有川浩 『明日の子供たち』



              2020-07-25


(作品は、有川浩著 『明日の子供たち』      幻冬舎による。)
                  
          

  本書 2014年(平成26年)8月刊行。書き下ろし作品。

 有川浩:
(本書による)  

 1972年高知県生まれ。「塩の街」で電撃小説大賞(大賞)を受賞し、2004年デビュー。同作と「空の中」「海の底」から成る自衛隊三部作、「図書館戦争」シリーズをはじめ「阪急電車」「植物図鑑」「空飛ぶ広報室」「旅猫リポート」等著書多数。映像化された作品も多く、幅広い世代から支持を集めている。また俳優の阿部丈二と演劇ユニット(スカイロケット)を結成し、「旅猫リポート」「ヒア・カムズ・ザ・サン」の舞台化を自ら手がけるなど、演劇の世界へも挑戦の幅を広げている。

主な登場人物:

[児童養護施設の人々] 「あしたの家」 90人の子供が住んでいる。

三田村慎平
<慎平ちゃん>

10月という半端な時期にひとりぽつんと着任、26才。元営業マン。何でも思ったまま口にする若者。慎平にとって和泉は錨。

和泉和恵
<いずみちゃん>

三田村慎平の指導役、慎平より1つか2つ年上。子供たちから慕われている。「あしたの家」に就職したのは25才の頃。
和泉にとって猪俣は羅針盤。

猪俣吉行
<イノっち>

40がらみの痩せすぎの男性職員。陰気な様子だが、ああ見えて意外とフレンドリー、10年のベテラン。
福原政子 施設長。ふくよかな年輩女性。厳しいこと言うのは不得手。
梨田克彦 副施設長。規則重視で厳しい。

谷村奏子(かなこ)
<カナ>

高校二年生、小柄でやせっぽち。聞き分けのいい子の女子代表。
3の時施設に。母子家庭で母親の児童放棄。
慎平ちゃんの着任動機挨拶について怒る。
・母親はホステス勤め。恋人に入れあげて生活荒れ。

平田久志
<ヒサ>

猪俣の受け持ちの、問題のない子の男子代表。高校二年生。カナより1年先輩。カナとよく話し合っている。
幼い頃に両親の暴力で強制保護された。誰も頼れない、自分で考えるしかない。

坂上杏里(あんり)
<杏里>

谷村奏子と同室。門限破りの常習犯。ヒステリーを起こす。
施設出身のこと、高校では隠している。

真山欣司(まやま・きんじ) 児童福祉連盟が運営する正規の退所後支援施設 “サロン・ド・日だまり”の常駐職員。
度会一(わたらい・はじめ) 施設出身者で“日だまり”によく遊びに来る。和泉の高校時代の同級生。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 児童養護施設に転職した元営業マンの三田村慎平は、やる気は人一倍ある新任職員。愛想はないが涙もろい3年目の和泉や、理論派の熱血ベテラン猪俣たちに囲まれて繰り広げられる、ドラマティック長篇。

読後感:

 情報処理系の資格を持ち、3年ほど営業畑を経験している三田村慎平は、10月という半端な時期にひとり[あしたの家]にぽつんと着任してきた。そして子供達への挨拶で動機を語ったが、施設内では聞き分けのいい子の代表とも言える谷村奏子(ニックネーム=カナ)に壁を作られてしまう。そんな慎平の指導役の和泉和恵は、猪俣先生(ニックネーム=イノっち)を羅針盤として、猪俣と意見が違った場合悩んでしまう。猪俣先生は陰気な顔で取っつきにくそうに見えるが、ベテランらしく何事にも相談に乗り、子供たちからも信頼されている。

 子供たちはカナと仲の良い問題のない子の男子代表とも言える平田久志(ニックネーム=ヒサ)、そしてカナと同室で門限破り常習犯の坂上杏里は学校では施設出身を隠し、時にヒステリーを起こして職員を悩ませている。
 
 登場人物を絞り、その間で起こる様々な出来事が丁寧に描写されていく。
 中でも何でも思ったまま口に出してしまう三田村の存在は規則で動く体制や常識で行われる日常に様々な波風を起こすことに。

 最初三田村がカナに「慎平ちゃん」とニックネームを付けてもらえたのに、挨拶の発言によりカナに壁を作られて「慎平ちゃん」と呼ばれないエピソード。
 和泉先生がこの施設に就職したいきさつで、好きだった男の子に投げた一言が、後になって猪俣先生が言っていた「男は格好をつけたがるもの」と実感するシーン。

 猪俣先生が普段は温厚な人でありながら、副施設長とのバトルで、以外にも武闘派であったこと。
 児童養護施設の退所後の受け皿が実はなくて、サロン・ド・日だまりの真山さんが元商社マンで給料も三分の一になるのに会社を辞めて、ひとり常駐職員として守っている姿に対し、経費削減で廃止論がでていることに、「こどもフェスティバル」の発表会でのカナの発表内容など。
 読みどころ、感じるところ、面白さいっぱいの作品である。
 子供たちに、大人たちに是非読んで欲しい。


余談:

 作品中“ツンデレ”という言葉が三田村から猪俣先生に告げられ、意味が述べられないままになっていたので調べてみた。
・ツンデレとは特定の人間関係において敵対的な態度と、過度に好意的な態度のふたつの性質を持つ様子、またはそうした人物を指す。
・ツンとした敵対的な態度。デレデレとした好意的な態度の二面性のこと。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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