芦沢央 『許されようとは思いません』



              2020-04-25


(作品は、芦沢央著 『許されようとは思いません』      新潮文庫による。)
                  
          

 初出 平成28年(2016)新潮社より単行本刊行。文庫化にあたり収録作品の順序を変更。
 本書 2019年(令和元年)6月刊行。

 芦沢央
(あしざわ・よう)(本書による)  

 1984(昭和59)年、東京生まれ。千葉大学文学部卒業。2012(平成24)年、「罪の余白」で第3回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。他の著書に「悪いものが、来ませんように」「今だけのあの子」「いつかの人質」「貘の耳たぶ」「火のないところに煙は」などがある。

主な登場人物:

[目撃者はいなかった]

葛木修哉
(かつらぎ・しゅうや)

河北木材の営業本部3年目。従来最下位の営業成績の人物が、今月は下から5番目に躍進していた。発注ミスが原因。
大谷 注文主のハッピーライフ・リフォームの担当者。
[ありがとう、ばあば]
西川杏(あん) 芸能界で注目されている子役、9歳。
祖母 杏のマネージャー役。娘(杏の母親)が年賀状に家族写真を載せるも、杏の格好がイメージダウンになると反対、言い争う。
母親 杏が帰国女子のこともあり、学校で友達がいないことを心配している。
永倉先生 小学校の担任。杏の欠席多いが、終業式とその後のクリスマス会に出席を勧めてくる。
[絵の中の男]
家政婦だった私、旦那様の絵画鑑賞趣味で鑑賞眼養われ、やがて蜷山(になやま)画廊でアルバイト。二月先生を知る。

淺宮二月
(旧姓)
夫 中村恭一
(きょういち)
息子 猛

女流絵描き。絵は壮絶な地獄絵。猛君出産後絵が描けなくなり、火事で猛が火に包まれるのを目の当たりにし再び描き始める。
・夫の恭一 夫も絵を描くが、イラストレーターのような仕事。
二月の絵の評価は良く理解できない。
そんな中あの事件が起きる。

[姉のように]



娘 唯花
(ゆいか)

小さい頃から何事も姉を頼りにしていたが、姉が事件を起こしてからは、長崎に住む私は相談相手も居ない。
・夫 私が悩んでいることに理解なく、唯花を甘やかし、私を悪者に。
・唯花 3歳になると自我意識が芽生え、自己主張をし、気に入らないことにはイヤイヤを、泣いたり、大声を出したり。

著名な童話作家。福岡に住む姉の窃盗事件で<童話作家の素顔>の記事が出、ネットや周囲から私の周辺は辛辣な誹謗中傷が飛び交い・・・。
[許されようとは思いません]
諒一(りょういち)

祖母の暮らしていた檜垣村(ひがきむら)を水絵と祖母の骨壺を持って訪れる。骨壺をこの村の寺の墓に納骨し直すために。
水絵との結婚は言い出せない事情がある。

水絵 交際を始めて4年に。明るく聡明で気遣いができ、記憶力が良く、頭の回転が速い。水絵は諒一に結婚の意思を確かめたいと思っている。
諒一の家族は東京に住んでいたが、毎年盆と正月だけ祖母の住むこの村に来ていた。
祖母

諒一にとって優しい祖母であった。
曾祖父殺しの殺人を起こし、5年の刑を服する獄中でなくなり、亡骸となって戻って来た祖母を待ち受けていたのは村十分の末路。
よそ者であった祖母は祖父と結婚しなければ殺人犯になることもなかった。
殺人後「私は自分の意志で殺しました。許されようとは思いません」の言葉を残す。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 あなたは絶対にこの「動機」を予測できない…。凄惨な事件を起こした女たちの真情を、新世代ミステリーの旗手が鮮やかに描く。磨き抜かれたプロットが、日常に潜む狂気をあぶりだす全5篇を収録。

読後感:

 5篇の短編であるが、<絵の中の男>以外はどれもごく自然なテーマで平易に描かれる世界での日常に潜む狂気が描かれていて、ちょっと空恐ろしい気がする。
<絵の中の男>だけは壮絶というか、ちょっとあまり読むのに躊躇する話で、とまどった。

<姉のように>は読んでいてこちらが苦しくなるような。世間でも小さい子に対する親の虐待が賑わしている。娘の唯花が自己主張をし始め、ただをコネ、泣き、大声を出してどうにも治められない。他の親が上手くやっているのを見るに付け、ますます自信をなくす。さらに悪いことに世間に知られている童話作家の姉が逮捕されるニュースが知れ渡り、気にしない風を装った周りの人も、根はきっちりと感じている。夫は理解してくれない、相談する姉は遠いし、姉のようになるのではないかと不安に。自分か次第に娘に手を挙げ、虐待をするようになるのでは、誰か早く停めてと分かっているのに。
 その鮮やかな描写が恐ろしいほど。でも傑作であると感じた。

<許されようとは思いません>では、檜垣村にまつわる村八分、よそ者に対する偏った仕打ちが根にあり、祖母のつらい生活が偲ばれるが、一方で水絵と諒一のほのぼのとした会話に救われる思いがにじみ救われる思いである。


余談:

 文庫本では解説が載っていて大変参考になる。今回は文芸評論家の池上冬樹氏の解説があり、著者の評価の高さを読み、なるほどと納得させられた。
 第38回吉川英治文学新人賞候補の時、短編集という光の細かさが逆にマイナスになったのだろうという選考委員の話も。
 池上氏は、いずれ長編で複数の文学賞を獲得していくのではないかと。
 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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