知念実希人 『ひとつむぎの手』



              2022-01-25


(作品は、知念実希人著 『ひとつむぎの手』    新潮社による。)
                  
          

 
本書 2018年(平成30年)9月刊行。書き下ろし作品。

 知念実希人
(ちねん・みきと)(本書より)

 1978年、沖縄県生まれ。東京慈恵会医科大学卒、日本内科学会認定医。2004年から医師として勤務。2011年「レゾン・デートル」で島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞。2012年、同作を「誰がための刃」と改題し、デビュー。 「天久鷹央」シリーズほか、「あなたのための誘拐」「仮面病棟」「時限病棟」「螺旋の手術室」「屋上のテロリスト」「黒猫の小夜曲」などの著書がある。2018年、「崩れる脳を抱きしめて」が本屋大賞ノミネート。

主な登場人物:

平良祐介(たいら)
妻 美代子
娘 真美

純正会医科大学付属病院の心臓外科に入局して6年以上、30代の半ば。3名の2年目の選択研修医の指導医を命ぜられる。
祐介は関連病院に出向するときは、富士第一総合病院の心臓外科を強く希望している。
・美代子 祐介が多忙な勤務のせいで、真美のイベント出席や育児は全て妻に任されている。
・真美 パパが大好き。

諏訪野良太 循環器内科医。学生時代空手部、祐介の1年後輩。 院内の情報通。
針谷淳(はりや・じゅん) 心臓外科の医師。学生時代空手部、祐介の1年後輩。赤石教授の甥。
心臓外科の人々

・赤石源一郎 心臓外科教授。成人心臓外科グループの責任者。
・肥後太郎 心臓外科の医局長。
・柳沢千尋
(ちひろ) 小児心臓外科グループのリーダー、准教授。40代半ば。
・敷島和樹
(かずき) 心臓外科の准教授。

循環器内科の人々 ・定森剛治(ごうじ) 循環器内科教授。
<心臓外科医局に来た三人の研修医たち>

・郷野司 学生時代アメフト部。手術にしか興味がない。赤石教授にあこがれ。
・牧宗太 万能細胞による心筋再生の研究に関心。
・宇佐美麗子
(れいこ) 小児心臓外科に興味。

<患者>
高橋吾郎
妻 マツ

冠動脈の数カ所に著しい狭窄の80歳。U型糖尿病でインスリン治療中。
・マツ 3週間後に孫の結婚式に出席させたいと。

青木絵里香
父親 光也
母親 聡子
(さとこ)

悪性の心臓腫瘍の患者、14歳。 4年前手術(柳沢、平良関係)したが再発、入院してくる。
医師を信用せず、反抗的態度を取る。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 岐路に立つ外科医に課せられたミッション。医師として、人として、一番大切なものは何か。医療ミステリーの旗手が挑む、胸を打つヒューマンドラマ。

読後感:

 心臓外科の明石教授は心臓冠動脈バイパス術の権威。それに憧れ入局してきた主人公の平良祐介が、3名の研修医の2名を心臓外科に入局させたら、希望の出向先を考えてもいいとの条件で指導を始める。3名の研修医との関係には色々波乱含み。 さらに医局内では赤石教授のデータ改ざん疑惑の怪文書がばらまかれ、犯人捜しで戦々恐々に。

 研修医との最初の扱いに失敗した祐介は全く自信を失い、戸惑う姿をさらしていたが、 こと患者との信頼関係は優れたものがあり、反抗的な郷野や、一歩引いていた感の牧も次第に「平良先生ファンクラブに入会したみたい」と宇佐美に言わしめる。

 一番祐介を理解していたと思われる宇佐美の隠れた事情から、14歳の患者青木絵里香に対する医師としての対応ぶりが、祐介の怒りをかい、「医師を止めろ」とまで言わせるシーン、そしてその後の宇佐美の対応、絵里香の最後のシーンには涙を禁じ得ない。
 患者と対応したときの祐介の姿は自信に溢れ、その姿に研修医たちが感化されて心酔していく様子は見事。

 後半には赤石教授に心筋梗塞を発症、バイパス手術を担当する第一助手に祐介が選ばれると思っていたのが、まさかの後輩の針谷に。落ち込む祐介は関連病院への出向は心臓外科のない沖縄の小さな病院確定と悟り、妻にも告げる。果たしてこのあとどういう展開が待っているのか。
 犯人探しも祐介は気づいて取った手段は・・・。
 多少のミステリー性は残しているが、本作品はヒューマンドラマとして面白かった。


余談:

 知念実希人作品はこれまで「螺旋の手術室」(2017年10月文庫本刊行)「仮面病棟」(2014年12月刊行)の2冊を読んでいたが、いずれも医師であることから病院にまつわる話題が多い。
 今回は心臓外科の手術にまつわる詳細があり、身近なことでもあり、興味深く読めた。
 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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