有川浩著 
                  『空飛ぶ広報室』 





                 
2013-05-25



  (作品は、有川浩著 『空飛ぶ広報室』 幻冬舎による。)

          

 
 本書 
2012年(平成24年)7月刊行。

有川浩(ありかわひろ):(本書より)

 高知県出身。「塩の町」で電撃小説大賞を受賞し2004年デビュー。「図書館戦争」シリーズをはじめ、「阪急電車」「三匹のおっさん」「シアター」「キケン」「ストーリー・セラー」「県庁おもてなし課」など著書多数。「ダヴィンチ」(2012年1月)<BOOK OF THE YEAR 2011 総合編>で「県庁おもてなし課」が第1位を獲得、<好きな作家ランキング 女性編>でも第1位など、幅広い世代から支持される。演劇会でも様々な取り組みを見せている。
 

<主な登場人物>
 

空井大祐
(そらいだいすけ)

防衛省航空幕僚監部広報室へ転属の新人。ブルーインパルスへの夢は不慮の交通事故でパイロットの資格剥奪。29歳の4月に辞令で広報室に。航空学生からの入隊で防衛大の風習は知らない。
広報室メンバー

・鷺坂(さぎさか)正司一佐室長 空幕にちょっとおもしろい広報室長がいるとの噂。詐欺師の威名通り・・。ミーハー室長。
・片山和宣
(かずのり)一尉(幹部) 空井より階級一つ上。
防衛大卒、仕事は荒っぽく、人に融通を求めすぎるきらいあり。
・比嘉
(ひが)哲広一曹(下士官) 空井より5つ年上、若い頃より広報志し、広報歴12年空自広報のエキスパート。
・槇博巳
(ひろみ)三佐 防衛大卒。柚木の2年後輩、同じ剣道部で柚木との交流有り。広報室では柚木のご意見番的役割。
・柚木典子三佐 紅一点。まるで美人の皮をかぶったオッサン。防衛大卒、女性幹部であることから、省内での挫折を味わい、鷺坂に引き取られる。槇との再会では昔の面影ではなかった。
・木暮広報班長、夏海報道班長

稲葉リカ

帝都テレビの記者。元はサツ廻りの記者、今はディレクターとして長期取材ネタ探しで防衛省広報室に出入り。
記者時代は突撃取材で相手の感情など逆撫でしてでも割り切りで乗り切り、局の評価も高かったが・・。ディレクターに配置換えでその性格は相手方との摩擦に・・・。


<作品の概要> 図書館の紹介より

 不慮の事故でP免になった戦闘機パイロット空井大祐29歳が転勤した先は、防衛省航空自衛隊航空幕僚監部広報室。待ち受けるのはひと癖もふた癖もある先輩たちだった…。有川浩、渾身のドラマティック長篇小説。

<読後感>

「県庁おもてなし課」ではお役所というまだ馴染みの対象であったが、今回は自衛隊というちょっと引けてしまえる場所での物語。挫折を味わった若者空井が配属されたのが航空自衛隊の空幕広報室。しかも日もまだ浅い時にテレビ局から長期取材で出入りする稲葉リカなる攻撃的で挑発的な発言の持ち主のアテンド役。
 
 彼女も実は傷を負っている事情があった。果たしてうまくいくのか。
 登場する人物も一癖も二癖もある猛者連中。自衛隊と言うところも階級がきちんと別れていて、位を付けて呼び合うのはいかにもという感じ。幹部と下士官の立ち位置は厳しいもの。その中で室長の開けっぴろげでミーハーな所が空気を和ませ、調和が取れている。それに比嘉一曹のベテラン広報の下士官の力が広報室を支えている。

 片山の性格、比嘉との関係、柚木と槇の関係、空井と稲葉リカとの関係、室長の豪放磊落な振る舞いと引きつける要素が満載。気軽に読み進む内に・・・

  印象に残る表現:

 最後の章「あの日の松島」で3.11の東日本大震災で被害を受けたブルーインパルス母基地である航空自衛隊松島基地を訪れた稲葉リカが空井と交わすやりとり:

「自衛官をヒーローにして欲しくないな、と思います」・・「震災後、すごく自衛隊がクローズアップアップされた時期がありましたよね」・・・
「それ、何か問題があるんでしょうか?」・・・
「僕たちに肩入れしてくれる代わりに、僕たちの活動が国民の安心になるように伝えて欲しいんです」・・・

「自衛官の冷たい缶メシが強調されて、国民は安心できますか?被災者のごはんも同じように冷たいのかって心配しちゃうでしょう? 自衛官の缶メシが冷たいのは、被災者の食事を温めるために燃料を節約してるからです。僕らが冷たい缶メシを食べていることをクローズアップするんじゃなくて、自衛隊がいたら被災者は温かいごはんが食べられるということをクローズアップして欲しいんです。自衛隊は被災地に温かい食事を届ける能力があるって伝えて欲しいんです。それはマスコミの皆さんにしかできないことです」

 取材対象に寄り添うことは決して間違いではない。寄り添おうとすれば理解が生まれる。理解があれば報道は公正さを保つ。だが、それはスタートラインでしかない。
ゴールにいる視聴者に向けて、自分たちは電波を放つのだ。

   

余談1:
 
 ちょうど本作品を読んでいる時に、NHKのおはよう日本に、人気小説家有川浩さんが“演劇挑戦でめざすもの”として、「旅猫リポート」小説の演劇練習風景でその様子が放送されていた。小説ではせりふの合間に説明が入っているのが、舞台ではせりふだけなのでその間の心情や情景説明をどのように表すか。それは出演者とのやりとりで脚本を創造していくことが楽しみと。

 また、作品の登場人物はごく普通のおっさんとかお母さんとか、サラリーマンとかごく普通の人を取り上げることを主眼にしているむねの話。なるほどこういう作家さんだったのかと。そして女性であることが判ったことも新鮮だった。

余談2:

 TBSで奇しくもドラマが放映されている。先日は防衛大学のシーンがあったが、以前防衛大学の体育祭(?)かなにかで構内が一般公開されて、入ったことがあり懐かしかった。その時の、隊員100名一組(攻撃と守り各50名)で相手と対戦する騎馬戦があり、その迫力に感動した。人間の集団のたくましさ、肉声の素晴らしさ、勇壮さに圧倒されたことが印象深い。

      背景画はTBSで放映されている同名小説の作品から。戦闘機類の格好良さもあるが、こちらのシーンにした。             

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