芦沢央 『火のないところに煙は』



              2020-03-25


(作品は、芦沢央著 『火のないところに煙は』      新潮社による。)
                  
          

  初出 第一話       染み
     第二話       お祓いを頼む女
    第三話       妄言
    第四話       助けてって言ったのに
    第五話       誰かの怪異
    最終話       禁忌

 本書 2018年(平成30年)8月刊行。

 芦沢央
(あしざわ・よう)(本書による)  

  1984年東京都生まれ。2012年「罪の余白」で第3回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。2017年「許されようとは思いません」が第38回吉川英治文学新人賞の、2018年「ただ、運が悪かっただけ」が第71回日本推理作家協会賞短編部門の候補になった。他の著書に「悪いものが、来ませんように」「今だけのあの子」「いつかの人質」「雨利終活写真館」「貘の耳たぶ」「バック・ステージ」がある。

主な登場人物:

[第一話] 染み 「小説新潮」2016年八月号に掲載
<私> 実用書や雑誌本、ビジネス書の編集者。
瀬戸早樹子(さきこ) 私の大学時代の友人。
榊桔平(さかき・きっぺい) オカルトライター。
角田尚子(つのだ・なおこ) 早樹子に、いいお祓い人の紹介を依頼している人。
[第二話] お祓いを頼む女 「小説新潮」2017年八月号に掲載
鍵和田君子 <私>が出版社を退社してからも交流のある女性。

平田さん

息子 トシフミ

君子にお祓いができる人を頼む女性。
・夫 自動車事故を起こすも被害者の姿なし。
・トシフミ 夜中に家を抜け出して覚えなし。また幻聴を訴える。

[第三話] 妄言 「小説新潮」2018年一月号に掲載

塩谷祟史
(しおや・たかふみ)
妻 由美

仕事などの関係で埼玉県郊外に築5年の中古住宅を購入。
隣の寿子に翻弄されることに。
・由実 妊娠を寿子に指摘され、頼りにするように。

前原寿子(ひさこ) 隣に住む女性。霊能者。
[第四話] 助けてって言ったのに 「小説新潮」2018年一月号に掲載

智世(ともよ)
夫 和典
(かずのり)
義母 静子

ネイルサロンで働く。奇妙な悪夢に苦しむ。かって静子も見た内容。
・和典 カメラマン
・義母 一人暮らしの為、実家で智世、和典と同居している。

[第五話] 誰かの怪異 「小説新潮」2018年二月号に掲載
岩永幹男 千葉県内の大学に通う男性。不動産屋の紹介で割安のTコーポの物件を契約。怪異な体験をすることに。
粟田 隣に一人で住む50代の物静かな女性。
中嶋さん 岩永と同じ学科の友人。
岸根 中嶋さんが連れてきた霊脳者。
[最終話] 禁忌 書き下ろし

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」。突然の依頼に、かつての凄惨な体験が作家の脳裏に浮かぶ。解けない謎、救えなかった友人、そこから逃げ出した自分。作家は、事件を小説として発表することで解決を目論むが…。戦慄の暗黒ミステリ。

読後感:

 著者が「小説新潮」から依頼を受けた神楽坂を舞台にした作品を集めた「神楽坂怪談」特集に浮かんだ話の数々。
 <染み>では結婚に関して占いで言われた「結婚なんてしない方がいい」と言われた相手に「別れようか」と言ったら・・。一方「絶対に別れたらいけない」と言われた友達が円満に別れたら・・・。これは祟りだったのか?

 <お祓いを頼む女>では祟りといい、お祓いをするいい人を紹介してに、話を聞くことになって、現実は祟りでなかったと安心したのに・・・。「幻聴が聞こえる」という言葉を無視したために起きた出来事はやはり祟りだったのか?

 <妄言>では、引っ越してきた家の隣人に、身に覚えのないとんでもないことを告げられ、身重の妻はストレスで流産してしまう。
「火のないところに煙はたたない」ということか。

 <助けてって言ったのに>では、夫の実家に同居することになった智美が一月に二度くらい見る悪夢。実際に死ぬ思いをするほどの苦しい夢。義母の静子が見たものと同じという。家を売る話に持って行くも・・・。
 
 <私>に語った榊の解釈は意外なものだった。

 <誰かの怪異>は不動産屋に紹介された割安の物件、怪異の体験に友人が連れてきた霊能者は水が淀んでいると、特別に祈祷していただいたという“盛り塩”と御札を貼るように指導された。しかし怪異は起きてしまった。
 オカルトライターの榊さんの見解は・・・。

 <最終話>は<私>が第一話から第五話の怪談を単行本化するに当たり、榊さんに確認しようと。榊さんからはどうして第五話を書いたのかと。そして岸根さんは死んだと。
「問題なのはその死に方だよ」と。

 思い返すとその時どきに転がり込んできた話を行き当たりばったりに書いてきたはずの五つの短編が、いつのまにか霊能者、お祓い、怪異、縁に吸い寄せられてきてしまっていたのか。
 世の中には説明の付かないことが存在すると認識すべき?


余談:

 いずれも著者が聞いたネタを元に小説として書き下ろしたもののようだが、内容はホラー性のある怪異事象。関係者が意外にもなくなってしまうところに原因不明の・・・・
 特に「助けてって言ったのに」は榊の解釈が意味深で、理解が難解なところも。最終話にいたり、それまでのつながりがうっすらと忍び寄ってきて、怪談らしくなっていった。
 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
戻る