芦沢央 『いつかの人質』



              2021-04-25


(作品は、芦沢央著 『いつかの人質』        角川文庫による。)
                  
          

 初出 2015年12月に刊行された単行本を加筆修正。
  本書 2018年(平成30年)2月刊行。

 芦沢央
(あしざわ・ゆう)(本書より)  
 
 
1984年東京都出身。2006年千葉大学文学部史学科卒業。12年「罪の余白」で第3回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。同作が15年映画化され話題に。他の著書に「悪いものが、来ませんように」「今だけのあの子」「許されようとは思いません」「雨利終活写真館」「貘の耳たぶ」「バックステージ」。

主な登場人物:

宮下麻紀美
夫 陽介
娘 愛子

静岡県浜松市に住んでいたとき、娘の愛子が誘拐され、事件後千葉の船橋市に移住。
・陽介も会社を辞め、新しい職場は居心地が良くない。
・中学生。3歳の時浜松の屋内アミューズメント施設から誘拐された経験を持ち、その時階段から転がり落ち失明。

尾崎典子(のりこ)
娘 優奈
(ゆうな)

ひょんなことから宮下愛子を誘拐したことになり、加害者の立場に。
・優奈 加害者の娘となる。結果
小学校6年には不登校気味になり中学校ではいじめにあうも、母親には告げず。

江間礼遠(れおん)
妻 優奈
(旧姓 尾崎)

漫画家ただしストーリーを考えることは出来ず絵を描くだけだが絵は評判がよい。
・漫画家、ペンネーム深尾ユウ。夫の礼遠の絵のおかげで漫画家として初連載第一回が掲載されるはずを前に、行方不明となる。離婚届と借用書を残して。

江間佳子
夫 倉田丈一
<ペンネーム>

江間礼遠の母親。
・夫は「ダブル・レクイエム」作品の漫画家。“レオン”はその作中から。礼遠9歳の時自殺。

千田武彦
横井

船橋市女子中学生営利誘拐事件捜査本部の刑事。
貝原春哉 文洋社の編集者。江間礼遠、優奈の担当。
神林みのり 優奈の中学時代の親友。中学生の頃からずっと一緒に漫画家を目指してきた仲間。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 幼い頃に連れ去りにあい失明した愛子。借金を残し失踪した妻・優奈を捜す漫画家の礼遠行方をくらました優奈は、誘拐犯の娘だった。事件から12年、魔の手が再び愛子を襲う。戦慄のサスペンス・ミステリー。

読後感:

 12年前、宮下愛子はアミューズメント会場のビンゴ大会でビンゴとなり、ローズ人形を手に入れられたと喜ぶも人数が多く、抽選漏れとなりその後親から姿を消す。
 片や尾崎典子はその時優奈とビンゴ大会に参加していたが、会社の急用発生で子どものことは飛んでしまい、気がつけば、寝室に優奈と見知らぬ子がベッドに。
 悪いことに見知らぬ子が階段から転落して頭を打ち死んだかと驚く。そして子ども誘拐のニュースに打った手がとんでもないことに。
 そして12年後、失明した宮下愛子は再び誘拐され、身代金を要求される事態が発生する。

 設定されたストーリーは奇想天外、宮下家の展開、尾崎優奈の漫画家としての実力が届かない苦悩、漫画のストーリーは出来ないが、絵の才能のある礼遠との結婚でやっと第一回の連載が発表されようとしているときに妻の優奈が離婚届と借用書をのこして姿を消す。
 妻の行方不明を探したい礼遠、一方で誘拐事件を追う為に乗り出した警察。

 そんな展開で犯人は限りなく優奈を指し示しているが、誘拐された尾崎愛子は視覚障害を負いながら、視覚障害者特有の鋭さがヒントとなり犯人を絞り込むことに。

 物語は読者には愛子と優奈
12年前と現在のステージが何となく混乱して思考を惑わせるが次第に真犯人が誰なのかがラスト近くになって初めて突きつけられる顛末に驚かされる。
 その間、視覚障害者の愛子が何事も母親に頼って守られていたことを反省し、大きく成長した姿を見せるのに感動。
 また、漫画家を目指した優奈の挫折感、礼遠の妻を思う優しさがこんなにもある人物が世にいるものかと思わせられていたが・・・。 


余談:

 解説で瀧井朝世氏の物語の作り上げる手法「逆算する」という説明が面白い。
 そして読み終えるまでどういう作風か判断できないその書き手のサプライズ力を賞賛していた。次も引き続き「貘の耳たぶ」を読み進もうと思う。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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