朝倉かすみ 『ぼくは朝日』


              2021-06-25


(作品は、朝倉かすみ著 『ぼくは朝日』    潮出版社による。)
                  
          

 本書 2018年(平成30年)11月刊行。

 朝倉かすみ
(本書より)
 
 北海道生まれ。2003年に「コマドリさんのこと」で北海道新聞文学賞を、04年「肝、焼ける」で小説現代新人賞を受賞。05年「肝、焼ける」で単行本デビュー。09年に「田村はまだか」で吉川英治文学新人賞を受賞。著書に「幸福な日々があります」「てらさふ」「乙女の家」「満潮」ほか多数。 

主な登場人物:

西村朝日
お姉ちゃん 夕日
お父さん
お母さん (没)
愛猫

北海道小樽市に住む小学4年生の男子、10歳。
・お姉ちゃん 信用組合勤務、20歳。しっかり者。
・お父さん バスの運転手。
・お母さん 朝日を産んだときに天国に取られてしまう。
・猫 くろちゃん 朝日が面倒を見ることで子猫をもらう。

富樫(とがし)くん
お父さん 行方不明
お母さん

朝日が4年生に上がった時のクラス替えでクラスの同級生。
お母さんと二人暮らし。
・お父さん 鯨を捕っていて南氷洋で行方不明。

アリマさん
おばさん
カズ坊

電気店のご主人。
・カズ坊 お姉ちゃんと同じ20歳。怠け者で、ずるくて、見栄坊で非常に薄っぺらな人間。(夕日による評)

溝口理容室の
ご主人
奥さん

若い美男美女。
・ご主人 耳が聞こえない。大きく口を動かせば伝わる。
・奥さん 細かい部分は奥さんが通訳してくれる。

おばあちゃん

お母さんの母親? ひとり暮らし、歳を取っていて小さくて太っている。
・ヨモさん でっぷり太った年寄りのよもぎ猫。

島田さん

建設会社に勤務のお父さんの友達。スキーの「距離」の選手。
外国の大会にも出場。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 小学4年生の朝日を中心にマイペースな父、母代わりのしっかり者の姉、愛猫のくろちゃん、そして家族を取り巻く個性豊かな人々。ともに笑い、泣き、怒りながら家族の絆は強くなっていく。子どもが子どもでいられた時代のある家族の物語。

読後感:

 小学四年生、10歳の朝日を通して、学校のこと家族のこと、周りの人々との交流や出来事が、そこから受ける感情や推測などを交え展開する描写が、実に素朴で正直で素直に読者に届いてきて、ほっこりする物語である。
 
 特に印象に残る話は、同じクラスの富樫くんの家庭環境での朝日との交流。富樫くんがカラーテレビを見に来ていたずらで故障させ、アマリ電気店のご主人のテクニックに感動、アリマ電気店で修行をしていたり、学校の学芸会で劇の主役に抜擢され、その役についての解釈を主張したりと当たり前の子供みたいに活発になっていく様を朝日が感じる。

 また、お姉ちゃんのお母さんが亡くなった後、お父さんや朝日の事をコントロールする気丈夫な様子の中、夜中に寝床で泣いている様子に朝日がどうしたらいいか判らずにいたり、お腹が減った時のような声で話すお姉ちゃんを観て、なすすべを知らない朝日の様子。

 そして朝日が溝口理髪店で隣で口紅の色を選ぶのに迷っていた背中が小さな山のように出っ張っている女の子を観て、ずっと言いたかったことが言えなかったことを悔やむ朝日。
 そんなことをおばあちゃんが「今度あったら、そやって言ってやればいいさ」「その子でなくても、そやって言いたくなったら言えばいいんだわ」と。


余談:

 作品の最後の章“朝日、夕日”で島田さんを連れて帰ってきたお父さんが、歯医者で歯を抜いてきたせいか、痛がった様子と何となくお腹がすいた声をしている夕日。
 店屋もんを取り、ビールを飲みながらの話題で、「カズ坊と夕日が結婚する」と朝日が、カズ坊から聞いた話を持ち出し、お父さんと島田さんの反応が微妙。

 夕日の行動はビールをあおり、発した言葉が微妙に感じ、スッキリしなかった。
「カズ坊の勘違い!」「バッカみたい」「あさひのしゃべり」「肝心なことは言わないのにサ。 いちばん大事なことは言わないように言わないように用心してサ。ケチくさいよね。ケチっていうの、そういうの」

 朝日に目で追いかけてきて「しゃべんないか、しゃべりすぎるのかどっちか。言ってもらいたくないことは言うのに、言ってもらいたいことは言わない」と。
 お父さんと島田さんを目玉で一瞥し、「ふられたとかよっぱらったとか」と言い、「ごまかしてばっかり」とちいさい声でつづけ、「バッカみたい!」
 さあ、どう解釈したらいいのかな?

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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