朝倉かすみ 『遊佐家の四週間』


              2021-06-25


(作品は、朝倉かすみ著 『遊佐家の四週間』    祥伝社による。)
                  
          

 
初出 「FeelLove」vol.15 2012 Spring〜vol.19 2013 Summerに「喋るな、黙れ」として連載されたものに大幅に加筆・修正を加えたもの。
 本書 2014年(平成26年)7月刊行。

 朝倉かすみ
(本書より)
 
 1960年北海道生まれ。2003年に「コマドリさんのこと」で第37回北海道新聞文学賞、 04年「肝、焼ける」で第72回小説現代新人賞を受賞。09年に「田村はまだか」で吉川英治文学新人賞を受賞。著書に「玩具の言い分」(小社刊)「とうへんぼくで、ばかったれ」「幸福な日々があります」「てらさふ」など多数。  

主な登場人物:

[遊佐家の人々]
父親 賢右(けんすけ) 雄のヒグマを連想させる容姿。

母親 羽衣子(ういこ)
<旧姓 三田村>

主婦、43歳。パートでカルチャー教室の手伝い。美人。
良妻賢母の覆面を付け、料理に命を賭けている。
賢右と知り合う前は、貧乏でみえ子の家の支援を受け、みえ子とタレントオーディションに優勝したらその賞金を返す約束を交わし・・・・。

息子 正平(しょうへい) 高校二年生、17歳。白く小さな顔、腕も足も細く長い。
娘  いずみ

大学二年生。父そっくりのいかつい容姿。早口でつっけんどんな物言い。バイトで蕎麦屋「まつおか」を手伝っている。

須山みえ子

羽衣子の幼馴染み。小柄で太っていて、羽衣子とは対照的に醜い顔。
資産家のひとり娘。経済学部卒、税理士の資格を持ち、親の会社(税金対策の不動産管理会社)の経理を見ている取締役。
パートで公営斎場の売店の店員。

三田村孝史(たかし)

羽衣子のひとつ下の弟。整った顔を持つも、成績ふるわず、運動も。羽衣子の付き合っているリーダーの不良グループに入り、働くこともせず、みえ子のヒモのような存在。

蕎麦屋「まつおか」の人々

おかみさんは70いくつ。
二代目は50代、奥さんは交通事故で20年前に亡くなっている。
いずみは娘のように思われている。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 美しく貧しかった羽衣子、不器量で裕福だったみえ子。正反対のふたりは、お互いに欠けているものを補い合って生きてきた。だが、羽衣子は平凡だが温かい家庭を手に入れ…。家族のあり方を問う、傑作長編小説。

読後感:

 羽衣子の幼馴染みの須山みえ子が、自宅のマンションの改修のため一時避難する必要があり、遊佐家に四週間という期限付きで居候することに。
 羽衣子とみえ子は対照的で、羽衣子がCMモデルにもなったことのある美人に対し、真逆に不器量を絵に描いた容姿の持ち主である。

 遊佐家の人々はそれぞれ特異な性格持ちで、なかなか複雑な感情の持ち主の環境の中に、みえ子が混じることで、どのような変化が生じたかが、それぞれの人物からの描写から物語が形成されている。
 人は外観だけで判断してはいけない。みえ子の存在は、高校二年生の正平にとって、父親の権威に反感を抱き、いつも自信なげにおどおどしていたが、みえ子と接することで食卓での会話にも参加するように。そして父親に取って代わって覇権を奪おうと迄に。

 いずみにとっては、みえ子の部屋に毎日のように通い、蕎麦屋の「まつおか」の二代目との恋の相談や進捗状況を報告し、喜びを共用したり。
 賢右は外でみえ子に家での羽衣子の料理の悩み事を聞いてもらったり、夜中のトイレタイムを利用して、悩み事を語り合ったり。

 一方、羽衣子とみえ子の関係は、仲が良いようで、嫉妬したり、見下したりの複雑なもの。羽衣子は昔は貧しく、みえ子の家に支援を受けていて、みえ子との間でタレントオーディションをお互い推薦しあい、みえ子が落ちると、羽衣子が優勝したら賞金はみえ子に返す約束をし、一方でみえ子が弟の孝史を気に入っているため、好きにさせるておくとか。
 遊佐家に来たみえ子と羽衣子の関係は推測しがたい。


余談:

 不器量なみえ子の存在を最初遊佐家の人間は、醜い人間として忌み嫌う素振りだったが、次第にその評価は人間性そのものに到るようになってきた。
 父親の賢右は「みえ子を気のいい駄犬のように思っていた。だが、会話を重ねるうち、まともに話が出来る者だと思うようになった。打てば丁度よく響くみえ子に、信頼を寄せつつあり、その信頼のありようは、みえ子の性別と無関係だった。おれはみえ子という、ひとりの人間と付き合ってるんだ」とそう考えるようになっていた。

 また、みえ子の反応は、正平やいずみが父や母の言葉に怒るとき、父や母にの言いたいことや、どんな感じでその言葉を発しているかを優しく伝えるという、人間の大きさを示しているようで、そんな時外観で人を判断してはいけないことを感じさせる。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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