朝井リョウ著 
桐島、部活やめるってよ』

 

              2016-03-25



(作品は、朝井リョウ著 『桐島、部活やめるってよ』  集英社による。)

          
 本書  2010年(平成22年)2月刊行。 第22回小説すばる新人賞受賞作。

 朝井リョウ:(本書より)

1989年5月生まれ、岐阜県不破郡出身。早稲田大学文化構想学部在学中。2009年、「桐島、部活やめるってよ」で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。大学ではストリートダンスのサークルに所属している。

主な登場人物:


<菊池宏樹(俺)>

野球部。別に努力せずとも四番バッター。部活はサボりがち。
サッカーもできるしバスケもうまい。
彼女の紗奈、薄っぺらい女と分かっている。

竜汰(りょうた) 複雑にカールした髪、彼女の作ってくれたミサンガが袖からのぞく。格好いい「上」のグループの宏樹、竜汰、友弘の三人組。放課後バスケをやっている。
紗奈 宏樹の彼女。かわいい、短いスカート、竜汰が羨ましがる。
<小泉風助(俺)> バレーボール部、桐島(バレーボール部キャプテン)と同じリベロ(守備専用選手)。背が低いが運動神経では誰にも負けない。
孝介 バレーボール部副キャプテン。桐島とうまくいっていない。学ランの似合うイケメン、「上」のグループ。彼女は実果。
<沢島亜矢(私)> ブラスバンド部の部長。コンクールが近く、サックスの練習に余念が無いが集中できない。竜汰のことが気に掛かる。
詩織 席替えで隣に来たリベロの風助をかわいいと。亜矢のことを見抜いている。
志乃 竜汰が好きと。気軽に竜汰と呼べるのを亜矢はうらやましい。
<前田涼也(僕)> 映画部の部長。
武文 映画部の副部長。
<宮部実香(私)> ソフト部。孝介のアホっぽさが男子高校生らしくて好き。
できるだけ家に帰りたくない。孝介とケンカ、別れる予感。
梨沙 自分を可愛く見せる技を持っている。桐島の彼女。実果とふたりで孝介と桐島の練習が終わるのを待っているが、桐島が辞めたので・・。
かすみ 中学2年の時涼也と同じクラス。「私、映画好きなの」と、そして一緒に映画を見に行き、かすみと呼ぶ間柄だったが・・。

物語の概要: 

 バレー部キャプテンの桐島が、突然部活をやめた。それがきっかけで、田舎の県立高校に通う5人の生活に小さな波紋が広がっていく…。平成生まれの新星が贈る青春オムニバス小説。

読後感
  

 高校2年生、17歳の青春群像がみずみずしい。底に流れるのはランク付けされる「上」と「下」の見方。彼と彼女の軽い関係、そして異色なのは、<宮部実果>でのお互い再婚夫婦の子連れ親子の切なくも悲しいような、思いやりのある話はたまらない。

 ”桐島、部活やめるってよ”、この話題を織り込みながら野球部の菊池宏樹とつるんでいる「上」のグループの三人組(宏樹、竜汰、友弘)と宏樹の彼女の紗奈、バレーボール部の小泉風助と孝介、日野、ブラスバンド部の部長沢島亜矢と詩織、映画部の部長前田涼也と武文、映画が好きという東原かすみ、ソフト部の宮部実果と絵理香、梨沙のそれぞれの部の活動ぶりから17歳という高校生の生き様が描写されている。

 ラストの<菊池宏樹>の章で高校という守られた世界から放たれたときの自分の生き方について不安を感じ、友達の放つ言葉から相手を軽蔑しながらも、自分も同じであることを思い、イライラする。そして普段は見向きもされないで目立たないところで盛り上がっている涼也と武文の普段とは違うあの自分しか浴びることの出来ないスポットライトを浴びたように光った表情に、ブラスバンド部のあのカラオケ店での迷惑行為に、野球部キャプテンの自分に向けられた言葉に、桐島が部活を辞めた背景にそうなんだと悟る姿が印象的である。

  

余談1:

 映画(テレビでの放送を見てであるが)を先に見てからの読書になったが、映画の方はちょっとよく判らなかった感じであったが、小説の方はやはり個々人の思いが描写されていて文章の表現と共に17歳らしさがあふれていて好ましい。
 上っ面は外見しか格好良さを感じないでいる仲間たちの中に、宏樹のようにそういう連中を可哀想と思うようになった高校生もいることに。

余談2:

「直木賞受賞エッセイ集成」(文藝春秋)に朝井リョウのエッセイが掲載されていた。
「日記をつけると文章を書くのが好きになるんだよ」と言われ小学4年生の頃から毎日、日記を書くようになっていて、変なところで血が疼く自分が決めたことをどうしても破れなくて。
 そして世界でたったひとりの読者であった担任の先生からの感想。卒業間際に原稿用紙百枚ほどの小説を先生に。そして帰ってきたのがいつもの赤ペンでの感想ではなく、3枚の便箋にびっしりと綴られた黒色の文字で。
 先生が、「先生と生徒」ではなく、ひとりの人間同士として、私と向き合ってくれた。そんな風に小説家になるに至る中にはそれ相当のバックボーンがあることを知った。

 

背景画は、水をテーマに。

                    

                          

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