木籐亜也著 『1リットルの涙』






               
  2008-01-25




(作品は、木籐亜也著『1リットルの涙』 エフエー出版による。)

                    
 

1986年(昭和61年)2月刊行

◇本書より引用

読者の皆様へ:
 本書は、病状が進みほとんど判読できない文章を、お母さんの木籐潮香さんが原稿用紙に筆写するなどして、一冊の本にまとめることができました。
なお、亜也さんは、1988年5月23日午前0時55分、家族全員に見守られて静に永遠の眠りにつきました。旅立つ一瞬のとき、何も話すことが出来なくなった亜也さんの口からは、「ありがとう」の「あ」という声だけが、力強く発せられました。

・主治医の山本先生が手記を書かれていてその中から:
「脊髄小脳変性症」とは?  
人間の脳には約140億の神経細胞とその十倍もの神経細胞を支持する細胞がある。それぞれの神経細胞は多くのグループに分けられ、運動する時に働くものもあれば、見たり聞いたり感じたりする時に働くものもあり、およそ人間が生きている間はたくさんのグループの神経細胞が活動していることになる。
 脊髄小脳変性症はこれらの神経細胞グループのうち、反射的に身体のバランスをとり、素速い、滑らかな運動をするにのに必要な小脳・脳幹・脊髄の神経細胞が変化し、ついに消えていってしまう病気である。

 


読後感:

この本のできあがりには亜也ちゃんの心情が素直に出ていて感心する。さぞかし大変だったんだろうと推察される。
障害者をどういう風に見たり、接したりすればいいのか判らないけれど、こんな風に感じているんだなあと思い知らされた。面白くてじっと見たり、奇異な眼で見ているのではないが、やはりじろじろ見られることには苦痛を感じるのだなあと思い知らされる。

 率直な気持ちが表されていてこんなに努力し、一生懸命生きようとしている彼女の姿に、生きる勇気、優しさ、当たり前に生活が出来ることの有り難さを深く感じ、気持ちが引き締まる。世の中の人がみんな優しさに溢れていたら世の中はもっと住みよい世界になるのになあと思わずにはいられない。
 とにかく色んなことを教えられる内容であった。
 25歳というなんとも若くして旅立つてしまった彼女のご冥福を願わずにはいられない。
十分キラッと光ものを持っていたと思うよ。

印象に残る言葉:沢山あってどれも捨てられない。

友達  友達って、対等につき合ってくれるから、ありがたい。

苦悩  私の進む道は一つしかないのだ。選ぶ権利などないんだ。友達と一緒の道なんて絶対に望めないんだ。いっしょに行けるなんて思っていい気になっていると、自分の道もなくなってしまうから・・・。

大きくなんかなりたくない わたしは空気のような存在の人になりたい。いなくなって初めて大切な存在であったことがわかるような、ともかく優しくて、にじみでてくるような、そんな人格の持ち主になりたい。

革命 Sちゃんと話をする。
 「養護学校に行けば、亜也ちゃんは特別ではなくなる。だから、教室移動や掃除やら、今までのような苦しい思いをしなくてすむのよ。でも、早くやろうと思えばできるんだから、努力してみれば?」ガガーンと、刀が突きささったSちゃんの99%の優しさと1%の刀で、友情を保つことができる。だから涙はでなかった。大きなショックを受けると副交感神経がマヒするらしい。Sちゃんは、わたしに「考えろ」と教えてくれた。

三月  二人の寮母さん
 −母のような愛で包んでくれる。
 −いつもわたしのことを遅い遅いといってけしかける人。だけど、三メートルの廊下を横切る十分間、だまって見ていてくれた。 二人のやさしさは質がちがう

高校三年生
  障害者グループで、一泊旅行に出かけた。同行の妹(四歳)が「お姉さんはフラフラだからきれいじゃない」と酷なことを言う。小さい子って、人が傷つくなんておかまいなしにズバッと言うからこわいよ

19歳―――もうダメかも知れない

晩秋
  愛―――それだけにすがって生きている自分のなんと悲しいことよ。お母さん、わたしのような見にくいものが、この世に生きていてもよいのでしょうか。わたしの中の,キラッと光ものをお母さんなら、きっと見つけてくれると思います。考えて下さい。導いて下さい

お母さん、もう歩けない
 トイレまで三メートル這っていく。廊下がひんやりと冷たい。足の裏は柔らかく手の平のよう。手の平と膝小僧は足の裏のように硬くなっている。みっともないけど仕方がない。ただ一つの移動手段なんだから・・・。
 後ろに人の気配がする。止まってふり向くと母が這っていた。何も言わずに・・・床にポタポタ涙を落として・・。押さえていた感情がいっきに吹き出し、大声で泣いた。
しっかりと抱いて、泣きたいだけ泣かせてくれた。

(補足:下線は独断で引いたもの。)
 


余談:
上に掲げた印象に残る言葉のところを見るたびに、胸がキュンとなってしまう。元気をもらえる。
背景画は横須賀市立養護学校風景。

                    

                          

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