芦沢央 『雨利終活写真館』



              2019-12-25


(作品は、芦沢央著 『雨利終活写真館』    小学館による。)
                  
          

 初出  「STORY BOX」
    「一つ目の遺言状」2014年5月号・7月号(「祖母の遺言」より改題)
    「十二年目の家族写真」2015年3月号・4月号
    「三つ目の遺品」2016年3月号〜5月号(「二人目の父親」より改題)
    「二枚目の遺影」2016年6月号〜8月号
     単行本化にあたり、「」から改題し、加筆改稿。

 本書 2016年(平成28年)11月刊行。

 芦沢央:
(本書による)  

 1984年東京生まれ。千葉大学文学部卒。2012年「罪の余白」で第3回野性時代フロンティア文学賞を受賞してデビュー。同作が2015年に映画化。他の著書に「悪いものが、来ませんように」「今だけのあの子」「いつかの人質」「許されようとは思いません」がある。

主な登場人物:

<第一話> 一つ目の遺言状

黒子ハナ
母親 黒子富子

赤坂のCOCOA美容室に9年勤めて退職。可愛がってくれた祖母の死の知らせ、その遺言状で母親の落ち込む様子に、祖母の遺影を撮り、カウンセリングも行う「雨利写真館」を訪れる。
東福寺キヨ 東大阪の祖母。クイズ好き、一筋縄ではいかない変人。
[雨利写真館]の人々
永坂夢子

巣鴨地蔵通商店街で遺影専門の「雨利(あまり)写真館」を営む。
終活コーディネーター。

雨利 30代半ば過ぎの優秀なプロのカメラマン。
道頓堀 20代半ばのカメラマン見習い。関東の浦和出身なのに、名前が“道頓堀”。妙な関西弁を使う。
高井伸雄(のぶお)

黒子ハナの客であり、ハナは25歳から4年間付き合っていた。
3ヶ月前ハナはプロポーズされたが・・。

<第二話> 十二年目の家族写真
雨利写真館の人々 第一話の<雨利写真館>の人々に、黒子ハナが加わる。

橋川功一郎
息子 裕二
孫 快斗

家族写真を依頼してきた客。
・橋川 78歳、在職時の職業は小学校の校長。
・裕二 妻は12年前に5階のベランダから転落死。
・快斗 12年前奇妙な絵を描いている。親との折り合い悪く、今は大学進学のため家を出て帰ってこない。

<第三話> 三つ目の遺品
瀬尾今日子

25年前に撮られた遺影写真の娘。
父親は幼いとき離婚。母親は去年他界。父親に会いたがっている。

<第四話> 二枚目の遺影

大江保昌(やすまさ)
妻 美代子
息子 篤
(あつし)

末期がんの宣告を受け、余命半年を告げられたリミットを超えたばかりの車椅子の夫、51歳。
・妻の美代子 小石川の自宅に住む。篤のこと、好きにの立場。
・息子の篤 保昌から女装を反対され、家を出て新宿の店で働く。

玲香(れいか) 大江保昌と遺影撮影に訪れた20歳前後の、一見モデルかと見まがうほどのスタイルの持ち主。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 巣鴨の路地裏に佇む遺影専門の雨利写真館。撮影にやってくる人々の生き様や遺された人の人生ドラマを、注目No.1ミステリー作家が見事な謎解きで紡ぎ出す。ミステリー、なのに心温まる珠玉の4編。

読後感:

 遺影専門の「雨利写真館」に訪れた客との、その背景にある人生模様を反映した物語と共に、ミステリーを絡ませた心温まる物語。

 第一話では、黒子ハナが祖母の死で残された遺言状の内容で、母にだけ何も記されていなかったことで、母が悲しみ落ち込でいることに発憤。
遺影を撮ったという「雨利写真館」を訪れ、どんな状態であったかを調べるところから。

 ハナは寿結婚退社と言うことで、スタイリストとして9年勤めた有名なCOCOA美容室を辞めたが、相手の男の嘘に傷心していた状態。祖母の仕掛けた謎が解け、スタイリストを求めていたこの写真館に無事就職することが出来た。その後の話はハナを含めた「雨利写真館」の一員として加わることに。

「雨利写真館」の人々がそれぞれ個性的なキャラで面白い。
 雨利は生しょう無愛想、寡黙で非常識な言動で夢子の叱責がたびたび。でも発する一言、一言が問題解決の重要な視点になっている。またカメラマンとしての腕はプロ級。そしてハナにとって黙っていて聞いてくれる存在に救われる。
 道頓堀は奇妙な関西弁を喋るが、まっすぐなパワーがあり、客を和ませたり、気持ちを汲んだりとハナは感心する。

 永坂夢子は経営を預かっているだけあって、苦しい経営に色々苦心、工夫をしながらも的確な判断をしている。
 ハナは自身の経験則をベースに黒子的な存在か?
 ハナには恋人の高井伸雄の嘘に騙されたがまだ未練が、落ち込んで帰省したときに父から投げかけられた言葉に反発、引っ込みが付かなくなる言葉を返して飛び出した後の父の死など、後悔と他人のうらやましさに苦しむ日々。

 話は遺影を巡り、一部には終活相談もしていて、ちりばめられた言葉や品物から謎解きやら、事態の収拾が図られる様で読者は引きつけられ、一話一話に引き込まれてしまった。
それにしても物語の中で第4話の二枚目の遺影が、ラストに配されたせいもあるが、胸に浸みてきて涙がこみ上げてきた。


余談:

 この小説を読んでいると、やっぱり遺影は専門家に事前にとってもらっておくのがいいような気にさせられてしまった。どうしよう、どうしよう?
  夢子の放つ『「こんな人だったんだな」――そう故人を偲ぶよすがとなるのが遺影なんですね』の言葉が。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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