阿刀田高著 『 闇彦 』



 
                  2011-02-25



(作品は、阿刀田高著 『 闇彦 』 新潮社による。)

          

 初出 「小説トリッパー」2008年秋季号〜2009年秋季号に連載。
 本書 2010年(平成22年)2月刊行


 阿刀田高:

 1935年(昭和10年)東京生まれ。早稲田大学文学部卒。国立国会図書館に司書として勤務しながら執筆活動を続け、‘78年「冷蔵庫より愛をこめて」でデビュー。’79年「来訪者」で日本推理作家協会賞、短編集「ナポレオン狂」で直木賞、‘95年「新トロイア物語」で吉川英治文学賞を受賞。現在、日本ペンクラブ会長を務めている。

物語の概要: (図書館の紹介文より)

 幼い頃から「私」の眼前に見え隠れする不可思議な存在・闇彦。それはどこから来て、何を伝えようとしているのか。人生の要所要所に現れる闇彦に導かれるように、は神話と物語の淵源に遡っていく…。

読後感:

 最初は物語かと思いきや、エッセイなのか。
 しかし次第に引き込まれていく感じでミステリー的でもあり、不思議な世界に入ってきたようでもある。

 時に幼い頃育ったという新潟に講演で来て、弥彦山に登り若い女性と出会う。去年講演の聴衆の一人といい、ひなびた温泉宿に案内されお婆さんの語りを体験するシーンなどは、方言言葉の性もあるが、好奇心と懐かしさとミステリーさと、ギリシャ神話の話も含めここでも闇彦という何ともおどろおどろしい言葉に引き込まれてしまった。

 そんな日常の中で阿刀田高という作家の素性を知らされると共に、出てくる人の名前にもこれまたすばらしいロマンを感じてしまう。
 作品の中で、病院での養生生活の中で読書好きが幸いして色んな本を読み、また「ストーリーを好む性向が備わっていたようだ。闇彦が唆
(そそのか)していたのかもしれない」との表現になるほどと。

印象に残る表現:

 高校二年の時堀田(本好きのお寺の息子)というクラスメートと親しくなった。
「お経って、なんのためにあるんだ?」
「供養だろ。決まってるこてな」
「供養ってなんだ」
 私もしつこい。堀田は口を尖らせて、
「思い出してやるんだ」
「なにを」
「死んだ人。お経をあげれば、死んだ人のこと思い出すだろ。死んだ人はそれが一番うれしいこてね。それが供養らねえかて」
 したり顔で言う。
「ふーん」
 わかりやすい。これが仏教の正しい考え方かどうかはおぼつかないが、私は目から鱗の落ちる思いで聞いた。
 ―――そうかもしれない―――

  
余談:

 ギリシャ神話と日本の神話(日本書紀や古事記など)に似たような話があるということに興味を覚える。 ふっとギリシャ神話を読んでみたくなる。

背景画は、本作品の表紙を利用。