彩瀬まる著 『桜の下で待っている』


 

              2016-10-25



(作品は、彩瀬まる著 『桜の下で待っている』   実業之日本社による。)

          
 

 初出 モッコウバラのワンピース 「紡」Vol.10 (2014 Winter)
     からたち香る       「紡」Vol.10 (2014 Summer)
     菜の花の家        「月刊ジェイ・ノベル」2014年12月号
     ハクモクレンが砕けるとき 「月刊ジェイ・ノベル」2015年2月号
     桜の下で待っている     書き下ろし
 本書 2015年(平成27年)3月刊行。

 彩瀬まる(本書より)
 
 1986年千葉県生まれ。上智大学文学部卒業。2010年「花に眩む」で第9回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞受賞。2012年、東日本大震災の被災記「暗い夜、星を数えて―3.11被災鉄道からの脱出」を発表。その他の著書に「あのひとは蜘蛛を潰せない」「骨を彩る」「神様のケーキを頬ばるまで」。心の襞に沁み込むような鮮やかな筆致が高く評価されている。 

主な登場人物:


<モッコウバラのワンピース> 30代後半、祖母は伴侶をなくした後四人の子供を育てることに専念。50代になって親族の反対を押し切って宇都宮に雄太郎のもとに同棲生活。
智也(19歳) 大学2年、四人姉弟。祖母が一人住む宇都宮に様子を見にひとり訪れる。

佐藤心美(ここみ)(20歳)

智也の恋人。1つ年上の姉御肌の女性。大学のバトミントン部で出会う。
祖母(67歳) 50代になって、親戚の反対を押し切って雄太郎との同棲を始める。
堀川雄太郎 祖母が栃木県内を巡るツアーで一人散策中雨に降られて困ったときに出会った男性。
<からたち香る> 福島郡山に住む由樹人の実家に律子が由樹人と顔見せに訪れる。
大崎律子 出版関係のデザイナー。由樹人の婚約者。
横山由樹人(ゆきと) 新宿のポータルゲームのソフトを作る会社勤務。
<菜の花の家> 母親の7回忌に兄夫婦が住む仙台の実家に。3人兄弟もそろって母親の最後のことに話は及び・・・。
西松武文 東京でインターネット上の広告を扱う代理店勤務。子供の頃はぼうっとしている評価。

姉 淑子
娘 百花
(3歳)

2年前に離婚、大学の職員をしながら百花を育てている。気が強くて跳ねっ返りの評価。

兄 鷹夫
兄嫁 可奈子

大人しくていい子の評価。
・可奈子 母とは性格ぶつかり、トラブルが絶えず。気を遣っていた姑が亡くなり、自分が住みやすいよう順調に家を改造している。

藍川朋子 中学時代の同級生気さくで良く喋るオトコオンナって感じの子。
<ハクモクレンが砕けるとき> 叔母さんの結婚式に両親と花巻に。その過程で経験するメルヘンのような世界を体験する知里。
知里 小学4年生。みどりちゃんの死が影響している?
父親 三知夫(みちお) 個人の建築事務所経営。
母親 聡子(さとこ) 聡子の妹(真子)の結婚式に花巻の実家に戻る。
みどりちゃん 小学2年生、週三回の学校ぐるみの掃除で同じ班。友達と公園で遊んだ帰り、車にはねられて死ぬ。
<桜の下で待っている> 新幹線の車内販売員のさくら、帰れる故郷と家庭のことを考える。
さくら(29歳)

4年前関西に本社のある印刷会社から中途入社の新幹線の車内販売員。
・亜美さん 3つ年下の中堅スタッフの指導役。接客術が優れている。
・瑞穂 さくらと同い年。入社時期が近く気安い関係。

弟 柊二(しゅうじ) 5つ年下の24歳。
両親 さくらが成人して間もなく離婚。中学生だった弟は母親に引き取られた。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 桜前線が日本列島を北上する4月、新幹線で北へ向かう男女5人それぞれの行先で待つものは…。複雑にからまり揺れる想いと、ふるさとでの出会いをあざやかな筆致で描く、「はじまり」の物語。

読後感
  

<モッコウバラのワンピース> 最初に読んだからなのか分からないが、智也が新幹線に乗り、東北に向かう車中の風景、祖母の住む家の中の雰囲気、そんな風景が目の前に展開するようでなんとも言えない感慨を感じてしまった。
 また祖母とのやりとりに優しさと芯の強さが溢れていてうるうるしてしまう。

<からたち香る> 結婚する相手(由樹人)の福島に初めて顔見せ(?)に訪れるときの心配な様子がひしひしと伝わってくる。福島は放射能汚染のことをきちんと知っていないといけない、どんな風に接したら良いのかと悩む。相手の親族は地域ぐるみでの付き合いなのに対し、自分は隣人づきあいのほとんどない状態なのにと心配したり。そんな結婚前の様子がひしひしと伝わってくる。

<草の花の家> 子供への情が深く、けれど同じだけ執着や干渉や注文の多かった母親がなくなって七回忌に兄嫁の暮らす実家に集まった親戚たち。そんな時の風景が目に浮かぶよう。結局母親の臨終時の父への思いと、子供達への思いは違っていた。そして子供達はやっぱり親に似たもの同士であることを再確認することに。

<ハクモクレンが砕けるとき> 知里が叔母さんの結婚式に出るために両親と花巻に。車中及び母親の実家での出来事が何かメルヘンの世界を漂っているようで、2年年下のみどりの死の影響か真夜中に見た白モクレンの短い花の命の話を聞き、宮沢賢治の世界を見て夢の中のよう。

<桜の下で待っている> 新幹線の車内販売員として働くさくら、車内で帰省する人を見て故郷ってどんな風なのかとか思ったり、故郷から帰ってくる人たちの疲れてぐっすり寝てるのを見るのも好きと。そして「なにも考えずに安心して帰れる場所がチョット欲しい」と瑞穂に漏らしてしまう。
 弟の柊二が好きな人がいて結婚を考えるも、自分たちの家庭の姿を考え、躊躇している様に、さくらが前はそう思っていたが今は「自分がどこかに帰るより、居心地よくするから誰かに帰ってきてほしいな。遠くから、新幹線で来てほしい。私が見つけたきれいなものを一緒に見て、面白がってほしい。そういうのがやってみたくて、家族が欲しいのかも」と告げる。 

  

余談:

<モッコウバラのワンピース>の中でばあちゃんが智也に語る
(心美の実家=パン屋がここ2ヵ月間ほど全く店のホームページが更新されていないことに心配して智也の様子がおかしいことに)

「(ココちゃんとのこと)聞かないよ。二人の話だ。自分らでどうにかしな」「(ココちゃんとのことは)自分で決めて、自分で責任取りなさい。すぐに他人の意見を欲しがるのは、子供のすることだよ」

(「ココちゃんは、かわいいかい」に「相変わらず、超かわいい」と智也の言葉に)
「たくさん言ってあげな。女はそのままでかわいいわけじゃないから。お前を喜ばせたくてかわいくしてるんだよ」 とは含蓄のある言葉。

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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