物語の概要: (図書館の紹介記事より)
就活の情報交換をきっかけに集まった、拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良。自分を生き抜くために本当に必要なことは何か。影を宿しながら光を探る就活大学生の自意識をあぶりだす、リアルで切実な書下ろし長編小説。
読後感:
就活をテーマの中心にしての物語が存在することに感心してしまう。でもこれって物語の中にも出てくるが瑞月さんが自分の内定祝いで集まった四人の中で満を侍したように口からほとばしり出た言葉にも象徴されるが、小学生が6年で中学生に、そして3年経つと高校生、3年経つと大学生とうつっていくが、それから先は社会人となって後は自分で切り開く以外に変わらない世界に入っていくまさに大きな分岐点にある。だからこそこういう小説も十分に有りうると思える。
四人の就活に対する心構え、どこを面接に行ったのかも同室、同棲の人間にも知らせなかったり、言っていることと裏腹にしらっと受けてみたりと次第に不思議な関係が暴露されたりする。 ツィッターだったり、フェイスブックだったりに自分の行動や考えをアップし、しかも素性を分からない風にしてアップしてみたりと。
しかし時に本音でぶつかり合い、生き様を吐露したり、次第に関係が現れてくる様が結構面白い。
さらに展開がいかにも現代作家らしいちょつとついてゆけないようなパッパッとデジタルな話の展開にとまどったりしてしまう。
しかしラストの方になり、瑞月さんの自分の置かれている環境にしっかりと認識し、素直に反応する姿、光太郎の特権とも言うこだわりのないあっけらかんとした行動、でも忘れられない女性のことを秘めて行動しているロマンを持ちあわせている姿に好感。
一方で肩書きとか経験とかをひけらかし利用するも、決して自分を持たない理香の姿、自分を正当化し、人のことを見下しているような隆良の人間の小ささに辟易。
サワ先輩の度量の深さに好感。
ラストで拓人が理香から強烈な言葉を浴びせられ、面接を受け答えするシーンがあるが採用の通知が来ることはないだろうと暗示するところはショック。それまでの<俺>の中にあった思いは何だったのだろうか。理香の言う”観察者”と言う言葉が響いていた。
印象に残る場面:
瑞月の就活内定祝いで四人が集まった席で隆良に放った言葉:
「最近分かったんだ。人生が線路のようなものだとしたら、自分と全く同じ高さで、同じ角度で、その線路を見つめてくれる人はもういないんだって」
瑞月さんはまっすぐに隆良を見つめている。
「生きていくことって、きっと、自分の線路を一緒に見てくれる人数が変わっていくことだと思うの」
・・・
「今までは一緒に暮らす家族がいて、同じ学校に進む友達がいて、学校には先生がいて。常に、自分以外に、自分の人生を一緒に考えてくれる人がいた。学校を卒業するって言っても、家族や先生がその先の進路を一緒に考えてくれた。いつだって、自分と全く同じ高さ、角度で、この先の人生の線路を見てくれる人がいたよね」
まるで説得するような瑞月さんの声は、誰も話さなくなった部屋の中を満たしていく。
「これからは、自分を育ててくれた家族を出て、自分で新しい家族を築いていく。そうすれば、一生を共にする人ができて、子どもができて、また、自分の線路を一緒に見てくれる人が現れる」
・・・
「私たちはもう、たったひとり、自分だけで、自分の人生を見つめなきゃいけない。」
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