有川浩著 
                    『阪急電車』 






                 
2012-07-25



  (作品は、有川浩著 『阪急電車』 幻冬舎による。)

          


 初出 「パピルス」11号〜16号に掲載されたものに折り返し分を書き下ろしたもの。
 本書 2008年(平成20年)1月刊行。


有川浩(ありかわひろ):(本作品の記述より抜粋)

 高知県生まれ。 第10回電撃小説大賞「塩の街wish on my precious」で2004年デビュー。 2作目の「空の中」が恩田陸 ・ 大森望はじめ読書界諸氏より絶賛を浴び、 「図書館戦争」シリーズで大ブレイク。
 他著作に「シアター!2」「フリーター、家を買う」「植物図鑑」等がある。

 

<主な登場人物>
 
翔子(しょうこ) 有名企業に勤務。職場での結婚相手を寝取られ、相手の結婚式に白のドレスを着て討ち入った、気性は激しいがスカッとした気性の女性。

征志(マサシ)
ユキのカップル

お互い図書館で本の争奪戦をしている相手。武庫川の鉄橋の瀬に『生』の文字が描かれていることで会話が始まる。

時江
孫 亜美

数年前夫を亡くした老婦人。“世間一般の規準とはちょっとずれている”と自称する、機知に富んだ女性。

ミサと
カツヤのカップル

普段は優しいのに、すぐにキレて暴力を振るうカツヤに、時江は「下らない男ね」「やめておけば?苦労するわよ」と。

悦子
頭のバカな社会人

悦子は高校生、頭のバカな社会人の彼のことを、電車の中でオープンに友達に語りながらも、自分を大事にしてくれていることに気持ちが・・・。

小坂圭一と
権田原美帆のカップル

同じ大学1年生の二人。軍オタクの圭一と、自分の名前の権田原がトラウマの美帆。お互い田舎育ちで意気投合。
伊藤康江 中学校のPTAの頃から、自分の身の程と違って仕方なく付き合っているおばさん連中と決別することに。
ショウコ

同じ中学生の女の子の集団からいじめを受けている女の子。
翔子が声を掛け同じ名前であることが判る。翔子はこの女の子から人生の機微を味わう。


<作品の概要> 図書館の紹介より

 恋の始まり、別れの兆し、そして途中下車…。8駅から成る、片道わずか15分間の阪急電鉄今津線で、駅ごとに乗り降りする乗客の物語。人生の決定的な瞬間が鮮やかに描かれた傑作。「図書館戦争」著者の最新刊。

<読後感>

あとがきで、著者が阪急今津線に住むということで出来上がった作品である。かくいう自身も、昔この沿線の近くにある津門小学校に通っていたことから、この線がすぐ近くを走っていて懐かしさがほとばしってきた。その線の名前と懐かしい阪急電車の姿が。さらに先日テレビで映画の「阪急電車」が放映されていて、それでこの作品を知った。

 電車の中、ここにも様々な人生の縮図が隠れていて、その断片をつなぎ合わせればおもしろい作品が出来るとは思え、それが見事に映し出されているようで拍手喝采。
 なかでも翔子と時江という老婦人のやりとりが、人生のもろもろを感じさせる話で心に残る。傷心の気持ちを味わいながらも、一本打ち返し、その傷を乗り越え、切り捨てて新たに挑戦していく姿は、痛みを分かる人間として、さらに成長する魅力のある人間になって行くに違いないと思える。

 伊藤康江という主婦と隣りに居合わせたミサという女性との話も、同じような感じを持っているため、すごく共感する所である。どうも年齢のせいで身につまされる話に共感する所が多い。

 一方、若い人たちのほほえましい話にも大いに喜ばしいと感じてしまう。なかでも悦っちゃんという女子高生の、年上の彼氏との話は爆笑してしまい、おそらく車内でこんな会話を聞いてしまったらくすくす笑ってしまうに違いない。

 作品に登場する人物たち、映画を見ていなかったらすぐにあぁあの人物かと、頭にのぼってこないかも知れないが、映像で人物の様子が残っていたため、ぴんときて内容にのめり込むことが出来、この場合は先に映画を見ていたことが良かったようだ。
 それにしても翔子役の中谷美紀、時江役の宮本信子の感じがぴったりで、いかにもありそうと感心した。 


<印象に残る表現>

 女子大生が伊藤康江に放つ言葉:

「価値観の違う奴とは、辛いと思えるうちに離れといたほうがええねん。無理に合わせて一緒におったら、自分もそっち側の価値観に慣れてしまうから」

   
余談:
 何気ないごく普通のシーンで日頃感じていることを、こんな風に描写されたのを読むと、共感して感動してしまう。有川浩という作家はそんな存在の作家かな。
 

         背景画は阪急電車のホームページにある、映画撮影風景のフォトより。             

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