故死に疑問を持ち、調べている。
・兄の梅蔵は酔って中書島のホームから転落死。警察では事故死と判断される。

メロス 「走れメロス」のメロスと名乗る真犯人。
ディオニス 「走れメロス」の邪悪暴虐の王。堀川殺人の首謀者を指す。
ディオニス

補足:<堀川の殺人事件> 沢井恵美と長尾靖之のふたりが刺され、血を付けた八木沼慎一が玄関から飛び出して逃げるのが目撃されていた。慎一が犯人と断定され最高裁で死刑判決が確定。長尾が背中一刺しに対し、沢井恵美は滅多刺し状態だった。
 慎一は逃げる人物を見たと無実を叫んだが。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 時効直前、死刑が確定した男の父親にかかってきた1本の電話。それは真犯人を名乗る人物からだった…。死刑制度と冤罪に真正面から挑んだ衝撃の社会派ミステリ。第29回横溝正史ミステリ大賞&テレビ東京賞受賞作。          

読後感:

 父親が息子の無実を信じその為街頭に出て情報提供を訴えビラ配りをするという状況は、ドラマなどでも良くあるシーンである。その犯人探しかと思いきや、いやいや真犯人から謝りたいとの電話が入る。それも被害者の妹沢井菜摘に、さらに再審弁護人の石和洋次にもと。
 但し、時効成立までの日を過ぎるまで待ってとの条件付きで。

 それだけではない、八木沼には5千万円を要求する条件まで付けて。一体犯人は愉快犯なのかその狙いは何?
 さらにさらに真犯人との接触時の様子、死刑囚慎一の死刑執行が行われてしまう顛末、やっさんという謎の人物の真相、八木沼に近づいてきた持田という男の行動、突然名前が出てきた感のある秋山鉄蔵が調べる兄梅蔵のホームからの転落しに関する事件との関連とかとにかく慎一の死刑執行に関わる冤罪を晴らすための仕掛けが多彩で、読者はしばし翻弄されてしまう。

 社会派ミステリー作家と呼ばれるごとく、死刑制度に対する色々な見解、議論が掘り起こされ読者自身にも考えさせられる内容となっている。
 太宰治の「走れメロス」の作品中に出てくるメロスやディオニスが重要な要素として意味を持たせられている。
 

余談:

 解説(山田宗樹)にこの作品の著者のうまさが評されている。描写のうまさ(簡潔かつ生き生きと、読者に想像力を起こさせる、読者を完全に作者のペースに乗せる)そして登場人物すべてに血が通っていると。なるほど、こんな褒め言葉がある作品とはと思わせる。        
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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