彩瀬まる著 『骨を彩る』 


               
2015-12-25



(作品は、 彩瀬まる著  『骨を彩る』     幻冬舎による。)

               

 

 
本書 2013年(平成25年)11月刊行。
  
 彩瀬 まる:(本書より)
 
 1986年千葉県生まれ。上智大学文学部卒業後、会社勤務を経て、201年「花に眩む」で「女による女のためのR−18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。12年、東日本大震災の被災記「暗い夜、星を数えてほ−3.11被災鉄道からの脱出−」を発表。その他著書に「あのひとは蜘蛛を潰せない」がある。文芸誌などで次々と小説を発表し、手触りのある生々しい筆致と独自の作品世界で注目を集める。
主な登場人物
<指のたより>

津村
妻 朝子(没)
娘 小春

都心近く小さな不動産事務所を営む。大手不動産会社とフランチャイズ契約。
・朝子 10年前大腸がんで亡くなる。享年29歳。
・小春 中学1年生。ちょっと冷めていて情の浅さ感じさせるかも。

相川光恵 弁当屋の店員、32歳。2年前夫と別れ、実家の弁当屋に戻る。

<古世代のバームロール>

光恵

玲子、美鈴と三人で恩師の葬儀を計画。
4年前夫は玉突き事故で負傷、意識戻らない彼の側に見知らぬ若い女が寝かされていた。2年にわたる協議で離婚。千代紙を折り続け何にでも貼って色彩の洪水に気味悪がられることに。
・玲子 友人。東銀座で高級腕時計を扱うセレクトショップのオーナー。
勉強もスポーツも出来る優等生タイプ。
・美鈴 友人。看護師主任。甘い物腰で男子に人気があった。

磯貝真紀子

恩師のファンだった。光恵とは高2の時同級生でお互い図書委員。
高宮リサ名で漢方美容会社のエステティシャン。知る人ぞ知る悪徳会社。

<ばらばら>

須藤玲子
夫 正浩

仙台に夫と子供たちを残してひとり旅。
・春海 実父の名字。
・斉藤 母親の旧姓。
・溝内 母親の再婚相手の名字。溝内岳志:義父。

エガワサクラコ 東京の薬科大学の学生。深夜バスで玲子の隣の席の同乗者。
<やわらかい骨>

津村小春
父親 成久

中学2年生、バスケ部。1年の時から同じクラスの友花と仲良し。3歳の時母親と死別の父子家庭。
・父親の成久は不動産事務所を営む。

塚本葵 新学期からの転校生。両親が教団に勤める関係で昼食時に十字架を切ることで変な人と見なされ敬遠される。圧倒的に運動の出来る理緒がバスケ部に誘う一方、お祈りの姿を笑いものに。
烏山悠都 隣のクラスの生徒。小春にラブレターを出し付き合い出す。


物語の概要図書館の紹介文より

なかったことにできない、色とりどりの記憶が、今、あなたに降り注ぐ…。心に「ない」を抱えるすべての人へ。読む人によって涙する場所が違う、不思議な物語。ただ、読後に残るのは鮮やかな希望。
 
読後感

 読むほどにいとおしくなってくる作品。いくつかの物語が短編ながら主人公はその中の一部の人物が次の題の主人公となって展開していく。従って全然別の話というわけではない。
 読むほどに胸を打つシーンが現れてくる。

<指のたより>では早くに亡くした妻がたびたび夢の中に出てくる。それも指が少しずつ無くなって。津村に恋人と呼べる光恵とのことを恨んでか。一方で娘の小春のはく言葉に心情描写がこもっていて果たしてどんな気持ちなのかと。妻のことを思う津村の心情も捨てがたい。

<古生代のバームロール>では恩師の葬儀を光恵、玲子、美鈴が中心になって計画する。
 磯貝真紀子は玲子たちと張り合うため同窓会にも不参加、そんな気持ちはわかる気がする。そして光恵は自分のために真紀子を待っているというその心情に。

<ばらばら>では小さいときに両親が離婚、母親に付いていたが、さらに小学5年生で母親の再婚で溝田岳志の義父を得たが、「お父さんのふりをしないで」と父と呼ばず。そして結婚した線の細い夫須藤正浩ともしっくりといっていない。いじめられていそうな子供からは「お母さんがこわい」と言われ、気分転換してきなさいと2−3日の一人旅に。深夜バスで隣り合わせた女子大生と知り合い、実父の父親の墓参りの後、夫との電話に、そして観光先で偶然見再会した女子大生に誘われ石仏を見ている内に口数の少なかった義父の自分に対する思いやりに気づく様子にほのぼのとしたものが胸をつく。

<やわらかい骨>では主人公の津村小春。<指のたより>の津村の娘のこと。新しく入ってきた葵の十字を切る姿にみなが敬遠してしまう中、小春は仲良しの女の子に反してバスケの部活を通して近づく。一方で男の子からのラブレターをきっかけにxxと付き合い出す。二人の異種の付き合いを通じて父子家庭の身で感じる自分との交わりの中から、xxxxx自然の姿に良さを感じ取れるようになるその心情がいい。

印象に残る場面
<やわらかい骨>
 デートで、悠都のミニトマト嫌いの件で、葵のお祈りを見られるのを嫌がるそぶりで、軽く背中を向けてひそひそと行う姿を見て:
 
 どっちが悪いとかじゃないんだ、と成久は言った。利口な生き方、違い部分は加減して。そんな小綺麗な思いつきが、悠都のメールの前にはなんの力もなく砕け散る。生まれて初めて、小春は自分に矢が届いたのを感じた。矢尻に細い糸を結び、遠い場所から放たれたそれは、強く、強く、小春に関わりたい、と訴えながら骨の間近へと食い込んだ。張りつめた糸から、悠都の怯えと震えが伝わる。ものすごく苦しくて、ものすごく重い。けれど、全身に鳥肌が立つほど、嬉しい。
・・・
 やるならせめて堂々としていて欲しいし、やらないならすっぱりと止めて欲しい。どっちつかずな葵の情けない背中を見るたび、小春は彼女を好きになるきっかけとなった、打てば澄んだ音色が響くような弧光の強さが失われていく気がした。

余談:

 読んでいる内に青木玉(幸田文の娘)の「小石川の家」で感じたと同じような気持ちを呼び起こされた。描写の細やかさ、心情の表れ、なんとも言えない気持ちのやすらぎ?
 時に秋を迎え心のさみしさ、わびしさを感じる季節に静かに読んでいたい作品。

背景画は本書の「ばらばら」に出てくる松島の風景をイメージして。

                               

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