有川浩 『 空の中 』



              2021-11-25


(作品は、有川浩著 『 空の中 』    メディアワークスによる。)
                  
          

 
本書 2004年(平成16年)11月刊行。

 有川浩
(ありかわ・ひろ)(本書より)

 1972年、梅雨生まれ。高知で育ち、進学時に関西へ。現在、ちょっと(かなり)怠惰めの主婦として関西暮らし十有余年目。お国訛りが未だに抜けず怪しいニセモノの関西弁を操る、郷里を語るとちょっぴり熱いプチナショナリスト(県粋主義者)。第10回電撃小説大賞<大賞>受賞作「塩の街」(小社刊)にて作家デビュー。今作がデビュー後2作目となる。

主な登場人物:

斉木瞬
(さいき・しゅん)
父親 敏郎

高知市内の高校生になる瞬、父親のフライト連絡を受け浜に。浜で謎の物体を見つけ、“フェイク”と名付け可愛がる。
・敏郎 自衛官の三佐、妻とは死別、転勤生活から子供の瞬を郷里(高知)の実家に預け、今は岐阜で単身赴任中。編隊長で高度2万メートルに急上昇試験中謎の物体に衝突爆死する。

武田光稀(みき) 斉木敏郎編隊長と高高度への上昇飛行中、機長のF15J炎上を目撃する。女性ながら男勝りの口利き、体育会系。
天野佳江(あまの・かえ) 瞬と隣家の昔なじみ、同じ高校生。真っ直ぐで明朗で善良。姉貴的存在。

宮田喜三郎
<宮じい>

仁淀川(によどがわ)の川漁師、70歳。瞬や佳江の相談役。
瞬の祖父と懇意で、瞬が祖父を亡くしてからは親代わり。

春名高巳(はるな・たかみ) 出身は特殊法人日本航空機設計の技術者、20代後半。「スワローテイル」の事故調査委員会に、岐阜基地に派遣され、[白鯨]との交渉役に抜擢される。
遠田直道(えんだ) 岐阜基地司令。
須藤 斉木敏郎の後、斉木と同期で学生時代からの友人、三佐。
宝田 [白鯨]との交渉に、統幕より派遣されている一佐。
佐久間公亮(きみあき) 同サポート役の生物学者、48歳、教授。
フェイク 瞬が見つけた謎の物体を“フェイク”と呼んだ。
ディック [白鯨]の中で人間からの攻撃を受け分裂した中で、日本政府側の対策本部との窓口となっている生物を指す(人間が名付けた)。
[白鯨] 遠い昔から存在し、平和で静謐な世界を望んだが、攻撃的で競争的な世界になり、「白鯨」たちは寄り集まり、融合して巨大な一つの生物となった。[白鯨]は世界の波長を知覚するようになり、外敵の波長を知覚し、効率的に外敵を回避するようになった。その後の変化の後、上を、上を目指し、高度二万メートルの位置で過ごしていた。

白川真帆(しらかわ)
母親 迪子
(みちこ)

「スワローテイル」事故の遺族。[白鯨]保護反対運動の団体「セーブ・ザ・セーフ」の実質的代表者。瞬より学年が1つ上。
名目上は母親の迪子が代表だが、夫の事故死後、心身共に衰弱し入院中。真帆に対して口を利かない状態が続く。

大村正彦 「スワローテイル」事故の副機長だった人の兄、40歳がらみ。

[補足]
 魔の四国沖、自衛隊機爆発記事:航空自衛隊の航空機爆発の前にも、日本初の民間超音速ビジネスジェット「スワローテイル」1号機の試験飛行も同空域で爆発事故が起きている。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 200X年、2度の航空機事故が人類を眠れる秘密と接触させた…。 秘密を拾った子どもたち、秘密を探す大人たち。 秘密に関わる全ての人が集ったその場所で、最後に救われるのは誰か。

読後感:

 プロローグで、国産輸送機開発プロジェクトとして開発された一号試験機「スワローテイル」の試験飛行が四国沖の自衛隊演習空域で行われ、超音速巡航高度は一万八千メートル以上を前提とされていて、二万メートルに達しようとして機体は爆発炎上したところから始まった。
 その一月後、航空自衛隊岐阜基地からF15Jの二機編隊が飛び立ち、実用上昇限界の二万弱にトライし、ここでも機体は爆発炎上した。

 物語はこの二件の原因調査にあたる対策本部の動きと、実はこの事件に関連する高校生斉木瞬が見つけた謎の生物がミズクラゲの様であり、陸上で生き、言葉も幼稚な言葉ではあるが意思疎通が出来ることから、瞬が“フェイク”と名付けペットのように可愛がることの展開に発展していく。

 謎の生物の相手[白鯨]は、人間より知能的にも優れ、攻撃されたらなすすべがないため、平和裏に治めようと春名高巳を交渉役として活躍する姿がある。
 一方で[白鯨]との平和交渉に反対する団体「セーブ・ザ・セーフ」の実質代表白川真帆との対立としての展開も。真帆は「スワローテイル」での父が機長を務め爆死したその娘で、出発の時の言い争いが原因で、その後母親との間に大きな溝ができていた。

 機長斉木俊郎という父親を失った高校生瞬と、馴染みの天野佳江との感情、交渉役の春名高巳と斉木敏郎機長の爆死を目にして生き残った男勝りの武田光稀との間の感情の駆け引き、はたまた白川真帆の激しく母を憎む(?)感情の裏側など、読者にとって感情移入させるに十分な展開が面白い。
 [白鯨]の設定も未来を予想させるに機に富んだ設定でおもしろい。
 果たして、人類と[白鯨]との未来はどう展開することになるのか。 ラストまで引き込まれた。


余談:

 本作品の前に読んだ「塩の街」に次いで「空の中」はデビュー第2作目という。
「図書館戦争」(2006年)、「阪急電車」(2008年)や「県庁おもてなし課」(2011年)、「空飛ぶ広報室」(2012年)など読んでいたが、次第に内容が変化していったと感じられることが判る。 同じ著者作品を読むことも楽しいものだ。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
戻る