<主な登場人物>
空井大祐
(そらいだいすけ)
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防衛省航空幕僚監部広報室へ転属の新人。ブルーインパルスへの夢は不慮の交通事故でパイロットの資格剥奪。29歳の4月に辞令で広報室に。航空学生からの入隊で防衛大の風習は知らない。 |
広報室メンバー |
・鷺坂(さぎさか)正司一佐室長 空幕にちょっとおもしろい広報室長がいるとの噂。詐欺師の威名通り・・。ミーハー室長。
・片山和宣(かずのり)一尉(幹部) 空井より階級一つ上。
防衛大卒、仕事は荒っぽく、人に融通を求めすぎるきらいあり。
・比嘉(ひが)哲広一曹(下士官) 空井より5つ年上、若い頃より広報志し、広報歴12年空自広報のエキスパート。
・槇博巳(ひろみ)三佐 防衛大卒。柚木の2年後輩、同じ剣道部で柚木との交流有り。広報室では柚木のご意見番的役割。
・柚木典子三佐 紅一点。まるで美人の皮をかぶったオッサン。防衛大卒、女性幹部であることから、省内での挫折を味わい、鷺坂に引き取られる。槇との再会では昔の面影ではなかった。
・木暮広報班長、夏海報道班長
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稲葉リカ |
帝都テレビの記者。元はサツ廻りの記者、今はディレクターとして長期取材ネタ探しで防衛省広報室に出入り。
記者時代は突撃取材で相手の感情など逆撫でしてでも割り切りで乗り切り、局の評価も高かったが・・。ディレクターに配置換えでその性格は相手方との摩擦に・・・。
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<作品の概要> 図書館の紹介より
不慮の事故でP免になった戦闘機パイロット空井大祐29歳が転勤した先は、防衛省航空自衛隊航空幕僚監部広報室。待ち受けるのはひと癖もふた癖もある先輩たちだった…。有川浩、渾身のドラマティック長篇小説。
<読後感>
「県庁おもてなし課」ではお役所というまだ馴染みの対象であったが、今回は自衛隊というちょっと引けてしまえる場所での物語。挫折を味わった若者空井が配属されたのが航空自衛隊の空幕広報室。しかも日もまだ浅い時にテレビ局から長期取材で出入りする稲葉リカなる攻撃的で挑発的な発言の持ち主のアテンド役。
彼女も実は傷を負っている事情があった。果たしてうまくいくのか。
登場する人物も一癖も二癖もある猛者連中。自衛隊と言うところも階級がきちんと別れていて、位を付けて呼び合うのはいかにもという感じ。幹部と下士官の立ち位置は厳しいもの。その中で室長の開けっぴろげでミーハーな所が空気を和ませ、調和が取れている。それに比嘉一曹のベテラン広報の下士官の力が広報室を支えている。
片山の性格、比嘉との関係、柚木と槇の関係、空井と稲葉リカとの関係、室長の豪放磊落な振る舞いと引きつける要素が満載。気軽に読み進む内に・・・
◇ 印象に残る表現:
最後の章「あの日の松島」で3.11の東日本大震災で被害を受けたブルーインパルス母基地である航空自衛隊松島基地を訪れた稲葉リカが空井と交わすやりとり:
「自衛官をヒーローにして欲しくないな、と思います」・・「震災後、すごく自衛隊がクローズアップアップされた時期がありましたよね」・・・
「それ、何か問題があるんでしょうか?」・・・
「僕たちに肩入れしてくれる代わりに、僕たちの活動が国民の安心になるように伝えて欲しいんです」・・・
「自衛官の冷たい缶メシが強調されて、国民は安心できますか?被災者のごはんも同じように冷たいのかって心配しちゃうでしょう? 自衛官の缶メシが冷たいのは、被災者の食事を温めるために燃料を節約してるからです。僕らが冷たい缶メシを食べていることをクローズアップするんじゃなくて、自衛隊がいたら被災者は温かいごはんが食べられるということをクローズアップして欲しいんです。自衛隊は被災地に温かい食事を届ける能力があるって伝えて欲しいんです。それはマスコミの皆さんにしかできないことです」
取材対象に寄り添うことは決して間違いではない。寄り添おうとすれば理解が生まれる。理解があれば報道は公正さを保つ。だが、それはスタートラインでしかない。
ゴールにいる視聴者に向けて、自分たちは電波を放つのだ。
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